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( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

1 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:35:58.96 ID:pvNpc7Oh0
ttp://vip.main.jp/end/116-top.htmlを読み直してたら、ふと思い付いた続編。

 この話は意図的に難読漢字や当て字、普段使われない熟語やらを好き放題盛り込み、
一文を長くしています。ので、人によってはクドいと感じられる文章がふんだんに使用されています。
ふりがなを振ったり、メール欄に注釈を入れたりするので、そちらを参照して下さい。
 ただし、一度ふりがなを振ったものには以降振りません。あしからず。

〜前回を読んでない人のためのあらすじ〜
 ツンは人じゃなくて隠(おぬ)でした。隠は人からはあまり好かれてはいません。そしてブーンとツンは
相思相愛だけど子供の頃に離れ離れになってしまいました。
 大人になってブーンはしぃと結婚しました。そこでブーンは隠の研究者であるショボンに紹介され、
謎の女性と出会いました。諸々の事情でブーンとしぃは離婚しました。そしてブーンとツンは再開を
果たしました。

2 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:36:49.46 ID:WLVPhoxA0
ピアノの人か

3 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:37:33.78 ID:ugATaRRaO
キタコレwwwwwww

4 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:38:38.68 ID:pvNpc7Oh0
ちょ、ちょっとタンマ。予想外に目欄に全然入んない。ちょっと待って

5 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:40:34.63 ID:pvNpc7Oh0
申し訳ない。したらばと同じだと思って甘く見てた。

本文の下に米印つけて載せるようにします。

6 :序章 ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:41:53.05 ID:pvNpc7Oh0
 季節は巡り、庭先に積もる落ち葉の風に擦れる音に晩秋の訪(おとな)いを感じ乍(なが)ら、
男と女が二人肩を寄せ合い、互いの存在を確かめ合っていた。
 決して明るい道許(ばか)りではなかったが、彼等は今確かに幸せの陽だまりに居た。

 あの出来事から早三月。ブーンはツンと再婚し、今では片時も離れることはない。戸籍の無い
ツンとの婚姻は形だけのものであったが、二人は其(そ)れでも十分に満足していた。
 ブーンを誘って看板を設けたショボンは、気を利かせたのかブーンの家から立ち去っていった。
併(しか)し立ち去ったとは云(い)え遠くに行ったわけではなく、あろうことか事務所を隣に立ち上げて
しまった。今では度々酒も酌み交わす仲である。
 しぃは依然として行方を眩ませた儘(まま)であったが、つい先日葉書が一葉届いた。内容は
謝罪と祝詞(しゅうし)であった。依然見たしぃの字よりも幾分か綺麗になっていた其(そ)の字を見て
ブーンは少し複雑な心中であったが、何より無事であることが判り安心した。

 だが村の暮らしにも馴染み、二人の愛が益々深まりつつあった霜降(そうこう)の候(こう)。
肌寒く不安になる季節に、今其の陽だまりへ影が差し始めようとしていた。


※訪い=訪れ ※祝詞=祝いの言葉 ※霜降の候=霜の降り始める頃

7 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:43:08.60 ID:pvNpc7Oh0
 ('、`*川「ツンちゃん、ちょっと好(い)いかしら?」
ξ゚听)ξ「あら、伊藤の小母さん。こんにちは」
 ('、`*川「このあいだ親戚からおうどんが届いてね、此(こ)れお裾分けにと思って」
ξ゚听)ξ「わぁ、小母さん有難う。今度家からも何かお返しをしなくちゃ」
 ('、`*川「いいのよ、まだいっぱいあって家じゃあ食べきれないの。それより、昨日の事なんだけど――」

 今ではツンも随分と此(こ)の村に馴染んでいた。元々、此の村自体が僻地(へきち)にしては開放的
であり、また良家の娘の様なツンの礼儀正しさや気配りの細かさも其れを助けていた。但(ただ)し、
ツンが隠であると云うことは公にはしなかった。

 対してブーンは、其の様な良妻を貰ったことを祝福されつつも、やはりしぃとの交友が有った
者からは疎まれることが少なくはなかった。併しブーンは其れを以ってもツンを娶(めと)った事に対して
後悔する様なことは一度たりとも無かった。

8 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:44:01.99 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「やぁ。未熟な果実の芳香に誘われて、また来てしまいましたよ」
( ^ω^)「いい加減其れも聞き飽きたお。ツンはもう廿(はたち)だと何度云ったら分かるんだお」
(´・ω・`)「いやなに、いつもの挨拶ですよ」
( ^ω^)「其の挨拶で何度ツンに叩(ぶ)たれたことか」

 年下の嫁を貰うこと自体此処(ここ)等では少しも不自然なことではないのだが、ショボンには
其れが度を行き過ぎると変態として認識される様であった。幼少の頃子を貰い受け、年頃を見て
婚姻をする、などと云う風習も以っての外と激しく非難されたこともあった。

ξ゚听)ξ「あなた、呼びましたか?」
(´・ω・`)「おや、此れは麗しの奥方。今日は昨日にも増してまた一段とお美しい」

 またいつもの様にショボンがツンの機嫌を取りにいく。此れだけを見るとショボンがただ
気障(きざ)な奴と云うだけだが、此れもどうやら計算の内らしかった。こう煽ててはツンを何時間も
捕まえて毎度色々な話を聞き出すのだ。

9 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:44:59.04 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「駄目です。今日はお買い物があるから話はまた今度お願い」
(´・ω・`)「……君は随分と強(したた)かに為(な)ったね」
( ^ω^)「そうなんだお。この間なんか僕が蒲団で寝ていたら、いきなりこう、がばっと……」
(´・ω・`)「へぇ、興味深い。其の話詳しく聞かせて貰いましょうか」
ξ#゚听)ξ「あなた! ……ちょっと来て下さいますか」
( ;^ω^)「お上より招集がかかった故、此れにて失礼……」

 奥の間に引き摺(ず)られていくブーンを見乍ら、ショボンは右手に持っていた煙管(きせる)に
煙草を詰め炭火で火を点けると、其れを咥えてゆっくりと目を閉じた。

 煙草を呑むほど暮らしに余裕がある者は少ない中、ショボンは取り分け風変わりな煙管を
持っていた。雁首(がんくび)から吸い口までが一繋ぎになっており、普通の物よりも幾許か長く、
一尺よりも更に二三寸はあろうかと云う代物であった。
 材質は金属で無ければ竹でもない。斑に黄みを帯びつつも嫋(たお)やかに白く伸びる其の煙管は、
綺麗に磨き上げられていてまるで宝石の様な光沢を帯びていたが、どうやら動物の骨で出来て
いるらしかった。


※一尺=約30 cm、一寸=約3 cm ※嫋やか=しとやかで上品である様

10 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:45:49.92 ID:pvNpc7Oh0
 ふわふわと漂ってくる枯れ草の匂いに煙草の匂いを混ぜ乍ら、ショボンは、ふぅ、と紫煙を
吐き出した。そして呆れる程の平安を感じ乍ら一度煙管をまじまじと見詰めた後、染みの出来た
天井を見上げた。
 そうして見上げること幾許(そこばく)、行きとは対照的に萎(しお)れたツンを引き連れてブーンが
戻ってきた。

(´・ω・`)「早かったですね」
( ^ω^)「ちょっと不測の事態があったお」
ξ;゚听)ξ「はいあなた」

 するとどういう訳か、ブーンの左首筋より僅かに濃赤色をした血の滴るのが見えた。ツンは其の
傷口に優しく綿布を当て、申し訳なさそうに傷口とブーンの顔とを交互に見た。


※幾許=いくらか

11 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:46:45.89 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「此れはまた……奥方、相当恨みが深いと見える……」
ξ;゚听)ξ「その、私そんなつもりは……」
( ^ω^)「気にせんで好いお。ただ、今度からはちゃんと爪を切って呉(く)れお」
ξ;゚听)ξ「ごめんなさい。私ももうこんなに伸びているとは思わなくて……」

 話から察するにどうやら伸びた爪が引っかかってしまった様だが、果たして其れはどういう事かと
ショボンは首を傾げた。そうも長くなる程に爪を放置する癖など彼女に有っただろうか。

(´・ω・`)「あれかな、君があまり色々と苦労を掛けるからじゃないのかい?」
( ^ω^)「いや、僕はどちらかと云われれば苦労を掛けられる……」
ξ゚听)ξ「あら? 鋏みが無いわ。どこかで爪を磨ごうかしら、ねぇあなた」
( ^ω^)「……ショボン、早急に研究家として何か助言を」
(´・ω・`)「……残念です」

 あぁ、併しこういう遣り取りも楽しいなぁとショボンは再び心の中で笑った。

12 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:47:49.09 ID:ozB3Z8zN0
支援

13 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:47:58.34 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「そうだ。取るに足らないことだとは思いますが、念の為切った爪をいただけませんか?」
ξ゚听)ξ「爪を?」
( ^ω^)「まったく、君の研究への熱意にはどこか狂気染みたものを感じるお」
(´・ω・`)「勿論、厭(いや)なら厭で結構ですが」
ξ゚听)ξ「別に此の儘捨てる物ですもの。好きにして下さって結構です」
(´・ω・`)「有難う御座います」

 そう言ってショボンは受け取った爪の欠片を懐から取り出した小さな巾着袋に仕舞い、再び
其の懐へと戻した。

( ^ω^)「そんなに面白いのかお?」
(´・ω・`)「面白い……と云うのはちょっと違いますね」
( ^ω^)「と、云うと?」
(´・ω・`)「君には説明する必要も無いでしょう」
( ^ω^)「ん?」

 今度は笑うことなく、ショボンはブーンの家を後にした。一度開いた扉の向こうからは朔風(さくふう)が、
すっと居間に差し込んで来た。其れは晩秋の事。


※朔風=北風

14 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:48:22.13 ID:dSuydssU0
さるって怖くね?

15 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:48:39.23 ID:pvNpc7Oh0
 時は更に進み、村には終(つい)に初雪が降った。思い起こされるは嘗(かつ)ての孤独の日々である。

( ^ω^)「終に冬が来たお……」
ξ゚听)ξ「そうね……」

 炉辺に座り乍ら窓から深々(しんしん)と降り積もる雪を見ていたツンは、一度立ち上がりブーンの
横に座り直すと、ゆっくりと体重を預けて目を瞑った。

ξ--)ξ「……大丈夫。私はもう一人でないのですから」
( ^ω^)「……」

 何も言わずブーンはツンを抱き寄せ、優しく其の頭を撫ぜた。パチパチと囲炉裏の炭の弾ける
音だけが、今はゆっくりと彼等の時を進めていた。

16 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:49:24.40 ID:pvNpc7Oh0

 更に雪は降り積もり、新雪は人々の足跡を刻み、其処に確かな瞬間があったことを記録していった。
降り積もる雪は只管に不偏(ふへん)であった。縦令(たとい)其の瞬間が如何に残酷なものだとしても、だ。

 早めの黄昏(たそがれ)に包まれ人々がぼんやりと見分けが付かなくなる様を眺め乍ら、
ブーンはかんじきの雪を踏み締める感触を味わっていた。『誰(た)そ彼(かれ)』とは古人も中々
洒落た事を考えるものだと感嘆しつつ、寒さに耐えかね袖を一振りし、ブーンは家を目の前に
し乍らもショボンの家へと上がった。

(´・ω・`)「おや、何用で?」
( ^ω^)「いやなに、大した用じゃないお」

 黴臭い本の匂いに、至るところに染付いた煙草の匂い。其れ等が混ざり怪しげな香りと為っている
此の屋敷に長居しようとは思わぬが、其れでも未だ躰が暖を求めていたので、ブーンは適当な話を
振った。


※不偏=かたよらず公正であること ※縦令=仮に

17 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:50:05.31 ID:ozB3Z8zN0
支援

18 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:50:14.21 ID:dSuydssU0
支援

19 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:50:26.96 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ショボン、最近はどうだお?」
(´・ω・`)「最近、ですか」

 ふぅ、と口から紫煙を吐き出し、ショボンは頭(かぶり)を振る。

(´・ω・`)「さっぱりですね。果てには便利屋か何かと勘違いした者が、迷い犬探しを依頼してくる
      始末ですよ」
( ^ω^)「はは、君の其の好奇心ならば、其の儘便利屋にでも為った方が好いのではないかお?」
(´・ω・`)「冗談を」

