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( ^ω^)がリプレイするようです

1 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:06:55.28 ID:DaCxO4/+0
すみません。本当にすみません。
ごめんなさい。自分勝手な作者を許してください。
避難所に投下していたのですが、
叩かれるのを覚悟でVIPでの投下に切り替えさせてもらいます。

まとめサイト様
http://vip.main.jp/152-top.html

今回は、まとめがまだなされていない六話から七話までを投下します。

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:09:02.66 ID:KZnvY8Hq0
ドクオが死んでからか……
wktk

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:11:32.84 ID:AMWX7Ll90
この過疎さにわろたwwwwwwwwwwww

4 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:12:44.45 ID:DaCxO4/+0
>>2
すいません。オムライスさんが忙しいようでまだまとめられていないので
そのシーンから始めようと思います。

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:12:47.29 ID:X5+EcVNj0
と、とんでもないやつがきちまったぁ……

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:13:13.74 ID:8NBGtLKLO
ちょwww作者www
wktk

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:13:57.93 ID:DaCxO4/+0

Scene 6 :一九四五年三月、硫黄島


『者が、物になった重さ。それが骨身を軋ませ、胸を潰した。
清永、と呼びかけた声は声にならず、甲板にこぼれ落ちた御守りを拾うこともできずに、
征人は同期の――この世に二人といない親友の死に顔を、ただ見下ろした』

                           「福井晴敏 終戦のローレライV『第四章』」


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:14:23.77 ID:8NBGtLKLO
支援

9 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:15:00.78 ID:DaCxO4/+0



――

―――


「ブーン……起きてるか?」


暗がりの中で声がした。
嗚呼、分かる。分かるぞ。遠い昔に失った戦友の声。

同時に五感が目覚め始める。異常なまでに高い湿気と
汗や火薬、糞尿やかすかな硫黄臭が混じりあったなんともいえない強烈な臭気。

鼻でそれらを吸い込んで、内藤は一気にむせた。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:15:16.01 ID:9/khyZDBO
待ってたよ

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:15:54.80 ID:X5+EcVNj0
今からまとめ読んでくるわ

12 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:15:54.90 ID:DaCxO4/+0

(;^ω^)「げほっ! ごほっ!! すごいにおいだお……」

('A`)「俺はもうとっくに慣れちまったよ。お前も早く慣れろよ……」

咳き込みながら涙目であたりの様子を伺う。
暗い穴倉。ロウソクの光だけが照らすその中で、
若かりし内藤とドクオは壁に背を預け、むき出しの地べたに座っていた。

( ^ω^)「ここは……通路かお?」

('A`)「当たり前だろ?
   俺らみたいな下っ端で無傷な奴らが個室で寝られるわけないだろう……常識的に考えて」

( ^ω^)「おお……それもそうだお」

とりあえず、自分が硫黄島の地下壕の中に潜伏しているのは分かった。
外は静かだ。米軍は夜に攻撃することは基本的にしない。ということは、今は夜と考えて妥当だろう。

では、今はいつなのだ?

生前の記憶を頼りに、ブーンは現在地の割り出しにすべての意識を集中させた。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:16:04.27 ID:8NBGtLKLO
支援

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:16:37.14 ID:4ksXKL1v0
アフロたぁぁあぁぁんっ!!!!!!

15 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:17:13.05 ID:DaCxO4/+0

                  *

硫黄島で内藤が配属されたのは北方の地下壕。
一方、米軍が島の南側から上陸。北に向かって侵攻していった。

硫黄島本部から出ていた命令は配属された地下壕の死守。
よって、前線でない北方の地下壕にいた内藤とドクオは、しばらくの間戦闘を経験しなかった。

しかし米軍は着実に島南部を制圧。
逃げ延びた兵隊や負傷兵が内藤たちの壕に逃げこむようになり、
それに続けと言わんばかりに米軍の攻撃が北方の内藤たちの地下壕にも押し寄せるようになった。

初めて自分の地下壕を攻撃されたとき、内藤は身体を縮こまらせて震えながら泣いた。
雷が自分の真上に落下したかのような振動と轟音。
身体の奥底まで恐怖が押し寄せ、一歩たりとも動くことが出来なかった。

やがて米軍の攻撃がひと段落すると、上官から

『地下壕の数ある入り口のひとつから顔を出し米兵を狙撃せよ』

との命令が、内藤とドクオに下される。

ミ,,゚Д゚彡「ゆけ! 一人でも多くの米兵を殺すのだ!!」

上官の命令は絶対。逆らえば銃殺。
震える身体を鼓舞して内藤はドクオのあとに続き、指定された地下壕の入り口から顔を出した。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:17:53.20 ID:8tkh5GaKO
なんで切り替えた?
wktk

17 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:18:55.77 ID:DaCxO4/+0

( ;ω;)「怖いお……怖いお……」

('A`;)「まったくだ。やってらんねーよな」

入口から外を眺めると、数台の戦車を率いて米兵が周囲を闊歩していた。
相手はこちらに気づいていないようで、今ならば新兵の二人にでも狙撃が出来そうだった。
しかし結局、内藤とドクオは一発も発砲することはなかった。

('A`)「発砲すれば俺たちの居場所がばれる。そしたら手榴弾や戦車のいい的になっちまう。
   ここは黙って潜んでいるのが正解だな」

恐怖で頭の回らない自分とは対照的に、ドクオは落ち着いた様子で自分の意見を述べる。
内藤は震えながらドクオの言葉に黙って従うだけだった。

やがて夜が訪れ、米兵の姿はどこかへ消えた。
生きている安堵感をかみ締めながら上官の下へ戻ると、二人は衝撃的な命令を下される。

ミ,,゚Д゚彡「お前たち二人は明日の朝この壕を離脱! 独自に作戦を展開し、米兵を根絶やしにせよ!!」

(;゚ω゚)「……そ、そんな」

おもわず反論しかけた内藤を制し、ドクオは敬礼をして言った。

('A`)「了解しました! 我々はフサギコ大尉のご命令どおり
   明日の早朝、この地下壕から離脱し、たとえこの見が朽ち果てようとも鬼畜米兵を根絶やしにします!!」

ミ,,゚Д゚彡「うむ! 貴君らの健闘を祈る!! では解散!!」

事実上の死刑宣告だった。

18 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:20:14.58 ID:DaCxO4/+0

『敵軍を向かいうち、殲滅せよ』

過去の戦闘、特に南方戦線と今回の硫黄島戦線において、大営本部から下された命令はほぼ同じ。
しかし、ただ一点において異なる点があった。

それは『特攻』という二文字。

これまでの戦闘、特に南方戦線においては
どうしても勝てない場合に限り『特攻』もしくは『散華』という選択肢が許されていた。
『生きて虜囚の辱めを受けることなかれ』の精神である。
つまり、死と言う名の逃げ場が南方戦線の兵士たちには残されていたのである。

しかし、硫黄島戦線においてそれが許されることはなかった。

最後の最後まで戦い抜くことだけが求められた。
硫黄島が陥落することは、米軍の本土上陸を可能にするも同義。
そのため、『死ぬまで基地を守り戦いぬけ』との命令が内藤たちには下されていたのである。