 ショボンは笑っていたが、ブーンにしてみれば、そうでもせんと此の男は孰(いず)れ餓死して
しまうのではないかと云う不安があった。

(´・ω・`)「併し、迷い犬など探して何になるのでしょうか?」
( ^ω^)「何とは……其れは迷い子を探す理由に変わらんだろうに」
(´・ω・`)「犬と子が同等なのですか?」
( ^ω^)「同等と云うのは少し云い過ぎかも知れんが、ここでは犬はとても大切にされてるお」
(´・ω・`)「野犬を捕って喰らったりは?」
( ^ω^)「薬になると云う話は聞いたことがあるけれども……此処では逆に其れが禁忌とされているお」
(´・ω・`)「成る程……中々興味深い話ですね」

 近くにあった紙切れを掴むと、ショボンは其れに目を通し何度か浅く頷いた。其れ限(き)り目線を
呉れなくなったのを潮時だと感じ、ブーンは一言云ってショボンの家を後にした。

20 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:51:22.09 ID:pvNpc7Oh0

( ^ω^)「今帰ったお」
ξ゚听)ξ「お帰りなさい」

 いつもの様に出迎えて呉れるツンを見乍ら、ブーンは其の様子に少しの違和感を覚えた。

( ^ω^)「……? ツン、こんな時に野良仕事かお?」
ξ゚听)ξ「え? どうして?」
( ^ω^)「着物の裾が濡れているし、それに頬がいつにも増して紅くなっているお」

 はっとした様子で頬に両の手を当てると、ツンは一層顔を紅くして困った様な顔をする。

ξ*゚听)ξ「もう、いやだ。今晩は美味しいお野菜であなたを驚かせようと思っていたのに。
       雪の下に埋まった野菜はとっても甘いのですよ」
( ^ω^)「それは楽しみだお。それじゃあ早速飯にするお」
ξ゚听)ξ「はい。今日は煮物にしてみました。すぐに出しますから待っていて下さい」
( ^ω^)「……煮物?」
ξ゚听)ξ「ええ。煮物はお嫌いでしたか?」
( ^ω^)「……いや、まさか」

21 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:52:05.15 ID:ozB3Z8zN0
支援

22 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:52:15.07 ID:pvNpc7Oh0
 其の晩に食卓へ出された大根の煮物は絶品で、ブーンは此れを絶賛しツンは其れに対し
頬を紅らめては、照れ隠しに俯いて手を振った。
 そうしてゆらゆらと二つに纏められた髪が揺れるのを見乍ら、ブーンは甘い大根の味を
口の中で暫し堪能していた。

( ^ω^)「旨いお」
ξ゚听)ξ「好かった」
( ^ω^)「うん……旨い、お」
ξ゚听)ξ「……どうしたの、あなた」

 ただ旨いを繰り返すブーンを不思議に思い、ツンはそう尋ねた。其れに対しブーンは幾許かの
間を取り、箸を箸置に置くと俯き乍ら呟き始めた。

23 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:53:01.54 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「いや……君とこうして旨いご飯を食べているのだなと、改めて思っていたんだお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……今でも、僕は不安で一杯なんだお。若しかして今此の目の前の君は、僕が見ている
      幻ではないのか、朝に目が覚めれば消えてしまうのではないかと。毎朝、毎晩……」

 小さく背を丸め怯える様に語るブーンを見て、ツンは其の傍らに座るとブーンの手を取り、其れを
自らの頬に当てた。其の頬はしっとりと絹の様で、そして温かく、ブーンは思わずツンの顔に目が
釘付けになってしまった。

ξ゚听)ξ「……私は、貴方に会うまでずっと貴方の幻を見ていました。併しやはり今こうして見る貴方は、
      幻よりも遥かに、私の心を安らかにします。縦令……縦令貴方が見ている私が幻だとしても、
      貴方を思う私は、確かに此処に存在します。だから、どうか安心して下さい」
( ^ω^)「……済まん。手間を掛けさせるお」

 眉間に皺を寄せ目を伏せるブーンを見て、ツンは優しく微笑んだ。そうして二人はまた食事は始めた。
雪の下から出てきた大根は、時間が経っても甘やかであった。

24 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:53:25.69 ID:dSuydssU0
sien

25 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:54:02.22 ID:lDJ8n3O40
続編と聞いてきました。支援

26 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:54:05.17 ID:pvNpc7Oh0

 翌日、ブーンは仕事に退屈しショボンの家へと来ていた。名目上は昼休みらしいが、其の匙加減は
全てブーンの一存によるものである。
 併しブーンが来ても相変わらずショボンは一人乳鉢だの薬匙(やくさじ)だのを相手に何かをする
許りで、ブーンなど全く相手にもしなかったのだが。

( ^ω^)「なぁ、ショボン」
(´・ω・`)「何ですか?」

 視線を向けることなくショボンは答え、作業を続ける。

( ^ω^)「其の、研究とやらはそんなに面白いのかお?」
(´・ω・`)「其の問には以前答えた憶えがありますね」
( ^ω^)「僕は君を見る度に思うんだお」
(´・ω・`)「其れは、何故」
( ^ω^)「何故と問われても、そこまで打ち込む様を見せ付けられては、何か途轍もない魅力が
      あるのではと思わざるを得ないお」
(´・ω・`)「成る程。そこまで私に興味があったのですか」

 そう言うとショボンは手に持っていた物を置き、ずい、と近寄りブーンを見つめ頷いた。其の様子に
身震いし、ブーンは顔を背け、手を翳した。

27 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:54:47.06 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「止せ。近寄るなお」
(´・ω・`)「ハハハ、いや、冗談です。なに、私とて流石に衆道(しゅうどう)に興味などありませんよ。
      何よりそう云うのは大抵相手が少年だ。君は……なぁ」
( ^ω^)「はん、歳を食っていて好かったお」

 其の言葉に再びショボンは目を細めて笑い、うんうんと呟くと、箪笥の上に飾ってある時計の
針を煙管で差してブーンに云った。

(´・ω・`)「ところで君、そろそろこんな所で油を売っていないで仕事に戻ったらどうだい」
( ^ω^)「然(さ)こそ云え、中々此の躰が云うことを聞かなくて」
(´・ω・`)「……併し、此処にはよくあの子たちも来るのですよ」
( ^ω^)「あの子たちとは、若しやあの三人組かお」

 ブーンが云うところの三人組とは、ギコ、ジョルジュ、ちんぽっぽ、と奇天烈な名前の三人組で、
此の村の村長の子と云うことになっている。


※衆道=男色

28 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:55:36.10 ID:ozB3Z8zN0
言葉のボキャブラリーが増えていく。支援

29 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:55:43.58 ID:pvNpc7Oh0
 なっている、と云うのは、此の内ギコ、ちんぽっぽは孤児(みなしご)であったものを村長が引き取った
為である。なので、年長のギコを差し置いて嫡子(ちゃくし)は唯一血の繋がっているジョルジュとなる。
 古い慣わしに縛られて、ジョルジュに其れ相応の器が有るかの判断をせず血の繋がりだけを重視
することは愚鈍だと云う声もあるが、何分当の村長が高齢である為其れを判断出来る迄の時間が無く、
又やはり何を差し置いても自分の子と云うものは可愛いらしい。それも晩年の子ならば尚更の様だ。

(´・ω・`)「ええ、君と違って働き者の子たちですよ」
( ^ω^)「莫迦(ばか)な、あの三人組が此の様に陰気な場所に? ある筈がないお」

 そう話していた矢先、壊れん許りの音を上げて戸が開いた。見ると寝癖も其の儘に口を半開きに
してブーンを見るギコの姿があった。そうかと思うと彼はいきなり後ろを向き、大声を張り上げた。

 (,,゚Д゚)「おい、旦那がまたこんな所で怠けているぞ!」
( ;^ω^)「な、しまった……」

 ブーンとて好んで此の場所を休憩に利用したわけではない。いつもなら山に行って川辺やら
大木の木陰やらにて昼寝をするのだが、どうもツンが其れを快く思っていないらしく、近頃は
三人組をして見張りをさせているのだ。

30 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:56:22.63 ID:Jml3XqUr0
ぬふぅ支援

31 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:56:36.04 ID:pvNpc7Oh0
 今日は隠れ家として敢えてショボンの家を選んだにも拘(かかわ)らず、どうも子供の行動範囲
と云うのは広いらしい。そのようなことをブーンが考えていると、外から更に溌剌(はつらつ)とした
声が聞こえてくる。

  ( ゚∀゚)「ツン姉ちゃんに云い付けに行こうぜ!」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
 ( ;^ω^)「な、待てお!」
  (,,゚Д゚)「おっと、通せんぼだ。ブーンの旦那」

 引き止めんと立ち上がったブーンの前に、其の躰を大きく広げ(とは云え、其の身の丈四尺三寸
許りでは隙間だらけであるが)ギコが立ち塞がった。
 其の得意げな様子にブーンは諦めを付け、さてどうしたら好いものかと頭の中で言葉を捏(こ)ね回し
始めた。だが、唯の一言も考え付かぬ内に、二人の子を引き連れたツンが現れてしまった。

ξ゚听)ξ「あら、あなた。奇遇……ですね」

 何故大の男が真昼の村で此の様に汗を掻かねばならぬのかとブーンは静かに嘆いた。
射抜く様な眼差しは、幼い頃遭遇した山の主の様に鋭く、吐き出された言葉は喉元に押し
付けられた抜き身の様に冷たかった。

32 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:57:30.13 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ツン、先ずは話し合おう。そうだ、この間欲しがっていた髪飾りはどうだお。あれをやろう。
      きっと君に似合う筈だお」
ξ゚听)ξ「ええ、頂きましょう。それで、あなた。どうして此の様な所にお出でで?」
( ;^ω^)「な、まだ足りんと云うのかお! いや、併し……あぁ、待て!」

 静かに歩み寄るツンの姿にブーンは錯乱し、尻餅をついて後退る。其れを静かに見守る子たちを、
ショボンは自らと共にそっと家の外へと運んだ。

(´・ω・`)「君達は帰りなさい。今夜悪い夢を見るよ」
 ( ゚∀゚)「承知!」
  (,,゚Д゚)「次どこ行く?」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

 元気に山の方へと駆けていく彼等の背を眺め、ショボンは晴れ渡る大空を見上げた。其の後
頭を一掻きすると、其処に何かが乗っているのに気付いた。

(´・ω・`)「……羽根? ハハハ、彼も全身の毛を毟(むし)られなければ好いが」

 背に縋(すが)る様な悲鳴に目を閉じ、手に持っていた黒い羽根を捨てると、ショボンは火の
点いていない煙管を加え歩き出した。そして何とは無しに笑った。

33 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:58:16.01 ID:lDJ8n3O40
支援

34 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:58:23.52 ID:pvNpc7Oh0

 明くる日、再びブーンはショボンの家に行き、将棋を打っていた。とは云え将棋は御負(おま)け
の様なもので、本懐は前日が大変であったと云う愚痴を零(こぼ)すことであった。

(´・ω・`)「其れも此れも、君が真面目に働けば全て丸く収まることじゃないか」
( ^ω^)「まぁ……そう云われてしまえば、僕はただ黙るしか出来んお」

 ショボンの指した一手に、ブーンは閉口し腕を組んだ。うんうんと唸り乍ら盤を見詰めるブーンを
見て、ショボンは長くなりそうだと溜息を吐いた。

(´・ω・`)「そうだ、この間の犬の話、わかりましたよ」

 其の言葉に思考中のブーンがだらしなく相槌を打った。が、直後何の話かと思い直し顔を上げた。

( ^ω^)「犬の話? ……そのようなもの、いつ話をしたお」
(´・ω・`)「ほら、禁忌がどうのと云っていた話です。あれが僕は凄く気になって」
( ^ω^)「……あぁ。君は本当に物好きな奴だお」

 首に手を当て頭をぐるりと回すと、ブーンは大きく欠伸をした。そして再び視線を盤に戻すと
彼(あ)れや此れやと云い訳をし乍ら駒を進めた。

35 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:58:51.57 ID:WqAyAawe0
兄さんさるさんが怖くないのかい支援

36 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:59:20.98 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「何故犬を喰らうことが禁忌か、考えたことがありますか?」
( ^ω^)「……いや、其れが当たり前として生きてきたらそのような事を一々考える筈がないお」
(´・ω・`)「歴史に関する色々な話や書物からするに、どうやら其れは鬼が関係するらしいです」

 ショボンの飛車がブーンの歩を取り、パチン、と乾いた音が響いた。

(´・ω・`)「鬼と云うのものは、犬を喰う……らしいのです」
( ^ω^)「犬を?」

 いつの間にか前のめりに為っていたブーンは、一度床に手を付いて姿勢を直した。

(´・ω・`)「ええ。ですから、犬を喰らうと云うことは、即ち鬼と同等であると云う印象があるのでしょう。
      人を襲う鬼が忌み嫌われているなら、犬を喰らうことが禁忌となったのも頷けます」
( ^ω^)「……ふむ」
(´・ω・`)「おそらく薬になると云うのも、鬼の屈強な様から其の様に連想したのでしょう」

 と、そこまで大人しく相槌を打ってきたブーンだが、持ち駒の歩を手に取りくるくると玩(もてあそ)ぶと
頷き、さも自信のある一手だと云った風に指して云った。

37 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:59:45.57 ID:Jml3XqUr0
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38 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:01:06.07 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「だがな、其れ等は君の推測に過ぎんお」
(´・ω・`)「……まあ、結論はそうなりますね。併し――」
( ^ω^)「併しまあ君も暇な奴だ。今は今。其れで好いじゃないか」
(´・ω・`)「……」

 其の言葉を受けショボンは黙った。とは云え本人はとても納得した様ではなかったが、静かに
駒を進めると其れ限り同じ話題を出すことは無かった。

(´・ω・`)「……王手です」
( ;^ω^)「な……待つお! いつの間にそんなところに!」
(´・ω・`)「戦に待った無しですよ」
( ;^ω^)「むむむ……さっきは好い手だと思ったんだが……」

 唸り首を捻るブーンを見てショボンは再び溜息一つ。そうして度々溜息を交え乍ら陽の傾く迄
将棋を指す音がショボンの家に鳴り続けた。

39 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:02:15.46 ID:pvNpc7Oh0

( ^ω^)「今帰ったお」

 其の言葉に呼び出されたかの様にツンが奥から姿を現すと、「おかえりなさい」と微笑みブーン
から上着を受け取った。
 併し上着を受け取る其の手が妙に紅く、また厨(くりや)から香ってくる煮付けの匂いに、ブーンは
ツンの奴めまた畑に行ったのかと顔をしかめた。

( ^ω^)「また今日も寒い中畑に行ってきたのかお?」
ξ゚听)ξ「ええ、此の間とっても気に入ってらしたから」
( ^ω^)「確かにあれは旨かったお。でも此れ限りにして欲しいお。僕はツンの手が其の様に
      為るのがどうにも我慢できないお」
ξ゚听)ξ「……わかりました。あなたがそう言うのなら」
( ^ω^)「嬉しいお」

 唐突に其の従順な様に愛おしさを感じ、ブーンは口付けをしようとツンに近付いた。


※厨=台所

40 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:02:50.27 ID:dSuydssU0
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41 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:02:58.72 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「あなた」

 併し其の唇は触れることなく、ツンに制止されてしまった。嘗(かつ)て此の様に静止された経験が
無かったブーンは、二三度瞬きをし首を捻った。

( ^ω^)「どうしたんだお?」
ξ゚听)ξ「ごめんなさい。その、お昼に臭いのする物を食べたから……」
( ^ω^)「でもそんなに臭いはしないお?」
ξ゚听)ξ「それでも口を付けるとなると……」
( ^ω^)「……わかったお」

 初な事を言うものだとブーンは微笑ましく思った。此れも彼女の魅力であると思い、其の儘躰を
離すことにした。

( ^ω^)「せめて抱きつく位はいいかお?」
ξ゚听)ξ「駄目です」
(´・ω・`)「……いやはや、此れは目に毒だ」
( ;^ω^)「え? ショボン……」
(´・ω・`)「おや、お邪魔でしたかな?」

42 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:03:58.73 ID:pvNpc7Oh0
 いつの間にやら土間まで上がり込んでいたショボンの、其の煙管を片手に若気(にやけ)る様に、
ブーンは具合が悪くなり音を立てて其の場に座った。

( ^ω^)「ふん……先ほど会った許りだろうに。して、御用の趣(おもむき)は? ん?」
(´・ω・`)「そう邪険にしないで下さい。食事が終わったら是非家に来て貰えないだろうかと思いまして」
( ^ω^)「あぁ、解った解った。どうせまた君の研究成果とやらを聞かされるんだお。それならば今
      直ぐに済ませてしまおう。併し、一々こうも大袈裟に烽火(のろし)を上げんでもよかろうに」
(´・ω・`)「ん? ……あぁ、いや、失敬、失敬」

 ふわふわと口から紫煙を吐き出しショボンが笑い乍ら家を出て行ったのを確認すると、ブーンは
傍にあった茶を乱暴に一飲みし、其の儘立ち上がってツンに一瞥を投げてから家を後にした。


※若気る=男が女々しく色めいた様子をする。

43 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:04:01.03 ID:ozB3Z8zN0
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44 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:04:45.56 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「お待ち申し上げておりました」
( ^ω^)「……止せお、気持ちの悪い。最近特に君は若気男になったお」

 態(わざ)と普段とは違う口調で喋るショボンがそうブーンに戒められると、ショボンは口から紫煙を
吐き出し、床を見詰めて呟いた。

(´・ω・`)「……嬉しいのですよ。ああしてあの子が大きく為っていくのを見ていられると云うことが」
( ^ω^)「それは……まぁ、僕とて同じ気持ちではあるお」

 コン、と煙管を煙草盆の灰吹きの縁に叩き付けると、ショボンは綴じられてもいない紙の束を
ブーンの前に置いた。厚さからするに百と迄は行かぬものの、一度に目を通すには億劫になる
程の枚数であった。

45 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:04:57.98 ID:lDJ8n3O40
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46 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:05:37.51 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「暫(しばら)く前に僕が爪を頂いたのを覚えていますか」
( ^ω^)「爪……あぁ、あれかお」
(´・ω・`)「あれを調べてみたところ、興味深いことが分かりました」

 そう云ってショボンは紙の束を捲(めく)り始め、やがて目当てのものを見つけたかと思うと
其れを読み始めた。

(´・ω・`)「……ふむ。そうそう、あの爪、強度が平均に比べ突出して高いのです」
( ^ω^)「強度が高いと云うと……硬いと云う事かお?」
(´・ω・`)「ええ、其れは驚くほどに」
( ^ω^)「とは云え君、其れはツンが挟みで切ったものだお。そんなに硬いわけがないお」
(´・ω・`)「其れが僕も引っかかっているのです」

 やおら立ち上がりショボンは奥の方へと下がると、彫刻刀を片手に戻ってきた。

47 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:06:49.26 ID:s56t3pTJ0
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48 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:06:55.04 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「例えば此れで爪を切ってみましょう」

 床に置いた平たい石の上に小さな三日月形の爪を置くと、ショボンは爪目掛けて彫刻刀を振り
下ろした。刃先が石を叩く甲高い音に、ブーンは驚きのあまり目を見開いた。

( ;^ω^)「君、一体そんなに力をいれて、床板でも壊す積(つも)りなのかお」
(´・ω・`)「見て下さい」

 ブーンの言葉を気にも留めずショボンは彫刻刀の先をブーンに突きつけた。爪をつけた儘の刃は、
初めは彫刻刀が爪に刺さっているものだとブーンに思わせたが、事実は其の逆であった。
 ぽろりと爪が床に落ちた後、ブーンの見ていた刃先は、はっきりと窪んでいたのである。欠けた
わけでもなく、滑らかに窪んでいたのである。

( ^ω^)「此れは……どういうことだお」
(´・ω・`)「何をどうしても切れないのです。挙句には釘の代わりに板に打ち込むことさえ出来ました」
( ^ω^)「……そうかお。いや、併し君、だからどうだと云うんだお」
(´・ω・`)「……詰(つま)り、人ならざる強さを持つ爪を彼女は持っている、と云うことです」

 其の云い回しにブーンは敏感な反応を示した。彼はツンを特別扱いすることを何より嫌っていたのだ。
ショボンに研究と云う名目で彼女のことを調べられるのも、実の所不本意であった。

49 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:07:42.72 ID:s56t3pTJ0
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50 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:08:05.79 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……それなら何か、君は今改めて彼女を隠だと理解した、と」
(´・ω・`)「違います」

 言下にはっきりとそう否定すると、ショボンは少しの間を置き、ブーンの目を正面から見た。

(´・ω・`)「隠の其れは全く人と同じなのです。然(しか)れば認め難いことですが、彼女は既に
      隠の道から外れつつあるのかも知れません」
( ^ω^)「……隠の道から外れるとは?」
(´・ω・`)「外道の行き着く先は……鬼(おに)です。君も其の名を聞いたことがあるでしょう」
( ^ω^)「鬼とは……あの、鬼かお」
(´・ω・`)「ええ。其の昔恐れられた隠。其れこそ隠の外道、鬼であり、今尚語り継がれる物の怪の
      正体です」

 本の読み過ぎだろうと一笑に伏してしまおうかとも思ったブーンだが、併しショボンの表情は
真剣で其れが俄に彼の心を掻き立てた。

51 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:08:05.75 ID:VWhMj0ABO
wktk

52 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:09:20.81 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「併し、ツンが外道とは到底思えないお」
(´・ω・`)「……因果応報と云う言葉があります」
( ^ω^)「……いや、併しだな……」
(´・ω・`)「今事実として彼女が外道に落ちつつあるとしたら、必ず其れ相応の行為が過去に
      行われているのです」

 そこで突然ブーンが床に拳を叩き付けた。

( #^ω^)「君に説教をされに来たのではないお! 其の様なもの、あるわけがないお!
       いい加減酔狂にも程があるお!」
(´・ω・`)「……いや、勿論、僕とて同じ思いではあります」

 突如烈火の如く怒ったブーンだが、部屋の静けさに加え、落ち着いたショボンの視線に冷静さを
取り戻すと、一度目を伏せ溜息を吐いた。

( ^ω^)「……済まん。ちょっと頭を冷やしてくるお」
(´・ω・`)「いえ、些(いささ)か僕も口が過ぎました」

 其の儘ショボンに背を向け、ブーンは深々と降り積もる雪の世界へ逃げるようにして出て行った。

53 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:10:15.98 ID:pvNpc7Oh0

 ショボンの家を後にしたブーンは、未だ衰えの知らぬ降雪を見上げると、もう一度溜息を吐いた。
鼻から冷涼な風を吸い目線を下ろすと、ふとひっそりと佇む人影が近くにあるのに気付いた。

 ('、`*川「……」
( ^ω^)「君……」

 寂寥(せきりょう)とした雪景色に佇んでいた彼女は、併しブーンの言葉に返事をすることも無く、
背を向け遠ざかろうとした。
 彼女はしぃの従姉に当たる人で、此処等では名の知れた商家である伊藤家に三年ほど前嫁いで
来た人である。ツンとは普段より仲が好いが、件(くだん)の一件以来ブーンとは一度も言葉を交わした
ことは無かった。

( ^ω^)「その……待つお」
 ('、`*川「……」

 背を向けた儘静かに彼女は立ち止まったが、併し相変わらず言葉は無かった。
 だが何時までも其の様にしておくのはやはり居心地が悪い。加えてブーンにはどうしても彼女に
云いたいことがあった。


※寂寥=ひっそりとして物寂しいさま

54 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:10:33.49 ID:s56t3pTJ0
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55 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:11:39.53 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……こちらを向いて呉れないかお」
 ('、`*川「……厭です」
( ^ω^)「……」

 す、と縦に伸びた其の後姿があまりに凛としていてブーンは二の句が継げずにいた。併し其の
着物に描かれた雪持ち笹は、何か物云いたげに其処に在り続けていた。

( ^ω^)「……何と云って好いか、僕には分からんお。ただ……ツンとああして貰えて、本当に
      有難く思っているお。本当に……申し訳ないお」

 云って、握り締めた拳をぶら下げた儘、ブーンは不恰好に頭を下げた。
 雪が降る音など今まで無いと思っていたが、併し此の時確かに雪の落ち往く音がブーンには
聞こえていた。紗(さ)、紗、と蕭(しめ)やかに降る雪の一片々々にまで何かを非難されている様な
感覚を覚えていたのだ。