硫黄島の兵たちは自ら死ぬことすら許されず、迫り来る恐怖の中で地下に身を潜めていた。

そんな中で上官が下した命令。
裏を返せば『特攻』と同義だった。
許されていないはずの『特攻』。それを上官は命令したのだ。

それはつまり日本軍の命令系統の、いや、日本軍そのものの崩壊を意味していた。


19 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:21:14.05 ID:DaCxO4/+0

                  *

('A`)「日本は負ける。俺はフサギコ大尉の命令でそれを確信した」

生前の記憶を回想していた内藤の耳に入ってきたドクオの静かな声。
懐かしいその声に、内藤は自分の現状を把握した。

今自分がいる時間は、フサギコ大尉にあの命令を下され特攻する前の最後の夜。
そして、ドクオが死ぬ直前の最後の夜。
ここで彼は、ドクオと生涯忘れ得ない会話を交わすことになるのだ。

('A`)「大方、口減らしをしたかったんだろう。
   地下壕に潜伏して戦うには食料の温存が不可欠だからな。それは分かる。
   だけど本部からの命令で『特攻』は許されていない。しかしフサギコ大尉は特攻と同じことを命令した。
   日本軍はもう崩壊したも同然だ。ここの日本軍はもはや統率の取れていないゲリラと一緒だよ」

誰にも聞かれることのないよう、ドクオは声を潜めて言う。
ロウソクの頼りない炎がわずかに揺らめいた。

('A`)「それに見ただろう? あの圧倒的な物量差をよ。
   広大な太平洋を越えてあれだけの兵器をここまで持って来るんだ。米軍に日本が勝てるわけがねぇ」

内藤はドクオの顔を見た。
ロウソクのわずかな明かりに照らされたその顔には、場違いな笑みが浮かんでいた。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:21:24.41 ID:Gp0d41QoO
避難所で見たから普通に支援

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:21:29.67 ID:8NBGtLKLO
支援

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:22:02.03 ID:8NBGtLKLO
支援

23 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:22:52.07 ID:DaCxO4/+0

('A`)「だけどな、俺はあんな馬鹿げた命令に従ってみすみす死ぬつもりはねぇ」

( ^ω^)「……米軍に降伏する気かお?」

ささやかれた内藤の声に、ドクオは驚愕の表情を浮かべて眼を見開いた。

('A`;)「……よく分かったな」

( ^ω^)「まあいろいろと事情があるんだお」

そう言って内藤はにやりと笑った。

今でこそ当たり前の考え方かと思えるかもしれないが、
ドクオの考え方は当時の日本人としてはあまりに異端なものであった。

国賊的な考え方といっても差し支えない。当時の日本人にとって、
国のために戦って死ぬことが美徳であり、生き残ることはまさに生き恥を晒すことであった。

この精神が日本の強さでもあり弱さでもあった。
優秀な兵士や戦艦、戦闘機のパイロットはこの精神のもとに戦い、戦果をあげ、そして死んでいった。

しかし、そんな国家的な考え方にドクオは確固たる信念で反逆していた。

もちろんそのことを表面上見せないところが彼のすごいところだと内藤は考えていたが、
それ以上に、ただ周囲に流され漠然と死ぬことが美徳だと考えていた自分が
恥ずかしくなるくらいの芯の通った彼の意志にこそ、内藤はただただ感服していた。

そしてこれから聞かされるであろうドクオのその言葉に、内藤は救われるのである。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:23:15.26 ID:8NBGtLKLO
支援

25 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:24:36.99 ID:DaCxO4/+0

('A`)「俺さ、前にも話したけど……九州の福岡で生まれたんだ。
   六人兄弟の長男でさ、親父とお袋は毎日遅くまで安い賃金で働いて俺たちを育ててくれた。

   金もないくせに俺や弟や妹たちを全員学校にやってさ。俺をここまで育ててくれた。
   だから俺も学校からすぐに帰って弟や妹の面倒をみてきたんだ。親に対するせめてもの恩返しさ。
   下のガキ達もわがままを言わない出来たガキでな。お互いに支えあって一生懸命生きてきた」

('A`)「そんで俺も徴兵されてさ。
   最後の夜、親父とお袋は俺のためにパイナップルを用意してくれたんだ。
   知ってるか? パイナップルってめちゃめちゃ高いんだぜ?

   俺はもちろん断ったよ。 俺なんかより育ち盛りの弟や妹たちに食わせたかった。
   だけどそんな俺の申し出を断ってさ、弟や妹たちは俺に食えって言うんだ。
   俺は……泣きながらそれを食べたよ。……うまかった。すげーうまかったよ」

懐かしそうに語るドクオの目がにじんで見えるのは、きっとロウソクの光がゆらめいたからだろう。
彼は懐に手を入れると、そこから紙で出来たちいさな御守りを取り出した。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:24:46.91 ID:8NBGtLKLO
支援

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:25:29.00 ID:KZnvY8Hq0
支援

28 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:25:34.76 ID:DaCxO4/+0

('A`)「これさ、訓練所に向かう列車に乗る前に、そら……俺のすぐ下の妹がくれたんだ。
   『兄さん、必ず生きて帰ってきてくれ』って言ってな。その一言で俺は決めたんだ。

   誰を裏切ろうと、誰に恨まれようと、俺は生きて故郷に帰る。
   帰って親父とお袋に恩返しするんだ。そして、弟や妹たちを幸せにするんだ」

誰にも聞かれないように話すその声には本当に小さく、だけどなぜかしっかりと耳に入ってくる。
ドクオはゆっくりと顔を上げた。

('A`)「だから俺は生き残るためになら米軍にだって降伏してやる。どんな拷問にも耐えてやる。
   日本に帰って国賊だって罵られようとも、俺は必ず生きてあいつらのもとに帰るんだ」


29 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:27:40.38 ID:DaCxO4/+0

生前、はじめの人生でこの話を聞いた内藤はどんなことがあっても生き延びると心に誓った。
ドクオと同じように、自分の故郷で待つ家族と、幼馴染のために生きて帰ると誓ったのだ。

そんな決心をくれたドクオは、この瞬間、内藤にとって命の恩人といっても差し支えない存在となった。
しかしそんなドクオは死に、彼になんの恩返しも出来ないまま内藤だけがおめおめと生き延びてしまう。

それが時の用意したシナリオ。
しかし、今の内藤にはそれを書き換えることが出来るチャンスを得ている。

時の番人が与えてくれたやり直しという名のペンを握り、
内藤は今、運命と言う名のシナリオを書き換えるためにこの時代へとやってきたのだ。

これからの自分の行動しだいで、ドクオは生きもするし、死にもする。
その重みが内藤の心にのしかかり、彼の身体をわずかに震わせる。

だけど、その重圧から逃れるわけには行かない。内藤はうつむいて、ゆっくり、深く息を吸った。

('A`)「……なあ、ブーン。一緒に米軍に投降しないか?」

息を潜めたドクオの声が内藤に届く。その声に、内藤は静かに顔を上げた。
わずかな笑みを浮かべた内藤は、自分の懐に手を差し入れた。

そこから取り出したのは黒色の体にロウソクの光をまとわせる一丁の銃で、
その口をゆっくりとドクオに向ける。

差し金を引く音が暗がりの地下通路を渡る。銃弾が装てんされた。

まさかの光景にドクオの眼が一瞬にして見開かれたが、それでも内藤はたずねないわけにはいかなかった。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:27:58.21 ID:8NBGtLKLO
支援

31 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:28:54.92 ID:DaCxO4/+0

( ^ω^)「ドクオ……たとえ生きて故郷に帰っても、僕たちの前には様々な悲しみが立ちふさがるお。
     世界は僕たちに優しくはないお。それでも君に、未来を生きる覚悟はあるのかお?」