※紗=擬声語として使用。当て字 ※蕭やか=ひっそりと静かなさま

56 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:12:53.26 ID:s56t3pTJ0
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57 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:13:00.27 ID:pvNpc7Oh0
 ('、`*川「男が其の様な見っともない姿をしてはいけません。顔を上げて下さい」
( ^ω^)「……済まん」

 顔を上げたブーンの前に居た其の人は、雪女郎(ゆきじょろう)の様に白く、雪がとても好く似合う
人であった。そしてやはり雪女郎の様に、其の様を眺めるだけで凍えてしまう様な人であった。

 ('、`*川「……話は聞いています」
( ^ω^)「話?」
 ('、`*川「貴方が頭を下げることではありません」
( ^ω^)「……」
 ('、`*川「ですが、私の心にはどうしても割り切れない部分が残ってしまうのです」
( ^ω^)「いや、尤(もっと)もだお」
 ('、`*川「何故其の様な態度を取るのですか……其の様な腑抜に為るならば何故っ!」
( ^ω^)「……済まん」
 ('、`*川「……失礼します」

 いつの間にか耳の奥に聞こえていた雪の音は消えていた。併し乍ら雪持ち笹は、暫し其の重みに
耐え続けねばならぬ様であった。

 いつになれば心に降る雪が融け安息の時が訪うのだろうかと、其れを眺める男もやはり身に
降り積もる雪が唯そっと融け往くのを想う許りであったのだが。


※雪女郎=雪女

58 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:14:10.24 ID:pvNpc7Oh0

 家に入り肩に積もる雪を払っていると、ふと勝手口の戸の締まる音がした。

( ^ω^)「……ツン?」

 今更外に何用があったのだろうと不思議に思ったが、さして気にすることも無くブーンは其の儘
中へと上がる。

( ^ω^)「ツン、今帰っ……ん?」

 見ると中は蛻(もぬけ)の殻で、夕食の仕度は済んでいる様であったが、肝心のツンが何処にも
見当たらなかった。すると先程の音はツンが外へ出た為のものなのかと思い、ブーンは其の場に
座りツンを待つことにした。

 だが待てど暮らせどツンの帰る気配は無い。流石にどうしたものかと勝手口の方へ回ると、
やはり其処にツンの履物は無かった。
 若しや何事かあったのかとブーンは心配になり、自らの履物を出して勝手口から外へと出た。

59 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:14:55.39 ID:s56t3pTJ0
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60 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:15:37.66 ID:pvNpc7Oh0
 先程から降り続けていた雪はやはり今も尚其の様子を変えず、併し空の色は昏(くら)く変わり果て、
顔を出していた月に雲が掛かる様を見るに、辺りはもう直ぐ闇に包まれてしまうだろうと思われた。
 仄(ほの)暗い足許を見詰めると、ブーンは其処に薄らと雪の被さった足跡を見つけた。一方向
にのみ伸び往く其れはツンが何処かへ行った儘であることを示していた。其れに幾許かの不安を
感じ、ブーンは足跡を辿り始めた。

 家の外はやはり静かで、自らの雪を踏む音のみが世界の中に響いていた。足跡は真直ぐ畑に
伸びていたが、目を凝らせども畑に人影は無い。強いて挙げるならば雪山の様なものが見える
程度だ。

( ^ω^)「ツン!」

 やがて不安からブーンはツンの名を呼んだ。足跡が在るならば其処に人が居て然り。そう思って
上げた声は、だが予想に反して妙な音色の応答を受けた。

61 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:16:00.18 ID:s56t3pTJ0
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62 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:16:51.67 ID:pvNpc7Oh0
――琳(りん)

 確かに聞こえた冬には冷たすぎる其の音は、金属で出来た楽器の音の様でもあり、風の吹き
荒ぶ音の様にも聞こえた。音は短く、併し尾を引き、耳を掠めて往く。

( ^ω^)「ツン!」

 其の音を確かめる様に、ブーンは再びツンの名を呼んだ。

――琳

 するとまた甲高い音が何処かから聞こえてきた。其れは間違いなく自然ではない何かに因って
出された音であり、そしてツンの名に反応したものであった。
 ブーンは何か薄ら寒いものを感じ乍ら音の聞こえた方へと歩を進めた。

 近づくに連れ大きくなってきた物が一つ在った。其れは先程雪山だと思っていた塊である。
此の空を包む昏冥(こんめい)は確かに其れを隠していたと云うのに、此の身に纏う大気は音を伝え、
此の地に降る雪は其の塊を隠し切れずにいた。


※琳=擬声語として使用。当て字 ※昏冥=暗くてはっきりしない様

63 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:17:28.58 ID:Jml3XqUr0
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64 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:17:36.79 ID:s56t3pTJ0
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65 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:17:49.24 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ツン……」
ξ゚听)ξ「……あなた……どうしたの? 其の様な顔をして」

 其処には雪の上に正座するツンの怪しげな姿があった。未だ振り続ける雪の重みに前髪が
垂れ、其の目の奥を窺うことは出来ない。併しツンは笑っている様であった。其れは極めて
日常的で穏やかな笑みと、そして声色。だが其れこそが不自然に他ならなかった。此の状況に
其の色。其れは日常を装いつつも、裏面に鬼を飼う気色。

( ^ω^)「ツン……其処を退いて呉れないかお」
ξ゚听)ξ「何故ですか? さあ、お腹も空きましたでしょう。早く帰りませんか?」
( ^ω^)「……其の後ろの掘り返した跡のある雪は、そして君の其の手は、何なんだお」

 普通に考えるならば其れは野菜を掘り返した跡である。併し乍らツンは野菜を一つも持たず、
そして其の手は血の巡りだけでは説明できぬ朱色を帯びていたのだ。

66 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:19:08.09 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「何事もありません。野菜を探してあちらこちらを掘り返してみたのですが、結局
       見つからず、終いには手があかがりで此の様になってしまったのです」
( ^ω^)「ではツンはもう帰れ。僕は此処に残るお」
ξ゚听)ξ「いえ、あなたを差し置いて先には帰れません」

 結末の見えぬ押し問答を打ち破ろうとブーンは、やおらツンに近づくと其の手を掴み無理矢理
彼女を立たせた。そしてツンを押さえた儘ブーンは足で其の場を掘り始めた。

ξ;゚听)ξ「止め……止めて下さい!」
( ^ω^)「……」

 必死に邪魔をしようと暴れるツンを無視し、ブーンはただ其処に何があるのかを確かめようと
掘り続けた。併し其の直後、掴んでいた筈のツンの手が突然離れ、ブーンは途轍もない衝撃に
襲われると、もんどり打って立っていた場所から随分と離れた所へ転がっていった。

( ;^ω^)「痛……一体……ツン?」

 腰元を暴れる鈍痛に耐え乍らブーンはゆっくりと立ち上がり、未だ呆然と立ち尽くすツンの
姿を見た。


※あかがり=あかぎれ

67 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:20:00.35 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「いや……止めて……」

 其の瞳はブーンを見ている様であったが、言葉は何処か其れよりも遠くに発せられている
様であった。そして直後、ブーンは奇妙な光景を見た。

( ^ω^)「……ツン?」

 ゆらゆらとツンの髪が風に揺れたかと思うと、其れ等はまるで浮力を得たかの様に漂い始め、
すっかりと暮れてしまった夜闇の中で、月明かりよりも淡くぼんやりと輝き始めたのだ。更には、
焦点のまるで合わぬ瞳の黒が、今まで見たことも無い艶やかな金色に侵され始めていた。

( ;^ω^)「ツン!」
ξ゚听)ξ「……」

 ブーンは直ぐに駆け出すと思い切りツンの両肩を掴み、揺さぶった。ツンが何か物の怪の類に
取り憑かれたかの様な光景を見て、ブーンは其れを必死に追い出そうとしたのだ。

68 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:20:12.61 ID:s56t3pTJ0
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69 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:21:19.50 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ツン! おい、ツン!」
ξ゚听)ξ「……え?」

 途端、物の怪が去っていったのか其の眼に生気が宿り、其の髪もツンに従いサラサラと風に
靡(なび)くだけに為っていた。

――琳

 不意に聞こえた其れは風に乗って耳に飛び込んできた鈴の音であった。鈴の音はあの不自然な
雪の上を跳ね、ブーンに其の存在を知らしめた。其れは首輪に繋がれた鈴。そして首輪が繋ぐは
何とも知れぬ動物の遺骸(ゆいがい)。ほぼ其の原型は留めておらず、ブーンには其れが何かの
判断は付かなかったが、併し其れが何かによって喰らわれていると云うことだけははっきりと分かった。

( ;^ω^)「ツン……」
ξ゚听)ξ「……いや……違う……」

 時と云うものは何故斯くも残酷なものなのだろうか。どうして此の地に降る雪は、ただ降り積もる
だけで好しとして呉れぬのだろうか。

70 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:22:48.26 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「君は……君がやはり……」
ξ゚听)ξ「あなた……その……」
( ;^ω^)「……」

 風が止み、辺りは静かに雪が降るだけになった。そしてゆっくりと、ツンの口が開かれた。

ξ゚听)ξ「……其れは、犬です」
( ;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「御免なさい……。全て、私の仕業……なのです。私が、其の犬を喰らったのです」
( ;^ω^)「く、喰らった? ……莫迦な……どうしてだお……」
ξ゚听)ξ「今日だけではありません。昨日も一昨日も……私は犬を食らっていました」
( ;^ω^)「どうして……どうして其の様な……」   
ξ;;)ξ「……あぁ、私は、やはり化生(けしょう)なのです。私は、なんとも浅ましい化生の……あぁ!」

 嘆き崩れるツンに、呆然と立ち尽くすブーン。庭先に降る雪は確かに時を進めてはいたが、
徒(いたず)らに彼等を冷やす許りで、決して悲劇を覆い隠すことは無かった。

71 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:23:56.90 ID:pvNpc7Oh0
――冬が暮れ、浩々(こうこう)として静かな雪天(せってん)を窓から眺めては、牡丹雪の降る様に
春の訪いを予感していた。芽吹きの季節は如何な不安をも掻き消す程の生命に満ち溢れており、
やがて春が来た頃に彼等はまた二人、桜の下に愛を誓い合う筈であった。

 其れは永遠に変わらぬと思われた幾重にも重なる暮らしの一片(ひとひら)。矮小な存在にさえ
有為転変(ういてんぺん)を忘却せしむる程の甘い花蜜の香。

 併し乍ら早すぎる変異は、雪解けも待たずに忍び寄ってきていたのだ。そして芽吹いた冬の芽は
雪の許で確実に成長し、彼等からそっと春の芽吹きを奪い始めていたのだ。


※浩々=果てしなく広々としている  ※有為転変≒諸行無常

72 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:24:18.58 ID:lDJ8n3O40
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73 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:25:16.16 ID:pvNpc7Oh0


 其れからの日々、ツンは度々我を忘れて暴れるようになった。初めは数秒許りであったものが
いつしか数分、数時間、一晩と長くなっていき、次第にブーンの手には負えなくなっていった。

 そして終にはツンの変化が村に知られるようになり、ツンが隠であると噂が立つ様になった。
誰かがツンを隠であると云ったわけではない。其々の心にツンへの疑念が湧き、其れが昔からの
云い伝えと合致し、結果として村の者殆どが暗黙の内にツンを隠であると認めてしまったのだ。
 其の様な村人の意思に後押しされる様にして、終に村長がブーンを呼び出した。理由は云う迄も
無くツンの事であり、此の村から出て行って欲しいと云うものであった。

( ^ω^)「併し、僕は未だ解決策は別にあると思いますお。そう、例えば――」
   ('A`)「ならん」

 先程から幾らか案を出してはいるのだが、村長にはブーンの話を最後まで聞く様子は無く
どうにも決意は揺るがぬ様であった。

74 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:26:09.60 ID:s56t3pTJ0
支援

75 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:26:34.05 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「どうして。ツンは此の村の一員だお」
   ('A`)「わかっている」
( ;^ω^)「なれば!」
   ('A`)「……なれば他の者もまた此の村の一員。ブーン、儂は誰一人として傷付けたくは無い」
( ^ω^)「ツンは未だ人を襲ってないお」
   ('A`)「未だ、な」
( ^ω^)「……」
   ('A`)「ブーン、人は弱い。それも儂の様な爺ならば尚更だ」
( ^ω^)「でも……」
   ('A`)「君達が悪いんじゃない。……頼む、弱い儂等の為に、此処を離れては呉れまいか」
( ^ω^)「……頼む、なんて……」

 出て行って呉れと頭を下げられることは、ブーンにとって非常に衝撃的なことであった。
優しい拒絶は罪悪感に憎しみを生み出せず、ただ悔しさの流れる儘にするしか出来なかった。

   ('A`)「今直ぐに……とは云わん。何か人手が居るなら云って貰って構わない」
(  ω )「……解ったお。心遣い感謝しますお」

 膝に両手をつき一礼して立ち上がると、ブーンは其の儘村長に背を向け其の場を後にした。
手を掛けた戸には、夕陽の色がじわりと染みていた。

76 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:27:32.02 ID:s56t3pTJ0
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77 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:27:43.60 ID:pvNpc7Oh0
  (,,゚Д゚)「旦那! 話はもう終わったのか?」
( ^ω^)「……ギコ」

 外へ出るなり、木の枝を片手に持ったギコが目を輝かせて話しかけてきた。其の後ろでは
ジョルジュとちんぽっぽがツンと共に遊んでいるのが見え、ブーンは息が詰まりそうになるのを
感じ乍らも、ギコに向かって微笑んだ。

( ^ω^)「こってり絞られたお」
 (,,゚Д゚)「此れだからブーンの旦那は仕方ねぇ。此れじゃあ御内儀(おないぎ)さんが可哀想だ」
 ( ゚∀゚)「安心しな! ブーンが駄目でもツン姉ちゃんは俺がきちんと面倒見るからよ!」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
ξ゚听)ξ「あら、有難う」
( ^ω^)「ジョルジュ、お前はもう少し年長者を敬うお」
 ( ゚∀゚)「歳だけじゃ敬えないってもんさ」


※御内儀=他人の奥さんを敬う言い方

78 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:28:44.16 ID:pvNpc7Oh0
 ふん、とジョルジュが鼻を鳴らしたところで、家の中から村長の三人を呼ぶ声がした。其れに従い
逃げる様にジョルジュが家の中へと飛び込んだ。
 其れを見ていたちんぽっぽは、ジョルジュの態度によって空気が悪くなると思ったのか、困った顔で
ブーンとツンの顔を何度も交互に見た後ブーンの傍に駆け寄ると、一所懸命天に向かって広げた
片手を伸ばした。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
( ^ω^)「なんだお?」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

 小さく飛び跳ね乍ら先程から彼女が同じ言葉を繰り返すのは、多くの言葉を話すことが出来ない
からである。元々言葉を覚えるのが苦手なのではなく、どうやら途中で言葉を失ったらしい。其の
原因は推し量るのも野暮と云うものであるが、併し彼女には其れを補って余りある快活さがあった。

79 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:29:20.26 ID:s56t3pTJ0
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80 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:30:45.21 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ははあ……ちんぽっぽは僕の事をちゃんと敬って呉れると云うことかお?」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
( ^ω^)「嬉しいお。ちんぽっぽからもジョルジュによく云い聞かせてやって欲しいお」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

 任せとけと云わん許りに大きく頷くと、ちんぽっぽは元気よく家の中へと駆けて行った。
そして始終(しじゅう)を見守っていたギコが最後に、静かにブーンに近寄ってきた。

  (,,゚Д゚)「それじゃあ旦那、お気を付けて。ジョルジュに云われっぱなしにならねぇ為にも、ここは
      一つ明日から心を入れ替えて頑張って下さい」
( ^ω^)「あ……あぁ、承知したお」

 矮躯(わいく)を折り曲げ一礼すると、ギコも静かに家の中へと入っていった。ちんぽっぽよりも
一二寸低い身の丈は、ジョルジュに比べれば更に三四寸足りぬものだが、やはり年長者は経た
歳の数だけ其れなりに礼節を知っている。或いは自分が纏め役でありたいと云う心からなのだろうか。


※矮躯=背丈の低い体

81 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:32:01.55 ID:pvNpc7Oh0
 ブーンはそうしている内に、我知らず過去にあの子等と戯れあった日々を想い始めていた。
併しツンの顔が視界に入るや否や、其れ等を振り払い、今度は気持ちを切り替える為に
短く息を吐いた。

ξ゚听)ξ「それじゃあ、帰りましょう。色々と此れからの準備もありますし」
( ^ω^)「……此れから、とは?」
ξ゚听)ξ「私は直(じき)此処を離れなくてはなりませんでしょう?」
( ^ω^)「……聞いていたのかお」
ξ゚听)ξ「いえ、聞かずとも分かります。それに誰に咎められずとも、其れに甘んじていては
      いけないと云うものです」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「長い間、本当にお世話になりました」
( ^ω^)「ツン?」
ξ゚听)ξ「幾許の心残りもありますが、また元の生活に戻るだけと考えれば、思い出の数だけ
      前よりも私は幸せです」

 斜陽を背に微笑むツンの姿は、此れ迄に無いほど心許なく見えた。此の儘日が沈んで
しまったら果たして明日は来るのだろうかと、そう思わせる程に。

82 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:32:58.10 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「何を、云っているんだお……」
ξ゚听)ξ「言葉の通りです」
( ^ω^)「ツン……」

 其の時全てが自分から消え失せ往く様な錯覚にブーンは恐怖した。併し其の不安に抗う為、
ブーンは強い口調でツンに云った。

( ^ω^)「本当に此処を離れる積りなのかお」
ξ゚听)ξ「……はい」
( ^ω^)「……それならばツン。二度と其の顔を僕に見せないと約束するお」
ξ゚听)ξ「……はい。約束……しましょう」

 俄に曇るツンの表情を見てブーンは表情を和らげると、ツンの肩にぽん、と手を置いた。

83 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:33:55.05 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「じゃあさっさと引越しの準備をしに帰るお。いやなに、僕も一度静かなところでのんびり
      過ごしたいと思っていたところだお」
ξ゚听)ξ「……はい?」
( ^ω^)「君の悪い癖だお。心の中は悲しい癖に無理矢理笑う。其の様な偽りの顔、僕に二度と
      見せるなお。僕には何も力になれないのかと、寂しい気持ちになるお」
ξ゚听)ξ「あ――」

 西日の射したツンの顔が更に紅く染まり、気付けば彼女は驚いた顔の儘ほろほろと涙を流していた。
そして終には滔々(とうとう)と涙に暮れてしまった彼女は其の後、陽がすっかり沈んでしまってもブーンの
胸の内から離れることは無かった。


※滔々=とどまることなく流れるさま

84 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:34:14.61 ID:s56t3pTJ0
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85 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:35:26.98 ID:pvNpc7Oh0

 引越しの準備は万事恙(つつが)無く進んでいた。村の者には全て事情は伝わっており、あの子等
にはツンの療養の為の転地であると伝えた。渋い顔をしていた彼等も、ツンの事を思い不平を口に
することは無かった。

 新居は山の奥深く。人も稀々(まれまれ)で子等の近寄れぬ所にあった小屋に、幾らか手を加えて
住む事になった。決して住み心地がいいとは云えぬ環境であったが、二人にはあまり関係が無い様
であった。まるで幼い頃に返った様だと笑いさえしたのだ。

 其の様な日々の中でブーンは自ら吐いた嘘である療養と云う言葉に、また自ら納得していた。
若しや人里離れて暮らしていれば、本当にいつかツンは治るのではないか。何も心配せず暮らして
いたあの日々が戻るのではないか。此の頃になるとブーンは毎日の様にそう思っていた。


※稀々=ごくまれなこと

86 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:36:39.21 ID:s56t3pTJ0
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87 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:36:40.05 ID:pvNpc7Oh0
 そして、いざ引越しを明後日に控えた晩。村長が折角だから宴を開こうと云ったのをブーンは
断り、ツンと二人静かに家で過ごしていた。
 静かな夜は否応無しに此れ迄の生活を振り返らせ、また此れからの生活に想いを向かわせる。
一言も交わされる言葉は無く、併し沈黙は身を刺す様に辛かった。

( ^ω^)「……今日は、明日に備えてもう寝るお」
ξ゚听)ξ「はい」

 残り少ない我が家での夜だと云うのに、たった其れだけの言葉を残して二人は蒲団の中へと
潜っていった。

88 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:37:20.03 ID:s56t3pTJ0
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89 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:37:36.21 ID:if78n9u1O
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90 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:45:49.99 ID:VWhMj0ABO
追いついた
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91 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:46:39.25 ID:pvNpc7Oh0
 ブーンは蒲団の中で此れからの事について考えていた。
 やはり不安はあった。此れから先、ツンが鬼と為った儘戻らなくなることが無いとも限らない。
其の時一体自分はどうすれば好いのだろうか。思う気持ちだけでは彼女を救うことが出来ない。
手を伸ばせば届く位置に居る彼女だが、全身で彼女を包み込んだとしても救うことが出来ぬのだ。

( ^ω^)(……いかんお)

 暗闇は心を不安にさせる。外から与えられる刺激が少なくなると、自然と内なる刺激を求めて
考え事に嵌(はま)ってしまう。ブーンは纏わり付く厭な思考を振り払う様に寝返りを打った。

 其の寝返りを打った先、目の前に疎(おろ)見える白い塊があった。目を凝らしてみると、其れは
折り曲げられた膝であり、白を辿り見上げた先には寝衣(しんい)よりも尚白いツンの細面(ほそおもて)
があった。


※疎見える=ぼんやりと見える ※寝衣=寝間着

92 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:48:11.66 ID:s56t3pTJ0
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93 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:48:41.25 ID:pvNpc7Oh0
 視線の合わぬ儘にツンはやおら三つ指をつくと、深くそして緩やかに音も立てず頭を下げた。
其の姿は、寝衣姿だと云うのに宛(さなが)ら豪奢な振袖を着ているかの様な荘厳さを纏っており、
思わずブーンは、ぐっと息を飲んだ。
 やがて静々(しずしず)と顔を上げたツンの表情は、眉から目、頬、口の端に至るまでが其れ迄
人に感じたことの無い美を感じさせ、其の放つ気高さにブーンは思わず茫(ぼう)としてしまう。

( ^ω^)「……夜更けに其の様に改まって、どうしたんだお」
ξ゚听)ξ「……」

 ツンの瞳は暗夜と同じ深い黒色にも拘らず、まるで夜の入り江に流れ着いた二つの黒真珠の様に
決して周りに溶けることなく其の輪郭を保ち、又しっとりと濡れた儘ブーンを見詰めていた。


※荘厳=重々しく、おごそかで気高い様 ※茫と=ぼうっと

94 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:49:00.01 ID:s56t3pTJ0
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95 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:50:36.70 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「私は幸せでした」
( ^ω^)「……何」
ξ゚听)ξ「貴方様に添わせて戴くことが出来て、本当に幸せでした」
( ^ω^)「……ツン? 一体どういうことだお」

 暗闇の中を惑う二対の瞳は、併し言葉とは裏腹に其の意する所を理解していた。今其の口から
放たれるは確認の儀であり、そうあってはならぬと云う儚い人の想いを留める錆びた鎹(かすがい)
である。

ξ゚听)ξ「本当に……」
( ^ω^)「……止めるお」
ξ;;)ξ「本当に幸せでした」
( ;^ω^)「ツン!」

 見るとツンの髪はゆらゆらと白く仄輝き、其れに呼応するかの様に涙に濡れる瞳は、水へ油が
混ざっていくが如く、深い黒色が粘稠(ねんちゅう)な金色に侵されていく。


※粘稠=粘り気があり、密度が濃いさま 

96 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:52:15.22 ID:lDJ8n3O40
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97 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:52:38.48 ID:pvNpc7Oh0
ξ;;)ξ「……あァ……ァァ……」
( ;^ω^)「ツン!」
ξ;;)ξ「!」

 呼号一声。ブーンは乱暴にツンの肩を掴み、二三度揺さぶると其の儘躰をきつく抱きしめた。
明らかに変異が始まっていた。今彼女が鬼に為ったとして、次戻るのはいつなのだろうか。否(いや)、
果たして戻るのだろうか。其の様な不安がブーンを掻き立てる。

( ;^ω^)「往くな。もう僕を置いて往かないで呉れお。そんなに何度も僕は……」
ξ゚听)ξ「ブー……ン……」

 そしてやおら其れに応える様にブーンの背中へと回されたツンの手であったが、本人の意思とは
逆様(さかさま)にいつの間にか伸びていた鋭利な爪を以って其の肉を傷付けていく。
 併し、縦令着物に赤い染みが滲もうともブーンが苦痛や不平に声を漏らすことは無かった。