('A`;)「ブーン……お前、いったいなにを……」

( ^ω^)「これからこの壕に向けて米軍の爆撃が始まるお。
     僕たちはここを脱出し、米軍に投降しようとするお。
     そして入り口に差し掛かったそのとき、君は崩れ落ちた土砂に潰されて死ぬお」

('A`;)「オマエはいったいなに言ってるんだ……」

そのとき、地下壕に強烈な爆撃音と振動が響いた。
震える地面と空気に揺られながら、ドクオは信じられないといった顔をする。

('A`;)「う、嘘だろ!?」

天井からパラパラと小石が降りそそぎ、反射的にドクオは身をかがめた。
しばらくして振動がやみ、ドクオは恐る恐る顔を上げる。

内藤の銃は依然としてドクオに向けられたままだった。


32 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:29:52.41 ID:DaCxO4/+0

( ^ω^)「さあ、答えるお、ドクオ。
     もし君にその覚悟がないなら、僕はここで君を殺すお。そのほうが君にとって幸せだからだお。
     だけど、もしも生きていく覚悟があるのなら、僕は全力で君の未来を切り開くお。
     そのために僕はこの時代に戻ってきたんだお。君に恩返しをするために僕は今、ここにいるんだお」

内藤は引き金を遊びのぶんだけ軽く引いた。
あとわずかでも引き金を引けば、すべてが終わる。

二人の間を流れる静かな緊迫感の中で、ドクオの双眸は確かな光をたたえてこちらを見据えていた。

('A`)「……あるに決まってるだろ」

( ^ω^)「そう言うと思ってたお」

怒っているようにも聞こえるドクオの憮然とした声。
その声に満足した内藤は銃をおろし、にっこりと微笑んだ。そして、最後にたずねた。

( ^ω^)「ドクオ、なんで君は自分の考えを僕に話してくれたんだお?
     僕が上官に密告するなんてことは考えなかったのかお?」


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:31:19.43 ID:8NBGtLKLO
支援

34 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:31:24.54 ID:DaCxO4/+0

ドクオはゆっくりと立ち上がり、懐の銃を捨てる。内藤も、それに習って銃を捨てた。
衣服を脱ぎ、二人は下着と黄ばんだ肌着一枚になった。重火器の類は暗がりの通路にすべて捨てた。

('A`)「……なんとなく、お前なら俺の考えに賛同してくれると思ったからだ。
   訓練所からずっと同じ苦労を耐え抜いた仲間ってだけじゃなくて……なんていうかな、
   人間の種類が同じっていうのか? とにかく俺は、お前に俺と同じにおいを感じたんだよ」

( ^ω^)「そうかお」

生前、最後の最後まで聞けなかった言葉を耳にして、内藤は嬉しそうに笑った。

('A`)「それより、さっきお前が米軍の攻撃を予測したこととか
   俺が死ぬとかそれを守るとかわけわかんねぇことをぬかした理由、あとで必ず聞かせろよ?」

( ^ω^)「お。君を助けてすべてを話すお。それまでは僕の指示に従ってくれお」

('A`)「わかったぜ」


交わされたやり直しの契約。

二人は、地下壕の奥へと駆け出した。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:32:04.81 ID:8NBGtLKLO
支援

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:32:32.27 ID:8NBGtLKLO
支援

37 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:33:20.63 ID:DaCxO4/+0

('A`;)「おい、ブーン! 地上に上がるなら反対側のほうが近いぜ!?」

(;^ω^)「ダメだお! あそこは米軍の攻撃が激しくて入り口が崩壊してしまうお!!
      確実じゃないけど、生き延びるためにはこっちの入り口のほうがいいはずだお!!」

ドクオの言う反対側の入り口とは、はじめの人生で二人が向かった入り口。
間違っても行くわけにはいかないその方向に背を向け、二人は狭い地下壕の中をひたすらに走った。

爆撃の振動で転がっても、這いつくばりながら地上を目指した。
すれ違うほかの兵士たちが危機狂々とした表情をしていた。
その中には見知った顔もいたが、内藤にはドクオ一人を守ることだけで精一杯だった。

ついに地下壕の入り口が見えた。一筋の外の光が二人の目に飛び込んでくる。
瞬間、はじめの人生の光景がフラッシュバックする。

土砂に潰されたドクオ。その前でひざを突きうなだれる自分の姿。
死体が握っていた、真っ赤に染まった御守りの色彩だけが妙に鮮やかだった。
その幻影を振り払うかのように内藤は叫ぶ。

(;゚ω゚)「ドクオ! 一気に駆け抜けるお!!」

('A`;)「わかった!!」

二人は光を目指し、死に物狂いに走った。
先頭を走る内藤の目の前に地上の光景が広がる。そして後方を振り返る。
飛び出した地下壕の入り口は崩壊しなかった。ドクオは生きていた。

勝った。自分は時に勝った。ほんの少しだけ、内藤は笑った。

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:34:00.42 ID:8NBGtLKLO
支援

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:34:08.92 ID:9/khyZDBO
支援

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:34:30.37 ID:8NBGtLKLO
支援

41 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:36:16.54 ID:DaCxO4/+0

地上の明かりが目の前に広がると同時に、二人は地面に伏せた。
そのままほふく前進で周囲の草むらへと身を隠す。

周囲には米軍の兵隊、そして戦車が点在していた。

ここからは自分が体験していない時間。内藤は必死に頭を働かせる。
しばらく草むらに身を潜めたあと、彼は黄ばんだ肌着を脱ぐとすぐさま身を起こし、
それを両手に持って大きく振った。

(;゚ω゚)「投降するお! 撃たないでくれお!!」

下着一枚、全裸に近い状態で叫ぶ内藤。
頬のすぐ横を銃弾が通り過ぎた。同時に風切り音が鼓膜をゆらす。

彼の視線の先には銃を向けてこちらをにらみつける数人の米兵の姿。
向けられた銃口にひるむことなく、内藤は掲げた肌着を振り続けた。
それに続くかのごとく、ドクオも立ち上がり着ていた肌着を大きく振る。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:36:58.40 ID:8NBGtLKLO
支援

43 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:37:11.96 ID:DaCxO4/+0

('A`;)「俺たちに戦闘の意思はない! 投降させてくれ!!」

(;゚ω゚)「銃は持っていないお! 投降するお! ギブアップだお!! 」

米兵が銃を向けたまま恐る恐る二人に近づいてくる。
内藤とドクオは滴り落ちる汗をそのままに、ただ腕を振り続けた。

「Raise your hand !!」

眼の前の米兵が叫ぶ。意味が理解できない二人。
ただひたすらに腕を振り、米兵を見据える内藤とドクオ。
その視線の先で、米兵は驚愕の表情を浮かべて顔を真横に向けた。

米兵の視線の動きを不審に思い、同じ方向を見たドクオ。
その眼は信じられない光景を目撃する。

ドクオは、反射的に次の行動に移っていた。


('A`;)「ブーン! あぶねぇ!!」


その瞬間、『パン』と乾いた音が周囲にこだました。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:37:23.51 ID:8NBGtLKLO
支援

45 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:38:20.67 ID:DaCxO4/+0

ドクオの叫び声がするや否や、内藤はドクオに体当たりされ地面に転がった。
裸体の背中が地面に接触し、衝撃で咳き込む。

すぐに起き上がろうとしたが、何かが自分の上に覆いかぶさっていてすぐには起き上がれない。

内藤は地面の上を転がり、覆いかぶさっていた何かから這い出して起き上がった。
見下ろせば、そこには背中からおびただしい量の血を流しうつぶせに倒れているドクオがいた。