※呼号=大声で呼ぶこと

98 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:53:07.87 ID:s56t3pTJ0
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99 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:54:25.18 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「ブーン……あァ……御免なさい」
( ^ω^)「大丈夫だお。だから、もっと躰を預けて欲しいお。何があっても絶対に離さないお」

 其の名を呼ぶほどに、ブーンは心の中でツンに対する愛情が膨れ上がっていくのを感じていた。
そして其れは抑えられぬ衝動となり、よりツンを抱きしめる手に力が篭る。併し其れと同時に背を刺す
痛みもまた大きくなっては、じっとりと着物が張り付くのを感じ、どうしたものかと遣り切れぬ思いで
頭がおかしく為りそうであった。

ξ゚听)ξ「ブーン……お願い……離さ……ないで」
( ^ω^)「ツン、大丈夫だお。僕はここに居るお」

 言葉は併し儚く、錆びし鎹は頼りなく、其処に心を繋ぎ安心せしむる程の力は到底無かった。
其れを二人は何より緊々(ひしひし)と感じており、其の身を取巻く不安を如何にして消さんと
思い乍らもただ抱き合っていた。

100 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:54:57.48 ID:if78n9u1O
支援

101 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:56:11.91 ID:pvNpc7Oh0
 暫時(ぜんじ)して、今までブーンが抱きしめていた柔らかな躰が、其の熱を残してゆるゆると離れた。
するとツンは不意に其の身を纏っていた寝巻きの前を開(はだ)けさせ、鋭利な犬歯を覗かせ乍ら云った。

ξ゚听)ξ「最後の、我が儘です……私が、私が消えてしまう前に……どうか……」

 言葉尻を浮かせた儘視線を向けるツンの其の肌は、仄明かりの下でも絹の如く滑(すべ)やかに見え、
また熱を帯びて紅く色付いた様は扇情的な魅力に満ちていた。光と影、山と谷。其の滑らかな起伏の
一つ一つにブーンの目を惹き付けて止まぬ艶があった。

 然れども尚、其の視線に対し面映(おもはゆ)さを微塵も感じていないかの如く見詰め続けるツンの
眼差しに、ブーンは其の真意を一瞬計り兼ねた。


※面映さ=決まりが悪い様、照れくさい様

102 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:56:25.03 ID:VWhMj0ABO
支援

103 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:56:40.14 ID:s56t3pTJ0
支援

104 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:57:25.98 ID:VWhMj0ABO
支援

105 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:57:47.28 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」

 だがブーンは其れを確かめようなどとはしなかった。ただ心の赴く儘に、右手をツンの頬に当て
其の唇から覗く犬歯を親指の腹で優しく撫ぜると、其の儘ゆっくりと唇を重ねた。

 一度唇を重ねてからは、其の柔らかな感触に思考が侵され、ただ快楽へと転がり落ちていく。
 夜を乱れる吐息の中で、重ねられた唇は其の後何度も離れては付き、離れては付きを繰り返し、
互いが其の内側にある何かを欲し続けた。やがて口内から誘い出されたかの様に舌が現れ、
うねり、絡み合い、真赤な唇を粘つく唾液でしとどに濡らし乍ら、其処彼処(そこかしこ)を暴れまわる。

 そうして舌から送られてくる刺激に頭が慣れてきた頃、二人は口を離しもう一度見詰めあった。
 ツンの其の斑に金色の混ざる潤んだ瞳や、てらてらと艶めく犬歯、それに何かを堪える様な
其の悲痛な面持ちに、ブーンは不謹慎だとは知りつつ、此の上ない色気を感じていた。
 短く漏れる熱を帯びた甘やかな吐息も、しがみ付く様に袖を掴む其の仕草も、呼吸をする度
上下する肩から鎖骨にかけての動きも、どれも全てがブーンを捕らえて離さなかった。


※しとど=ひどくぬれるさま

106 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:58:11.56 ID:if78n9u1O
支援

107 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:58:27.85 ID:VWhMj0ABO
支援

108 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:58:59.48 ID:s56t3pTJ0
支援

109 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:59:40.98 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……縦令、君が鬼に為ったとしても」
ξ゚听)ξ「……?」
( ^ω^)「其れで僕は君が消えてしまったなんて思うことは無いお」
ξ゚听)ξ「……でも、私は……」

 言葉の続きを待たずにブーンは再びツンに其の唇を寄せた。其の様な強引な口封じもツンは
抵抗することなくゆっくりと目を閉じ受け入れた。そしてブーンは其の儘ゆっくり褥(しとね)へと
ツンを倒すと、覆い被さった儘一度口を離しツンの顔を見つめた。
 やがて閉じられていたツンの瞳が開き、視線の絡み合うこと幾許。ブーンはツンに微笑みかけ、
ゆっくりと頭を撫ぜた。そしてツンが再度目を閉じたのを確認すると、瞼に軽く口付けをした。

( ^ω^)「だから……最後などと云わないで欲しいお」
ξ゚听)ξ「……はい」

 そうして鬼も眠る妖しい夜に、雪原の花は月を見上げた。朝雲暮雨(ちょううんぼう)と為りては
何時々々迄もと夢見る花の、夜は更けていく――。


※朝雲暮雨=男女の交わりを表す

110 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:00:18.80 ID:VWhMj0ABO
支援

111 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:00:56.41 ID:s56t3pTJ0
支援

112 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:01:47.13 ID:VWhMj0ABO
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113 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:03:11.94 ID:pvNpc7Oh0


 やがて満月が彼は誰(かわたれ)に朧付いた頃、やけに静かで底寒い空気にブーンは目を覚ました。

( ^ω^)「……?」

 其れは本当に静かな、まるで時間が止まってしまったかの様な静寂。寝惚け眼と云う様に
寝惚け耳とやらがあるのなら其の仕業に違いないが、やはりどれだけ経っても音一つ聞こえない。
 若しくは本当に耳がおかしく為ってしまったのかと立ち上がると、衣擦れの音が聞こえた。
爪先を動かせば褥に擦れる音もした。
 それでは一体此の静けさは何なのかとブーンは辺りをもう一度眺め回した。

( ^ω^)「……ん?」

 耳だけでなく、其れは目にも静かであった。家具がひっそりと並ぶだけの部屋。敷いてある蒲団。
動きのまるで無い世界には、確かに先程まで在ったものが無かった。


※彼は誰=たそがれの朝版 ※朧付く=ぼんやりと曖昧になる ※底寒い=身体のしんまで冷えるように寒い

114 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:03:36.40 ID:s56t3pTJ0
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115 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:04:03.77 ID:if78n9u1O
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116 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:04:11.02 ID:VWhMj0ABO
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117 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:05:29.06 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ツン?」

 途端に静寂は音も無く騒ぎ始める。時間は転がり落ちる様に動き始め、寒さが躰の心まで
染み渡る。足を持ち上げ枕を返す。部屋の中央まで歩き、改めて眺め回す。
 やがて時間はブーンを置き去りにした儘何処かへと走り去っていく。冷たさと不安だけが
背筋を纏わりつき、四肢への血巡りを鈍らせる。

( ;^ω^)「ツン!」

 ブーンは直ぐ様家を飛び出し辺りを眺めた。窒息しそうな程静かな雪景色。其の先に見たことの
ある寝衣を見つけ、ブーンは駆け出し其の腕を掴まえた。

ξ;゚听)ξ「わ!」

 突然の出来事に一驚を喫したツンの声にブーンは確信したのだが、同時にえも云われぬ違和感を
覚え、ぞくりとした。

118 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:05:56.17 ID:if78n9u1O
支援

119 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:06:06.06 ID:s56t3pTJ0
支援

120 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:06:49.91 ID:VWhMj0ABO
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121 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:07:35.04 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……ツン? 驚かすなお。てっきり居なくなったかと思ったお」
ξ゚听)ξ「?」
( ^ω^)「どうしたんだお? そんなにじろじろと僕の顔を見て」
ξ゚听)ξ「ブーン?」
( ^ω^)「そうだお。僕以外に誰が居るんだお」
ξ゚听)ξ「いつ、あいにきてくれたの?」
( ^ω^)「……ん?」
ξ゚听)ξ「ここ、そんなかんたんにこられないんだよ?」
( ;^ω^)「……ツン?」

 違和感が全身を包み、不安が心臓をざらつく舌で嘗め上げた。

122 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:07:53.17 ID:VWhMj0ABO
支援

123 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:09:25.29 ID:pvNpc7Oh0
ξ*゚听)ξ「あ、ブーン、あまざけもってきてくれた?」
( ;^ω^)「いきなりどうしたんだお。冗談は止めて欲しいお」
ξ#゚听)ξ「あまざけまたわすれたの?」
( ;^ω^)「ツン、君の其の口調、まるで……」
ξ(゚、゚#ξ「もうブーンなんてきらい! しらない!」
( ;^ω^)「……嘘だお。嘘……嘘だお!」

 頭は事実を処理していたが、併し其の理由を掴めずに理解がまるで出来ていなかった。
夢でもまだ此れより整合性があると云うものだ。ブーンは思わず其の肩へ乱暴に手を伸ばす。

ξ;><)ξ「いやだ! いたい! はなして!」
 ( ;^ω^)「悪い冗談は止めるお! 君はもう廿に成るんだお! 恥ずかしくないのかお!」
ξ;><)ξ「しらない! やだ、ブーンきらい!」
 ( ;^ω^)「嘘だ……お……」

 其の体躯も立派なツンは、中身を出会った頃のものへと逆戻りさせていた。其れはまるで
平和であったあの頃に戻りたいと云うブーンの懐古心を嘲笑うかの様な、残酷な出来事であった。

124 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:09:31.20 ID:Q397TH/VO
支援

125 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:10:10.01 ID:if78n9u1O
支援

126 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:10:21.19 ID:s56t3pTJ0
支援

127 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:11:50.45 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「此の様なことがあるんですね……」

 壁を手で何度も叩き乍らはしゃぐツンを見てショボンは暫し呆然としていたが、不意にそう漏らした。
朝一番、ショボンの家の戸を叩き一頻り騒ぎ立てたブーンは、今では随分と大人しくなっていた。

( ^ω^)「ショボン、君は此れに心当たりはないのかお?」
(´・ω・`)「残念乍ら、此れは隠し事無しに僕の知るところではありません」
ξ゚听)ξ「ブーン! ひまー!」
( ;^ω^)「あーあー、壁を掘ったら駄目だお! しょぼくれおじさんに怒られるお!」
(´・ω・`)「誰がしょぼくれですか……」

 ショボンは立ち上がり近くにあった本棚に並ぶ書物の背表紙を横にずっと指でなぞっていったが、
其れを何段繰り返してもどうやら目当ての物には出会えなかったらしく、煙管に煙草の葉を詰めると
どっかと座り火を点け、其れを銜えると苦々しい表情で紫煙を吐いた。

ξ゚听)ξ「くも」

 ツンが指差した紫煙は尾を引き乍らゆるゆると昇り、天井にぶつかると音もなく其の儘曖昧に
なっていった。結局指差した先には煙すら許さぬ堅牢に組まれた天井板がただ在るだけであった。

128 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:12:11.99 ID:VWhMj0ABO
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129 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:12:55.17 ID:s56t3pTJ0
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130 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:14:00.88 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「それにしてもだ。君は此のツンに覚えがあるのですか?」
( ^ω^)「あるお。僕は幼い頃にもツンと出会っているんだお。其れは前に話した筈かと……」
(´・ω・`)「併し、其れにしては……幼過ぎはしませんか?」
( ^ω^)「……幼過ぎる?」

 ブーンはそう云われ、今一度過去の記憶を掘り返していた。過去に見たツンはやはり無邪気に
はしゃぎ、怒り、喜び、悲しんでいた。一体それでは何を以ってショボンは幼いと云っているのだろうか。

( ^ω^)「恐らく今は急な出来事で面食らっているだけだお」
(´・ω・`)「そう、ですか」

 燃え尽きた煙草の葉を捨てると、ショボンは新たに葉を詰めることなく煙管を玩び乍ら溜息を吐いた。

(´・ω・`)「君、此の様に為ってもやはり引越しはするのかい?」
( ^ω^)「勿論。其れは僕とツンが決めたことだお。今更変える必要も無いお」
ξ゚听)ξ「ねえねえ、ブーン」