(;゚ω゚)「ドクオ……ドクオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


内藤は力なく地面にひざをついた。
ぐったりとしたドクオの身体を仰向けにし、両手で抱えた。

瞬間、内藤の耳の真横を銃弾がかすめる。


ミ,,゚Д゚彡「米兵に投降しようとする国賊が! これは天誅である!!」


聞きなれた怒鳴り声に顔を上げる。
視線の先には、二人が出てきた入り口から顔を出し、銃をこちらに向けているフサギコ大尉の姿があった。

すぐさま米兵がフサギコに向けて銃撃を開始する。

フサギコは地下壕の中にとっさに身を隠し、二度と出てくることはなかった。


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:38:34.62 ID:8NBGtLKLO
支援

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:38:43.70 ID:Q8FfkAo+0
こっちでも支援

48 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:39:12.45 ID:DaCxO4/+0

(:A;)「いやだ……いやだよ……」

その光景を呆然として眺めていた内藤。
真下から響いてくるか細い声に、彼は我に返った。

(;゚ω゚)「ドクオ! しっかりするお、ドクオ!!」

(:A;)「なんで……仲間に殺されなきゃなんねぇんだよ……」

ドクオの右手がプルプルと動く。
その手のひらには先ほど見せてくれた御守りが握られていた。

(:A;)「俺……なんにもしてないんだぜ?
   ……親父やお袋、弟や妹たちに……なんにもしてやれてない……
   こんなのって……ねぇよ……」

ドクオの、そして内藤の目から涙がこぼれ落ちた。

やがて口からどす黒い血を吐き出すと、ドクオはそれきり動かなくなった。


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:39:46.60 ID:8NBGtLKLO
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50 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:40:14.83 ID:DaCxO4/+0

彼を支える内藤の両手に、ずしりと重みが伝わる。

( ;ω;)「ドクオ……しっかりするお……」

死体の手から御守りがはらりと落ちた。
それは彼の血で溢れる地面に落ち、真っ赤に染まる。

( ;ω;)「僕は……また守れなかったお……」

真紅の御守りを見下ろし、誰にともなく内藤はポツリとつぶやいた。

あと一歩だった。本当にあと一歩だった。
あそこでフサギコが発砲していなければ、ドクオは助かった。
フサギコがこちらを狙っていることに自分が気づいていれば、ドクオは死ぬことはなかった。
ドクオが自分をかばうことさえしなければ、ドクオは生きのびた。

( ;ω;)「なんで……なんで君は僕をかばったんだお!
     誰を裏切ろうと、誰に恨まれようと生き伸びるって言ってたじゃないかお!!
     裏切れお! 僕を裏切ればよかったんだお!!」

抱えた亡骸に問いかけても、答えは何も返ってこない。
自分は死んでよかった。あんなくだらない人生を歩む自分より、ドクオに生きてほしかった。

だけどドクオは自分を助けた。その理由はもはや知る由もない。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:40:17.84 ID:8NBGtLKLO
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52 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:41:31.29 ID:DaCxO4/+0

これが時の可逆性というものなのか?
こんなことまでして時はドクオを殺したかったのか? そして自分を生かしたかったのか!?

なぜ? なんのために!? 


( ;ω;)「答えろ! 答えてくれおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


かつてドクオだった肉塊を抱え、内藤は慟哭した。


はじめの人生と同じように、米兵たちは泣き叫ぶ内藤を黙って見守るだけだった。
はじめの人生と同じように、見下ろした御守りは血で真っ赤に染まっていくだけだった。

はじめの人生と同じように、風は内藤のそばを通り過ぎるだけだった。
はじめの人生と同じように、時は何も変わることなく流れ続けるだけだった。


やがて、世界が色をなくした。


にじむ視界の中を漂い、内藤の意識は静かに時の流れから離脱した。


53 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:42:40.94 ID:DaCxO4/+0

Scene 7 :二〇〇七年一月下旬、福岡


『赦されるのを前提に謝ることを、詫びとはいわない。自分程度のものが
どれほどのたうち苦しんだつもりになったところで、ミジュの腹は、ぱっくりと口を開けたままだ。
そう――どんな詫び状も、死者には届かない』 

                                  「村山由佳 星々の舟『名の木散る』」


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:42:49.13 ID:kaSqpURIO
復活してたのか
待った甲斐あった

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:42:51.54 ID:8NBGtLKLO
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さぁここからだな
wktk

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:44:02.52 ID:KZnvY8Hq0
wkwktktk

57 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:45:22.42 ID:DaCxO4/+0

たまに見る夢がある。

その中の俺は幼く、目の前に横たわる母の遺体を見て、しゃくり声を上げながら泣いてる。
やがてたくさんの警官がやってきて、母の遺体を布でくるみ、運んでいく。

すでに父はおらず、頼るべき母も死に、俺は狭いアパートの一室に一人残された。
がらんどうの部屋は幼い俺にとってあまりにも広く、泣き声は反響してさらに寂しさを募らせる。

そんな俺の背中を、大きな手がポンと叩いた。振り返ると、そこには一人の刑事の姿。
彼は俺の眼の高さまでしゃがみこむと、手にしたあんぱんと牛乳を差し出す。

「悲しいとき、つらいときは何かを腹に入れろ。そうすれば少しは気分がマシになる」

若い、だけども威圧感のある強面の顔が、幼い俺に食べるよう促す。
初めは怖くておびえていた俺だったけど、差し出されたあんぱんを手に取り、恐る恐る口に運ぶ。

甘かった。うまかった。涙が溢れて止まらなかった。

あんぱんを食べ終わり、牛乳を口に注ぎこんで、顔を上げた。刑事の強面の顔が、優しく笑っていた。

「坊主、いいか? 絶対に負けるなよ。お前にはこれからたくさんつらいことがあるだろう。
だけど、これ以上つらいことなんて絶対に起こらない。こんな経験をしたお前はもうすでに強いんだ。
お前はどんな困難も乗り越えられる力を持っている。だから前を向いて、笑って、まっすぐ生きろ」

そして、刑事の姿は闇に消える。夢はいつも、そこで終わる。


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:45:38.69 ID:8NBGtLKLO
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59 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:46:51.85 ID:DaCxO4/+0

                     *

( ,,゚Д゚)「そんじゃあ行って来るわ」

(*゚ー゚)「……」

妻の後姿から無言の返事を受けて、ギコはわが家をあとにした。
玄関を閉めると同時に深いため息をひとつ。

( ,,゚Д゚)「……うまくいかねぇな」

それと同時にポケットから携帯の着信音が鳴り響く。
折りたたみ式のそれを開いて発信元を確認。

署長だった。また、ため息が出た。


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:47:34.51 ID:8NBGtLKLO
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61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:48:12.39 ID:8NBGtLKLO
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62 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:48:55.19 ID:DaCxO4/+0

( ,,゚Д゚)「あー、もしもし、ギコですわ」

(;-@∀@)『ちょっとギコ君! 今日から一週間の有給休暇をとるなんてどういうことなの!?』

( ,,゚Д゚)「どういうことってそういうことですわ。年末年始に取れなかった分の休みをもらうんですよ」

(;-@∀@)『バカじゃないの!? ホームレス襲撃犯はまだつかまっていないの!!
      前線に精通している君が休んでどうするの!?』

( ,,゚Д゚)「俺より階級の高いやつなんざ他にもたくさんいますよ。
    そいつらに任せればいいでしょう? 俺なんかよりきっと成果を上げてくれますよ。
    そんじゃまあ、いまから出かけるんで失礼しますわ」

(;-@∀@)『ちょっとギコく……』

通話を切り、携帯をポケットにしまった。

これでまた出世の道が遠のいたな。家庭も仕事も、ホントにうまくいかないことだらけだ。
ひさしぶりにやりたいことを全力でやっている自分に、周囲は容赦なく立ちはだかる。

三度目のため息。吐き出した息は真っ白だった。

コートの襟を立て、使い古したマフラーをしっかりと巻くと、ギコは最寄りの駅へと向かった。


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:49:06.66 ID:Q8FfkAo+0
支援支援

64 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:50:16.67 ID:DaCxO4/+0

                     *

( ,,゚Д゚)「おう。待たせたか?」

( ゚∀゚)「別にかまわないっすよ! 
    それより男にその台詞言われると気持ち悪いんで勘弁してください」

駅の前にいたのは長岡だった。
くったくなく笑う彼の表情に、ギコは今日はじめての笑顔をみせる。

そのまま二人は構内に入ると、切符を買い、新幹線へと飛び乗った。


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:50:20.90 ID:8NBGtLKLO
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66 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:52:15.78 ID:DaCxO4/+0

( ,,゚Д゚)「にしても悪かったな。せっかくの有給なのにつき合わせてよ」

( ゚∀゚)「ああ、別にいいっスよ。俺も興味ありますしね。宿の手配だけは頼みますわ」

( ,,゚Д゚)「俺の実家でよけりゃ好きなだけ泊めてやるよ。
    それより彼女の方は大丈夫なのか? たまの休みくらいかまってやらんとうるさいんじゃないか?」

( ゚∀゚)「大丈夫っス。これくらいで別れるっていうなら所詮その程度の仲なんスよ」

長岡の一言が耳に痛かった。ギコは四度目のため息をつく。

( ,,゚Д゚)「若いってのはいいねぇ。女をとっかえひっかえ出来てよ」

( ゚∀゚)「うひゃひゃwwww奥さんとはうまくいっていないんスか?」

( ,,゚Д゚)「おかげさまでな。離婚していないのが不思議なくらいだよ」

そう言って、ギコは座席の窓から外の風景を眺めた。
景色は信じられない速さで後ろに流れると、すぐに真っ暗になった。トンネルに入ったようだ。

数十年前に故郷から上京してきたときは、もっとゆっくり景色が流れていった気がする。

これも年をとったせいなのだろうか? ギコは今日五度目のため息をついた。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:53:15.22 ID:8NBGtLKLO
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68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:53:58.82 ID:KZnvY8Hq0
しし支援

69 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:54:10.75 ID:DaCxO4/+0

( ゚∀゚)「ため息一回つくたびに寿命が一日縮まるらしいっスよ?」

( ,,゚Д゚)「バカ言え。それならお前の面倒を見て毎日ため息ついている俺はとっくの昔に死んでるよ」

( ゚∀゚)「うひゃひゃwwwwそれもそうっスねwwwwwwww」

駅の売店で買ったあんぱんをむさぼりながら笑う長岡。食べかすがギコに向かって飛んだ。

( ,,゚Д゚)「きたねえな! ちゃんと口を押さえろ!!」

( ゚∀゚)「うひゃひゃwwwwサーセンwwwwwwww」

また食べかすが飛んできた。ギコは露骨にいやな表情をして顔を袖でぬぐう。

( ,,゚Д゚)「それにしてもお前、本当にあんぱん好きだな。毎日食ってねーか?」

( ゚∀゚)「刑事にあんぱんは必需品でしょ? あと、これもね」

そう言って長岡は牛乳を取り出すとそれを一気飲みした。紙パックが一気にすぼむ。

( ゚∀゚)「昔、警察に厄介になったことがありましてね。そんときに世話になった刑事が食べてたんスよ。
    いやー、あの時の刑事はカッコ良かったなぁ。今のギコさんと違って」

( ,,゚Д゚)「うるせえよ。それにしてもなんだ? 万引きでもやらかしたのか?」

( ゚∀゚)「まあ、そんなとこっス」

『あっそ』とやる気のない返事を返すと、ギコは再び視線を窓の外に向けた。
冷たく輝く冬の日差しが眼についた。トンネルはもう抜けていた。

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:54:11.41 ID:8NBGtLKLO
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71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:55:39.32 ID:8NBGtLKLO
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72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:56:04.42 ID:8NBGtLKLO
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73 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:56:36.47 ID:DaCxO4/+0

              *

数時間後。
二人は目的地の駅の前のベンチにすわっていた。
駅前は行きかう人でにぎわっている。

( ,,゚Д゚)「この景色を見るのも久しぶりだな」

( ゚∀゚)「あれ? 帰省するときに通るんじゃないんスか?」

( ,,゚Д゚)「帰省するときは飛行機なんだよ」

他愛もない雑談を交わしていた二人。
そんな二人の目の前に、お目当ての人物が姿を現す。


74 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:57:34.97 ID:DaCxO4/+0

川 ゚ -゚)「遅れてすみません。お待ちしましたか?」

( ゚∀゚)「いえいえ、全然! いやー、やっぱりその台詞は若い女性に言ってもらうに限りますね!!」

( ,,゚Д゚)「黙れバカ」

目の前の女性の姿に浮かれる長岡を拳骨一発で黙らせると、ギコは彼女に抱えていた荷物を手渡す。

( ,,゚Д゚)「うちのアホがすみません。これ、たいしたものじゃないですが……」

川 ゚ -゚)「気を使わせて申し訳ありません。ありがたくいただきます」

女性は軽く一礼すると、ギコの手から差し出された土産を受け取った。

端正な顔立ち。いまどきめずらしい真っ黒な長髪がきれいだった。
しかし表情はあまり豊かではないようだ。彼女は無表情でギコを見つめると、言った。

川 ゚ -゚)「車をあちらに止めてあります。祖母の家までお連れします」


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 22:58:44.96 ID:8NBGtLKLO
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76 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 22:59:18.36 ID:DaCxO4/+0

三人を乗せた車は福岡の街を走る。

さすがは九州一の都市だけあって、喧騒は都心に限ってみれば東京とさほど違いはない。
広い後部座席で一人、ギコはのんびりと流れ行く街並みを眺めていた。

( ゚∀゚)「へー、クーさんは大学生なんですか!ずいぶんと大人びていますね!!モテるでしょ?」

川 ゚ -゚)「いえ……別に」

( ゚∀゚)「またまたー! 俺が同級生だったら放っておかないよ〜?」

助手席の長岡が、運転するクーを口説いている。

本日六度目のため息のあと、ギコは前に座る長岡のテンプルに向けて一撃を食らわせた。
『あば!』という断末魔を残すと、長岡はグッタリと首をたれて動かなくなる。

( ,,゚Д゚)「このバカが!……本当にすみません」

川;゚ -゚)「いえ……それよりこの人、大丈夫なんですか? 耳から血が出ていますけど……」

( ,,゚Д゚)「大丈夫です! これくらいで死ぬほどやわな鍛え方はしていません!!」

ギコはこれでもかというくらいに断言した。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:00:12.22 ID:8NBGtLKLO
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78 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:00:48.49 ID:DaCxO4/+0