 一人遊びに飽きたツンが二人の会話に興味を示したのか、胡坐(あぐら)を掻くブーンの膝の上に
乗ると、円らな瞳でブーンを見上げこう問うた。

131 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:14:04.35 ID:VWhMj0ABO
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132 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:15:05.15 ID:s56t3pTJ0
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133 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:16:03.74 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「なんで、おひっこしするの?」

 途端、眼の奥でぐらりと揺れが起こったかの様な錯覚に陥ったブーンは、其れを悟られまいと
考える仕草と混同させ目頭を押さえると、落ち着いたのを確認してから口を開いた。

( ^ω^)「村長さんに迷惑を掛けるからだお」
ξ゚听)ξ「どうしてめいわくなの?」
( ^ω^)「其れは……」
ξ゚听)ξ「ブーン、そんちょうさんに、いじめられてるの?」
( ^ω^)「そんなことないお」
ξ゚听)ξ「じゃあブーンは、しあわせなの?」

 此れ以上無く答えにくい質問であった。全く理論的な段階を踏んでいない質問の筈であるのに、
其れは正に現状を踏まえた上でブーンに対して問われていた。

( ^ω^)「……ツン、暫くショボンと遊んでいて呉れお」

 堪らずブーンはツンを置いて、其の場を後にしてしまった。

134 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:17:32.98 ID:VWhMj0ABO
支援

135 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:17:50.52 ID:pvNpc7Oh0

 一人、家に戻りブーンはひんやりと冷たい床に躰を預けた。其の儘天井を見上げ何も考えることなく、
ただ茫と木目を数えたりしていた。
 幸せかと問われて、ブーンは即座に幸せだと云えなかった。ツンと居られることが幸せではないのか
と問われれば、首を横に振るだろう。今居るツンが、ツンでないのかと問われても首を横に振るだろう。
 詰まりはこう云うことだ。ツンが居るだけで幸せだと、ブーンは云い切ることが出来なかっただけなのだ。

 此れから先始まる二人だけの暮らしを前に、ブーンは気付いてしまった。其れはやがて心を蝕む
不安と為り、天井の木目も何処まで数えたのか分からなくなってしまった。

( ^ω^)「どうしたら好いんだお……」

 終には口から弱音が零れてしまったが、其れに答える音は無く、ただ反響する音を拒む様に
ブーンは両手で頭を抱えて丸くなった。

136 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:17:54.89 ID:s56t3pTJ0
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137 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:19:02.21 ID:VWhMj0ABO
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138 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:19:18.30 ID:pvNpc7Oh0
 家に差し込む光も乏しくなった頃、ブーンは大仰に床を叩くと腹の底から叫んだ。仄暗い静寂を
ビリビリと意味も無い大声が引き裂き、ブーンは腹の底が少し許り熱を持ったのを感じた。

( ^ω^)「……ふう」

 悩んでも解決策は出なかった。併し結論は出た。今は唯ツンと居る一日を大事にしよう、と。
其れならば今こうしている時間のなんと無駄なことか。ブーンは飛び起き、乱暴に戸を開けると
其の儘の勢いでショボンの家へ飛び込んだ。

( ^ω^)「ショボン! 世話を掛けたお!」
(´・ω・`)「ん? あぁ、君か」

 履物を脱ぎ捨て、炉辺で読書をする彼の元へ駆け寄ると、ブーンは辺りを見回した。

( ^ω^)「ツンは何処だお?」
(´・ω・`)「ん? 君の所じゃないのかい?」
( ^ω^)「どういうことだお?」

 ばたん、と本を閉じるとショボンは首を捻りブーンの顔を眺めた。

139 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:20:27.19 ID:VWhMj0ABO
支援

140 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:21:03.23 ID:VWhMj0ABO
支援

141 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:21:20.52 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「あの子なら先程ブーンが何たらと云って飛び出していきましたよ」
( ^ω^)「……何? 何故止めなかったんだお!」
(´・ω・`)「止めるも何も、『家に行くのかい』と訊いたら『うん』と返事をしたんですよ?」
( ^ω^)「家に行くと?」
(´・ω・`)「えぇ」

 自分の家以外に態々行く様な家が在っただろうかとブーンは考えた。他に家と云えば明日
越す家だろうか。それとも考え難いことではあるが元居たツンの家、即ち隠の住処の事だろうか。

(´・ω・`)「何やら穏やかではない様ですね。僕も探しに行きましょうか」
( ^ω^)「あぁ、助かるお」

 交わす言葉もそこそこに二人は外へと飛び出した。一層冷えた外気に晒されて、ブーンの心は
冷え冷えとした不安にぐらついていた。此の頃、好くない予感許りが現実に為るのだ。

142 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:22:04.22 ID:VWhMj0ABO
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143 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:22:19.14 ID:s56t3pTJ0
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144 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:23:06.71 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「とりあえず此処等一帯を探してみましょう。未だそう遠くへは行っていない筈です」
( ^ω^)「じゃあ僕はこっちを探してくるお」

 頷き合い二手に分かれた後、ブーンは目を皿の様にしてツンを探し回った。身を切る様な
寒気が頬を撫ぜていくが、雪が降っていないだけ増しだと云えた。
 とは云え、足許には踏めば音がする程度の雪が既に降り積もっていた。息が上がり速度を
緩めると、ぎゅ、ぎゅ、と雪の踏み締める音が聞こえる。其れに気付いたブーンは、立ち止まり
耳を澄ましたが、ただ自らの乱れた気息のみが煩いだけで無駄に終わった。

 そうして走り続け、幾つか角を曲がったときの事であった。遠くの方で動く小さな人影が確かに
確認できたのだ。其れが縦令ツンでなくとも何かを見ていたなら手掛りが掴めるかも知れぬと
ブーンは駆けた。
 其の人影は近づく程に明瞭になり、やがて其れがツンであると判った。

145 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:24:08.43 ID:VWhMj0ABO
支援

146 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:25:12.33 ID:pvNpc7Oh0
 併しブーンの足は其の速度を増すことは無く、それどころか徐々に減速し、終には立ち止まって
しまった。彼は近づきたくなかったのだ。ツンにではなく、事実に。

( ;^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「あ、ブーン」

 破顔一笑、ツンが立ち止まったブーン目掛けて駆け寄ってきた。其の手に何かを引き摺り乍ら。

( ;^ω^)「ツン、其れは……」

 其の手が掴んでいたのは人であった。長い間襟を掴み引き摺ったのか、其の着物は大分乱れていた。
そして不自然なまでの力の抜け具合は、其の人の死を予感させた。


※破顔一笑=顔をほころばせて、にっこりと笑う

147 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:26:16.93 ID:VWhMj0ABO
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148 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:26:45.05 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン。このひとが、わたしたちの、じゃまなんだよね?」

 云って掴んでいた襟を持ち上げ、手首を捻り其の顔を見せた。眉間にシワを寄せ蒼白の顔をした其の
人は、此の村の長であった。
 惨い。そう思わざるを得ぬ程に血に塗れた姿であった。

ξ゚听)ξ「ね?」

 併し、着物の至る所を血に染め上げて尚、彼女は笑っていた。其の所得顔(ところえがお)はまるで
童子の様に曇り無く、彼女は鬼や人と云うものとは関係無しに、彼女が彼女たる何かを何処かに
落としてしまった様だと感じられる程に晴れやか過ぎた。


※所得顔=満足そうなさま

149 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:27:28.83 ID:Jml3XqUr0
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150 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:28:27.77 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「ブーン、これでわたしたち、しあわせにくらせるね」
( ;^ω^)「……莫迦な」

 ツンの顔をしてツンの声で喋る彼女は、果してツンであろうか。

――縦令鬼に為ったとしても

 自らの言葉は髄に張り付き、萎えそうになる信念に活を入れ、併し一方では云い知れぬ不安を
助長する。此れが鬼なのかと、ブーンは心の沈み往かんとするのをただ堪え続けていた。

 其処へ唐突に一人の人物が現れた。見慣れた其の顔であったが、やはり此の光景を前にして
尋常ならざるものを感じたのか、いつもの力の抜けた顔はどこかへ消えてしまっていた。

(;´・ω・`)「……君達、一体何事だ」
( ;^ω^)「……」

151 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:28:50.00 ID:VWhMj0ABO
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152 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:29:52.80 ID:pvNpc7Oh0
 未だ亡骸の襟を掴むツンと、立ち尽くすブーン。其の最初の目撃者がショボンとなったのは
彼等にとっては不幸中の幸いと云うべきか。ショボンは右の手で自らの髪を乱暴に掴み唸ると、
懐から煙管を取り出し、其れをブーンに向かって差し口元を歪めた。

(;´・ω・`)「君は早く何とかして其の子を連れて来い。僕の家だ。早くし給え」
( ;^ω^)「……分かったお」
(;´・ω・`)「ああ、其の人も運んでくるんだ。兎に角、早くだ」

 慌しく駆けていくショボンの背を茫と眺め乍ら、ブーンは袖を引くツンの声をただ聞いていた。

ξ゚听)ξ「ねえ、ブーンほめてくれる? ねぇ、ブーン?」
( ;^ω^)「……なんと……云う……」

 立て直した心が足許から瓦解していくのをブーンは感じていた。

153 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:30:15.02 ID:VWhMj0ABO
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154 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:32:04.69 ID:pvNpc7Oh0

 幸いなる哉(かな)、村長の流血は収まっており、道案内を残すことなくショボンの家へ着くことが
出来た。それでも現場には真白な雪を血で赤黒く侵した跡は残っているだろうが、今の彼等には
其れをどうすることも出来なかった。
 若しやまだ助かるのではと、二人は村長に手を施そうとしたのだが、着物を脱がせた所で既に
手遅れだと云うことが判る程に損傷が酷かった。寧ろ顔を判別出来たのが奇跡とも云えた。

 遺骸は其の後、綺麗にしてから着替え等をさせようとしたのだが、何分損傷が激しかった為
下手に手を加えることが出来ず、今はただ大きい布を掛けただけになっている。其れを複雑な
面持ちで眺め乍ら、ブーンが奥の間から姿を現した。

(´・ω・`)「彼女はどうしましたか?」
( ^ω^)「奥で眠っているお」
(´・ω・`)「そうですか……」

 胡坐を掻き視線を床に戻したショボンを凝(じ)っと見詰めると、ブーンは視線を逸らしやや離れた場所に
腰を据えた。


※幸いなる哉=運のよいことに

155 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:32:19.32 ID:lDJ8n3O40
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156 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:33:02.94 ID:s56t3pTJ0
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157 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:33:14.99 ID:VWhMj0ABO
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158 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:34:05.72 ID:pvNpc7Oh0
 ショボンはと云えば、時々火の点いた儘煙管を手に茫と考え事をしては、ふと思い出したかの様に
口に銜え、また考えに耽る。其の様なことの繰り返しをして時間を過ごしていた。
 隙間から寒風が吹いて来たのを感じ、ブーンは短く身震いをした。其れを見たショボンが何かを
云おうと口を開きかけたが、チラリと物云わぬ大布を見て、口をへの字に曲げた。

 停止していた。生きている二人は今停止していた。有意な意見を練ることも無く、過去に立ち返り
嘆くことも無く、ただ二人は停止していた。併し取巻く世界は音を立てて時を刻み続け、彼等を
急き立てる。時々其れを感じては、彼等は咳をしたり、煙管を銜えたりするのだ。

(´・ω・`)「……ん、あぁ。君」

 咳払いをしてショボンがブーンに呼びかけた。

159 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:34:30.85 ID:s56t3pTJ0
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160 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:35:39.21 ID:VWhMj0ABO
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161 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:35:51.48 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……なんだお」
(´・ω・`)「僕の中で結論が出たよ」

 時間による絶え間ない責め苦を受け続け、ショボンは屈したのか神妙な面持ちでブーンの方へと
向き直った。

(´・ω・`)「今こそ君に全てを話すべきだと、そう考えました」
( ^ω^)「……何?」
(´・ω・`)「過去に僕が何を体験したか、今の君は知らなければならない」

 コォン、と煙管の灰を落とす音が辺りに響いた。其れを合図に、再び夜は動き始めた。

162 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:36:10.15 ID:s56t3pTJ0
支援

163 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:37:15.62 ID:VWhMj0ABO
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164 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:37:28.04 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「僕は嘗(かつ)て妻を持っていました」
( ^ω^)「君が? ……其れは初耳だお」
(´・ω・`)「其の名をデレと云い、それは目も眩む様な玉容(ぎょくよう)の持ち主でした」
( ^ω^)「……其の名、何処かで聞き覚えのあるような……」
(´・ω・`)「昔にあの子、ツンが騙(かた)った名です」
( ^ω^)「……ああ。其の様なこともあったお。なれば君もあの時は大いに驚いたろうに」