川;゚ -゚)「……刑事さんとお聞きしましたが……大変そうですね」

( ,,゚Д゚)「ええ、こんなバカな部下を持つと特にね」

すると、彼女はクスリと笑った。
その笑顔を見て年甲斐もなく嬉しくなったギコは話を続ける。

( ,,゚Д゚)「おばあさん……須名そらさんはどちらにお住みなんですか?」

川 ゚ -゚)「もうすぐです。
    祖母は生まれがこの近辺だそうで、こんな騒がしい街中でも離れる気はないようです。
    私の実家はここから少し離れたところにあるのですが、
    大学がこの近くなので祖母の家に下宿させてもらって通っています」

( ,,゚Д゚)「そうですか。あ、タバコいいですか?」

川 ゚ -゚)「かまいませんよ。祖母も吸いますので。しかし……」

言葉と同時に車が止まった。


川 ゚ -゚)「もう着きました」



79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:01:12.70 ID:8NBGtLKLO
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80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:02:10.55 ID:8NBGtLKLO
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81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:02:18.34 ID:KZnvY8Hq0
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82 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:02:56.94 ID:DaCxO4/+0

窓から外を見ると、高級そうな高層マンションがそびえ立っている。
その入り口に、背筋をまっすぐ伸ばして立っている一人の老婆の姿があった。


爪 ゚/-゚)「わざわざこんな田舎までご足労いただき、ありがとうございます」


車から降りると、ギコは老婆から丁重なあいさつをうけた。
長岡を片手で引きずり、ギコは恐縮して頭を下げた。

老婆は美しかった。

年を感じさせないつぶらな、まっすぐとした黒い瞳が壮健なまなざしをたたえていて、
白髪の中にわずかな黒の混じった長髪はわずかに巻いて銀色に輝いており、
しわさえ取ってしまえば孫のクーと瓜二つだった。


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:03:37.39 ID:8NBGtLKLO
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84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:04:19.78 ID:KZnvY8Hq0
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85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:04:38.21 ID:8NBGtLKLO
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86 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:05:20.57 ID:DaCxO4/+0

川 ゚ -゚)「では、私は大学の講義がありますのでこれで」

( ゚∀゚)「ちょっと待ったー!
    あなたのような美しい女性を一人で大学まで向かわせるのは大変危険だ!! 
    私が運転手として同行しましょう! なーに、本職が刑事ですのでお構いなく!!」

川;゚ -゚)「え……ちょっと……」

いきなり復活した長岡は半ば無理やり運転席へと乗り込むと、
戸惑うクーを助手席に移動させてそのまま車を発進させてしまった。

あまりにすばやい長岡の行動。それを阻止できなかったギコは頭を抱えた。

( ,,゚Д゚)「うちのバカが本当に失礼を……帰ってきたら脳天に風穴を開けておきますので」

爪 ゚/-゚)「いえいえ、ちょうどいいです」

( ,,゚Д゚)「はい?」

爪 ゚/-゚)「クーはいい年頃の娘なのに色恋沙汰にはどうも縁遠いようで。
     あの子にはああいう強引な性格の男性があっているのではないかと思います」


『いや、そういう問題じゃねぇ!』


そんなギコの心中などお構いなしで、老婆は『こちらです』と言うとマンションの中へと進んでいった。


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:06:46.80 ID:8NBGtLKLO
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88 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:07:18.19 ID:DaCxO4/+0

通された部屋はマンションの最上階にあった。
内部は白を基調とした現代的な造りになっており、おおよそ老人が住んでいるようには思えない。

取り揃えてある家具も西洋風のもので、もともとの部屋の造りに無理なく調和している。
広いリビングの南側には壁一面に大きな窓が設えられており、そこからは福岡の街が一望できた。

『夜景はさぞかし美しいことだろうな』とギコがそこから見える景色に見惚れていると、
老婆が『お茶です』と言って、ギコに白いテーブルのいすへ腰掛けるよう促す。

爪 ゚/-゚)「驚かれたでしょう? 年寄りがこんな部屋に住んでいて」

( ,,゚Д゚)「え、いえ、そんなことは……」

爪 ゚/-゚)「夫が企業家でして、わりかし裕福な家庭だったもので」

( ,,゚Д゚)「そう……なんですか」

自分の家のみすぼらしさと比べ、ギコは少しの劣等感を覚えた。
すぐにそれを振り払うと、差し出された茶をすすり、テーブルを挟んで老婆と向かい合う。


89 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:08:31.18 ID:DaCxO4/+0

爪 ゚/-゚)「あらためて自己紹介を。私は須名そら、旧姓毒田そらと申します」

( ,,゚Д゚)「ご丁寧にどうも。私は東京VIP署刑事課のギコと申します。
    本日はホームレス連続殺傷事件の捜査の一環として、
    被害者の内藤ホライゾンさんについて、お話をうかがいに参りました」

そう言って土産を出そうとするが、先ほどクーに渡してしまったことを思い出しギコは頭をかいた。
その旨を伝えると、そらは小さく笑って『お気になさらず』と一言。

清掃が行き届いている室内をもう一度見渡し、再びの茶をすすると、ギコは早々に本題に入った。



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:08:51.96 ID:9/khyZDBO
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91 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:10:23.45 ID:DaCxO4/+0

( ,,゚Д゚)「早速ですがお話しをお聞きしたい。
    内藤さんの墓についてこちらにたずねられたようですが
    彼とはいったいどのようなご関係だったのでしょうか?」

爪 ゚/-゚)「直接お会いしたのは一度だけです。それも、もう六十年近く前ですが」

老婆は茶に口をつけると、その顔を上げた。
つられて顔を上げたギコの視線の先では、
柔らかい色をした木目調の天井の下で、送風機がゆっくりと回っていた。

しかし老婆の目は天井のそんな風景など通り越しており、
その先の別の何かを見ているかのようにうつろだった。

その何かが、ギコにはすぐにわかった。
今の老婆の目は、あの時のホームレスや
何か物思いにふけっているときの妻の目にそっくりだったからだ。

彼女はきっと、過去の幻影を見ている。それもはるか遠い昔の……。

しばらくの沈黙のあと、老婆はゆっくりと、言葉を選ぶように、静かに口を開いた。


爪 ゚/-゚)「私は……内藤さんに一言、詫びたかったのです」



92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:10:33.82 ID:8NBGtLKLO
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93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:11:27.48 ID:8NBGtLKLO
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94 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:12:34.93 ID:DaCxO4/+0

爪 ゚/-゚)「あれは終戦直後のことでした。
     兄の戦友だった彼は昔の私の家を……こんな部屋ではなくとても寂れた家でしたが
     ……そこをわざわざ訪れて、兄の死を伝えてくれました」

( ,,゚Д゚)「間違えていたらすみません。もしかしてお兄さんの名は、毒田勇男ではありませんか?」

爪 ゚/-゚)「……どうしてそれを?」

( ,,゚Д゚)「ちょいと下調べをしておりましてね」

爪 ゚/-゚)「……警察の情報網とは素晴らしいものですね」

老婆は表情を変えずに声だけで驚いて見せた。
クーのポーカーフェイスは祖母の遺伝だなと、ギコは心の中で笑った。

爪 ゚/-゚)「勇男は……本当に素晴らしい兄でした。
     兄弟の面倒をよく見てくれる、とてもしっかりした人格者でした。
     そんな兄も徴兵され、そして戦死しました。その事実を内藤さんが伝えに来てくれたのです」

相変わらずの無表情で老婆は続けた。
その声は淡々としていて、抑揚が無ければ機械の音声のように聞こえたに違いない。


95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:13:40.01 ID:8NBGtLKLO
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96 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:15:16.24 ID:DaCxO4/+0

爪 ゚/-゚)「内藤さんは両親と私たち兄弟の前でこう言いました。
     『勇男さんは敵陣に爆弾を抱えて飛び込み、
     多くの米兵をなぎ払い、見事お国のために散華なされました』と。

     父は問いました。『それは本当ですか?』 内藤さんはしばらく間を置くと『はい』と一言。
     そのまま早々に席を立つと、一礼して私たちの家から出て行きました」

『ですが……』と前置きすると、老婆はなにか考え込むようにしばらくの沈黙。
そして、口を開く。

爪 ゚/-゚)「私には内藤さんの言葉が信じられませんでした。
     兄は戦地へ赴く直前、私にこう言いました。
     『俺は絶対に生きて帰る。生き恥を晒しても逃げ延びて必ず帰ってくる』と。

     そんな兄が爆弾を抱えて敵陣に突っ込むようなバカな真似をするなんて、
     私にはとても考えられませんでした。……兄の死は分かります。
     兄の戦地である硫黄島は相当な激戦区だったことは当時の新聞で知っていましたから。

     ただ……その死に方だけはどうしても信じられませんでした。
     ……いえ、信じたくなかったと言ったほうが正確でしょうね。
     私は知りたかったのです。大好きだった兄が、本当はどのような死に方をしたのかを。

     だから私は出て行った内藤さんを追いかけてもう一度問いました。
     『本当に兄は敵陣に飛び込んで……爆弾を抱えて死んだのですか?』と。
     内藤さんは何も言わず、ただ私にこれを手渡してくれただけでした」


97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:16:36.65 ID:8NBGtLKLO
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98 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:16:57.79 ID:DaCxO4/+0

老婆は羽織っていたカーディガンのポケットに手を入れると、テーブルの上に何かを置いた。
黒く変色したそれは、ちいさな御守りのようにも見える。

爪 ゚/-゚)「これは……私が兄に渡した御守りです。この黒は兄の血の色だそうです。
     これを受け取った瞬間、私は内藤さんが嘘をついていると確信しました。
     だってそうでしょう? 兄が敵陣に爆弾を抱えて飛び込んで死んだのなら、
     兄の血で染まったこの御守りを回収するのは不可能なはずです。こっぱ微塵になっているはずですから。

     だけど何度問い詰めても内藤さんは何も答えてくれませんでした。結局、今でも真相は闇の中です。
     そして彼の去り際に、私は本当にひどいことを彼に言いました。

     『嘘つき!なんであなたは生きているの!?兄だけ死んで、なぜあなたは生きているの!?』と……」

無表情をそのままに、老婆は目から一筋の涙を流した。

頬に一筋の流れを造ったそれは、
窓から差し込む光に悲しげに輝いて、テーブルの上にポトリと堕ちた。


99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:18:06.78 ID:kyU7w23D0
支援

100 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:18:30.55 ID:DaCxO4/+0

爪 ;/-;)「あの時の内藤さんの悲しそうな表情を、私は今でも私は忘れません。

     それから時が経ち、私は気づきました。
     あの嘘は内藤さんの優しさだったことを。

     兄はきっと別の死に方をした。それはきっと私たちには言えないような死に方で、
     だからこそ内藤さんはそのことを黙っていたのでしょう。

     そして、たとえ内藤さんが言ったような死に方を兄がしていたとしても、
     私の発した人生最悪の一言を、私は内藤さんに詫びなければなりませんでした。

     ……私は内藤さんに詫びるため、去り際に聞いていた彼の故郷へと足を運びました。
     しかし、結局彼は見つけられず……そしてつい先日、内藤さんが殺されたことを知り……」

老婆は顔をうつむけた。
続けた声には嗚咽が混じり、聞いていたギコもいたたまれずに顔をしかめた。


101 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:20:03.24 ID:DaCxO4/+0

爪 ;/-;)「私は! 私は内藤さんに放ったおろかな一言を詫びたかった!!
     許してもらえなくてもいい! ただ私は詫びたかったんだ!!
     身勝手だと言われようがかまわない! 自己満足だと言われようがかまわない!!
     土下座して、心のそこからお詫びをしたかった!! だけど……」

老婆の独白。痛いほどに胸を刺すその声に、ギコはしかめた顔を上げた。
老婆はこちらを向いていた。その顔には自分をあざけるかのような笑み。

それは、涙でぐしゃぐしゃだった。


爪 ;/ー;)「その言葉はもう……彼には届かない。どんな詫び状も……死者には届かない」


それっきり彼女は何も言わず、ただ許しを請うような視線だけをギコに向けるだけ。
ギコは何も言わずに、何も言えずに、窓の外を見た。

はるか上空から見下ろした都会の風景は、二人の気持ちなど知らないかのように整然とそこにあった。


102 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:21:22.38 ID:DaCxO4/+0

                    *

( ゚∀゚)「電車こないっスねー」

( ,,゚Д゚)「……」

ホームのベンチに腰かけ、ギコはただ黙っていた。
老婆の家を後にしたギコは長岡と駅前で合流していた。もちろんその際に一発殴った。

( ゚∀゚)「で、なんかいいこと聞けました? あのきれいなばあさんから」

( ,,゚Д゚)「……あとでゆっくり話すわ」

( ゚∀゚)「そうっスか……」

そう言ったきり、ギコは何も言葉を発しなかった。
なんだか重い沈黙。場を取り直そうと、長岡は話題を軽いものに変えた。


103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:21:34.08 ID:8NBGtLKLO
支援

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:21:58.95 ID:8NBGtLKLO
支援

105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:22:04.03 ID:9/khyZDBO
支援

106 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:22:32.09 ID:DaCxO4/+0

(;゚∀゚)「俺、長崎行くの初めてなんですわ! 長崎っていいところなんでしょ?」

( ,,゚Д゚)「まあな」

(;゚∀゚)「あー……そ、それより聞いてくださいよ!
    あの子……クーちゃんの電話番号ゲットしたんスよ! 
    ギコさんもいります? なんちゃってー! 教えませんよ! 普通にダメー!!」

( ,,゚Д゚)「そうかい。そりゃ良かったな」

拳骨の一発は覚悟していた長岡。
拍子抜けするほど素っ気無いギコの反応に、それ以上彼は何も言わなかった。

ギコはベンチから立ち上がると、ホームの隅っこにある喫煙スペースへと向かう。

その後姿を、長岡は黙って見送った。


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:22:34.28 ID:O53vS3SO0
ツンデレ乙

108 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:24:06.34 ID:DaCxO4/+0

( ,,゚Д゚)「やり直し……か」

タバコの煙を大きく吸い込み、ギコは小さくつぶやいた。
先ほどの去り際、老婆の放った一言がギコの耳にこびりついていた。

爪 ゚/-゚)「ギコさん。あなたは人生をやり直したいと思ったことはありますか?」

靴を履き、玄関の扉を開けようとしたギコ。見送る老婆は静かにその一言を口にした。

爪 ゚/-゚)「私はとある企業家にみそめられ、このような裕福な暮らしが出来るようになりました。
     私の家族も夫の支援を受け彼の企業に就職し、みな、それまでとはうって変わって裕福になりました。
     子を産み育て、孫の顔も見れました。こんな年まで元気で生きながらえています。
     これ以上の幸せが人の生にあるとは思えません。はっきりいって満ち足りた人生でした。
     しかし……」

ギコは靴を履くと老婆の方を振り返った。彼女は寂しそうな笑みを浮かべ、言った。

爪 ゚/ー゚)「それでも私は人生をやり直して、あのとき内藤さんに放った一言を撤回したい。
     たとえその後の人生が今のように満ち足りたものでないとしても、です。
     ギコさん。あなたにはやり直したいことはおありでしょうか?」

結局何も答えられずに、ギコはその場を後にした。


109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:25:23.40 ID:8NBGtLKLO
支援

110 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:25:29.17 ID:DaCxO4/+0

ホームに設置された自動販売機で缶コーヒーを二本買うと、ギコは長岡のもとへと戻った。

ベンチに座る彼にそのうちの一本を放り投げてその隣に腰掛ける。
ふたを開けて中身を飲む。熱い液体がのどもとを通り過ぎていくのがはっきりと分かった。
そして、ゆっくりと長岡に話しかけた。

( ,,゚Д゚)「なあ、長岡。お前は人生をやり直したいって思ったことはあるか?」

(;゚∀゚)「……なんスか? 急に……」

長岡が怪訝そうな声で返す。

( ,,゚Д゚)「いやな、あのばあさんに言われたんだよ。『俺にはやり直したいことはあるか?』って」

少し考えた後、長岡はいつものような明るい調子で言った。

( ゚∀゚)「まあ、あるにはありますけど、それは俺にはどうしようもないことでしたからね。
    それ以外は別に何もありませんよ。なりたい職業にもつけたし」

( ,,゚Д゚)「……そうか」

ギコは立ち上がり、飲み干した缶をゴミ箱に捨てた。
戻ってくると再びベンチに腰かけ、視線を足元に向けた。


111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:26:27.06 ID:u9AxU/4H0
なんかしらんが、暇を見つけてまとめ見てくる

112 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:27:25.38 ID:DaCxO4/+0

( ,,゚Д゚)「俺には……あるよ」

( ゚∀゚)「……ふーん。意外っスね」

気のない長岡の返事。視線を下に向けたまま、ギコは続ける。

( ,,゚Д゚)「あるっていうか……全部だ。全部やり直したいな。子供のころからだ。
    いい大学入っていい企業に就職してれば、今頃こんな人生歩かなくてもすんだのかなと思うよ」

( ゚∀゚)「……」

( ,,゚Д゚)「お前も知ってるだろ? 俺、かみさんとうまくいってねぇんだよ。子供もいねぇ。
     ……それだけじゃない。仕事だってそうだ。いい年してまだ下っ端だ。落ちこぼれもいいところだな。

     若いころはそれでもいいかなと思ってた。仕事にやりがいさえ感じられてりゃそれでいいと思っていた。
     やりたいことに全力を注げば、必ずそれは報われると信じていた。
     だが、世間はそんな甘いもんじゃなかった。

     今の俺は昔みたいに仕事に情熱を持ててねぇ。いつでも何かを持て余している。
     今、サボり同然でこんなところに来ている自分がそれを証明しているよ」

顔を上げたギコ。眺めようとした空は、ホームの屋根にさえぎられて見えなかった。


113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:27:29.37 ID:8NBGtLKLO
支援

114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:29:56.48 ID:8NBGtLKLO
支援

115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:32:33.86 ID:KZnvY8Hq0
しえ

116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:34:20.60 ID:8NBGtLKLO
さるか……

>>1、スマン

117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:36:11.78 ID:GXd4ZcGP0
さるさんかな?

118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:41:46.25 ID:8NBGtLKLO
支援

119 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:44:06.44 ID:DaCxO4/+0

( ,,゚Д゚)「最近な、俺の人生ってなんだったのかなーって思うんだ。
    何をやってもまったくうまくいかねぇ。
    若いころ好き勝手しないで黙って上司の言うことに従っていれば、今頃ちっとはマシだったのかもな。
    長岡、お前は俺みたいになるなよ。今からでも遅くない。俺に下につくのは止めて、もっと別の奴に……」

(  ∀ )「ふざけんな」

ギコの隣で黙っていた長岡が立ち上がって叫んだ。
何事かと、周囲の人々が二人に視線を向ける。そんなことなどかまわず、長岡は続けた。

(# ゚∀゚)「ふざけんな! あんたがそんなこと言うなよ!!
    それじゃあ俺の今までの人生が間違っていたみてぇじゃねぇか!!」

( ,,゚Д゚)「おい、お前……なにを……」

(# ゚∀゚)「うるさい! 俺はあんたを目標にここまで来たんだ!!
    そのあんたがそんな情けないこと言わないでくれよ! もっと毅然としていてくれよ!!」

怒った表情できびすを返すと、長岡はホームの階段へと足を向ける。
遠ざかる彼の後姿に、ギコは慌てて声をかけた。


120 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:45:43.95 ID:DaCxO4/+0

( ,,゚Д゚)「お、おい! どこに行くんだ!!」

(# ゚∀゚)「帰ります! 今のあんたの姿なんて見たくねぇ!!」

最後に振り返った長岡。

(# ゚∀゚)9m「故郷の景色でも見て、そのゆがんだ根性叩きなおしてきてくださいよ!
      それまで東京に帰ってこないでください! いいっスね!?」

捨て台詞を残し、肩を怒らせた長岡の後姿は階段の奥へと消えた。
わけがわからないといった表情のギコ。禁煙スペースにもかかわらず、彼はタバコに火をつけた。

吐き出した煙はホームの中をゆらゆらと漂って消えた。
立ち上がり、足を一歩踏み出して見上げると、屋根の隙間から青い空が見えた。
空を仰ぎ、再びの煙を吐き出したギコ。それは風に吹かれて、空気に溶けて、消えた。


( ,,゚Д゚)「内藤さん……あんただって、人生をやり直したいと思ったこと……あったよな?」


つぶやいたギコ。
彼の言葉は、直後に鳴り響いた電車の到着を告げるベルの音にまぎれて、誰にも聞かれることはなかった。



121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:46:29.42 ID:8NBGtLKLO
支援

122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:46:45.86 ID:KZnvY8Hq0
支援

123 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/05/05(土) 23:46:53.83 ID:DaCxO4/+0
本日は以上です。
サルに引っかかって申し訳ない。支援くだすった方、ありがとうございました。

>>16
一つはギコナビで投下できるVIPでは、改行等をプレビューで確認できるから。
一つは、添削してくれる友人を身近に見つけ、投下速度を少し速められそうだったから。
でも、一番の理由はVIPの方が多くの人に作品を見てもらえるという私のわがままです。
本当に自分勝手ですみません。避難所まで来てくださった方、本当に申し訳ありません。


124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:47:09.61 ID:8NBGtLKLO
支援

125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:48:19.12 ID:8NBGtLKLO
乙!

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:49:06.16 ID:GXd4ZcGP0
乙!
やっぱいいなあ

127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:51:18.93 ID:kyU7w23D0

テラオモシロス

128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:52:20.10 ID:KZnvY8Hq0
乙!
おもしろかった

129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:54:53.07 ID:9/khyZDBO
乙!

130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/05(土) 23:58:08.49 ID:Q8FfkAo+0
乙―
相変わらず面白くて良いぜ

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