 内心驚きを隠していたのかと当時を振り返り、ブーンは薄く笑った。

(´・ω・`)「ええ、それはもうひっくり返りそうになりました。何せ彼女は本当にデレにそっくりでしたから」
( ^ω^)「それは……また凄い偶然が重なったものだお」
(´・ω・`)「まさか、偶然な筈が無い。彼女はデレの一人娘なんですから」

 袖の内で腕を掻いていたブーンの手がピタリと止まった。


※玉容=玉のように美しい容貌

165 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:38:29.62 ID:VWhMj0ABO
支援

166 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:39:21.06 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……ん、今なんと?」
(´・ω・`)「彼女は、ツンはデレの一人娘だと」
( ;^ω^)「待て。莫迦な事を云うなお。其れだと君は僕の……」
(´・ω・`)「老後は、頼んだよ、君」
( ;^ω^)「なんと……。本当なのかお?」
(´・ω・`)「話を戻しましょう。全てを聞き終えてから、また判断して下さい」
( ^ω^)「……わかったお」
(´・ω・`)「……僕の故郷は此の村とは随分離れたところにあるのですが、其処で僕はデレと
      出会いました。今は昔の事……そう、妙に寝付きの悪い晩でした――」

 ショボンは煙草の葉を丸め乍ら視線を床に落とし、滔々と語り始めた。

167 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:40:10.48 ID:VWhMj0ABO
支援

168 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:41:38.76 ID:VWhMj0ABO
支援

169 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:41:58.48 ID:Q397TH/VO
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170 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:42:14.10 ID:pvNpc7Oh0

 ――夜中に喉が渇いてしまった僕は、暗闇に怯え乍ら井戸まで水を飲みに行ったのです。
年の頃は……幾つでしたでしょうか。まあ、若いと云うよりは、幼かった……と云うところです。
 そうしてやっと井戸に辿り着いた時、月明かりの許ひっそりと佇む先客が居たのです。

ζ(゚−゚ζ『……』

 其れがデレとの出会いでした。其の時の彼女の姿を今でも僕は忘れることが出来ません。
 真白な顔に紅く光る双眸は、当時僕の眼には恐怖が入り混じりつつも其の美しさがただ
映りました。怖いけれども美しい。怖いからこそ美しい。そんなところでしょうか。天女と云う
ものがいるならば、きっと此の様な近寄りがたい美を兼ね備えているに違いない、そう幼心に
思いもしました。

 其の時は僕が茫としている間に彼女が居なくなってしまい何も無かったのですが、暫くして僕は
再び其の井戸で彼女と出会いました。
 とは云え其れは全くの偶然ではなく、実のところ僕はあの時より毎日夜が来ては親の目を盗み、
井戸の前にただ立ち尽くすと云うことを繰り返していたものですから、必定でしょう。併し、今考え
直してみると既に僕は彼女に足駄(あしだ)を履いて首っ丈であった様です。


※足駄を履いて首っ丈=異性に夢中であるさま ※必定=そうなると決まっていること

171 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:43:43.35 ID:VWhMj0ABO
支援

172 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:43:49.40 ID:pvNpc7Oh0
 (´・ω・`)『あの……こんばんは』
ζ(゚−゚ζ『……』

 恥ずかし乍ら僕が此の瞬間に絞り出せた声は、ただ此の一声のみでした。待ってみたは好い
ものの、実際に会ってみると何をしていいのか全く分からなくなってしまったのです。
 すると幸いなことに、棒立ちの僕に彼女が矢継ぎ早に質問をしてきました。

ζ(゚−゚ζ『汝(なれ)、名は』
 (´・ω・`)『……ショボン』
ζ(゚−゚ζ『齢は』
 (´・ω・`)『十と六歳です』
ζ(゚−゚ζ『女を知っているか?』
 (´・ω・`)『……えっと、女の人の知り合いですか?』
ζ(゚−゚ζ『……まあよい』

 そう云うと彼女は僕の目の前で着ているものを、するりするりと脱いだかと思うと、僕に近寄り
徐に――

173 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:45:01.00 ID:VWhMj0ABO
支援

174 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:45:07.22 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「待つお」
(´・ω・`)「なんですか?」
( ^ω^)「君、まさかとは思うけれども、僕をからかってるのかお?」
(´・ω・`)「此れが僕の作り話だとしたら、もう少し骨のある男にしますね。とにかく最後まで聞いて
      みて下さい」
( ^ω^)「……まあ、そこまで云うのならば。併し、そこら辺の出来事の詳細はあまり聞きたくないお」
(´・ω・`)「……分かりました」

 ――ともかく、僕は彼女に立場のあべこべな強姦とも云える行為を受けました。とは云え正直な
ところ僕には其れが怖い行為だとは感じられず、寧ろ夢心地の様であり、また彼女に対して自分が
欲せられていると云う思いを感じていました。

 併し、事が終り気付くと既に彼女は姿を消していました。夢心地にあらず、正に夢であったのでは
ないかと思える程の静かな夜に、僕は一人彼女を追想していました。

175 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:46:29.67 ID:Jml3XqUr0
ねれねえ支援

176 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:46:38.09 ID:+K0+DpBu0
しえん

177 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:46:53.21 ID:VWhMj0ABO
何という痴女
支援

178 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:47:57.84 ID:pvNpc7Oh0
 其れから再び彼女に会えない日々が続きました。幾星霜にも年を経たかの様な毎日に涙し、
暮れる僕を置いた儘時は過ぎて往きました。そしてある日、突如僕の居た村が何者かによって
襲われました。本当に、何の前触れも無く。

 雷鳴が轟き、突風が吹き荒ぶ。終末が訪れたと人々が叫び逃げ惑う中、僕はただ怯えて家に
閉じ篭っていました。其の時に限って両親は遠方に出向いていた為、縋るものも無く震えていた
のです。

 其の時、突如轟音が当たりに響き渡り、身を伏せた僕の背をどこからともなく撫ぜる風が吹いて
来るのを感じました。何かと思い顔を上げると、壁が裂け、戸は吹き飛び、屋根は妖雲渦巻く空へと
変わっていました。
 そして唖然とする僕の目の前に一羽の烏(からす)が現れました。砂塵を螺旋に巻き上げ、らしからぬ
軌道でゆったりと目の前に降り立つ姿は、僕に若しや三本足を持っていやしないかと観察せしめた
位に堂々たるものでした。

 此の天変地異は恐らく目の前の烏による仕業だろうと、其の時はっきりと理解し、そして目を瞑り
再度地面に伏せた記憶は今でも思い出すだけで動悸がします。

179 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:48:13.10 ID:lDJ8n3O40
支援

180 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:49:38.77 ID:VWhMj0ABO
支援

181 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:50:04.61 ID:pvNpc7Oh0
 併し其れ以上に私を震え上がらせたのが、突然其の烏に何処からともなく一撃を喰らわせた
デレの姿でした。何をどうしたのかは分かりませんでしたが、烏は遠くへと飛ばされ、僕があれほど
焦がれたデレの背中が目の前にあったのです。

 会えた事への歓喜か、命の遣り取りへの恐怖か、僕はただ胸の高鳴るのを感じる許りで口を
開くことさえ忘れていました。そして振り返り僕を見たデレの瞳は、やはりあの時と同じ高潔さを
感じさせる緋色でした。否、付け加えるならば、其の時の僕には幾分妖艶なものに見えたのですが。

ζ(゚−゚ζ『無事か』
 (´・ω・`)『は、はい。あの、この間は……』
ζ(゚−゚ζ『後にしろ。鴉(からす)が目を覚ます』

 彼女は言下に僕を担ぎ上げ跳躍しました。其の人離れも甚だしい跳躍は軽々と家の壁を越え、
隣家の屋根へと着地すると、先程まで居た我が家に身の毛も弥立(よだ)つほどの凄まじい落雷が
起こりました。


※言下に=言い終わるか終わらないかで

182 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:50:33.32 ID:MLgDnOZKO
気になってネレネ

183 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:52:33.91 ID:VWhMj0ABO
支援

184 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:52:45.51 ID:pvNpc7Oh0
 其れから先は僕自身よく憶えていません。ただいつか落ちてしまうのではないかという恐怖と闘い乍ら
気が付けば見知らぬ小屋の前に降ろされていたのです。そして降ろされるや否や、とんでもない一言を
突きつけられました。

ζ(゚−゚ζ『汝を今より我が夫とする』
(;´・ω・`)『……え? あの、夫って……結婚するってことですか?』
ζ(゚−゚ζ『二度と云わせるな』

 好い意味でも悪い意味でも、眩暈がしました。あぁ、失敬。本当に眩暈がしたのは次の彼女の言葉を
聞いてからでした。

ζ(゚−゚ζ『稚児(ややこ)が出来てしまったのだ、もう腹を括れ』
(;´・ω・`)『……え? え?』
ζ(゚−゚ζ『此の児を父無し児(ててなしご)にさせるのか?』
(;´・ω・`)『急に……云われても』
ζ(゚−゚ζ『ふん……やはり効果は有るものなのか』

 此の様な卦体(けたい)な出来事から、僕はデレと共に暮らす様になりました。


※稚児=赤ちゃん ※卦体=奇妙な、不思議な

185 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:54:12.61 ID:VWhMj0ABO
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186 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:54:35.29 ID:pvNpc7Oh0
 其の暮らしの中で僕は色々な話を聞きました。デレが隠であること。人とは違う異界に住んでいること。
其の守り神である鴉とやらに背いたこと。併し其の鴉とやらも実際の烏と云うよりは、形の無い思念が
存在として集合したものであり、時に人の死体等を利用して其の形を変えることもあるので、気を付けねば
ならぬと云うこと。
 実際に村人を装って家に襲い掛かってきたこともありました。其の時は場所を確かめただけのようで、
大事には至らなかったのですが。

 そうして沢山の事を聞く内に僕の中に妙な連帯感が生まれ、そして同時に彼女と共に在りたいと云う
想いが芽生え始めました。

 とは云え彼女との暮らしには骨が折れました。身の危険がどうのと云うわけでなく、彼女自身に
些か高慢なところがありましたし。

187 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:54:54.41 ID:lDJ8n3O40
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188 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:54:56.64 ID:VWhMj0ABO
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189 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:56:17.56 ID:pvNpc7Oh0
 (´・ω・`)『デレさん。其処の本を取って呉れますか?』
ζ(゚−゚ζ『ショボン、夫が妻に“デレさん”などと……情け無いとは思わぬのか。腹の児に示しがつかぬ』
(;´・ω・`)『わかったよ。……デレ、本を取って』
ζ(゚−゚ζ『なんだ其の不遜な態度は。思い上がれとは云っておらぬぞ』
(;´・ω・`)『……取って下さい』
ζ(゚−゚ζ『断る。腹が重い』

( ^ω^)「――要は、尻に敷かれっぱなしであったのかお」
(´・ω・`)「無理も無いですよ。あの頃僕は殆んど女性との関わりを経験していなかったのですから。
      強く云われるだけで僕は萎縮してしまっていたのですよ。腹に児も居た分、其の関係は
      顕著でしたね」

 薄く笑うとショボンは再び話を始めた。

190 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:56:20.17 ID:VWhMj0ABO
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191 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:57:13.71 ID:VWhMj0ABO
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192 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:58:03.92 ID:pvNpc7Oh0
 ――ツンが生まれた時も、それはそれは驚かされました。日に日に大きくなっていた腹と共に
ある日忽然と消えたかと思うと、五日してから平然とした顔で帰ってきて僕にこう云ったのです。

ζ(゚−゚ζ『児を産んできた』

 さも大したことではなかったと云わん許りに振舞う彼女の腕の中には、確かに白い衣に包まれた
緑児(みどりご)が居たのです。

(;´・ω・`)『心配したんですよ! それに児を産んだって……いや、そもそも――』
ζ(゚−゚ζ『煩い、此の子が起きてしまう』
(;´・ω・`)『……何故何も云って呉れなかったんですか。あなたに色々と事情があるのは分かります。
      けれども、何か云って呉れれば僕も手伝えることがあったかも知れないのに』
ζ(゚−゚ζ『察しろ』
(;´・ω・`)『だから、其れは分かってますけど――』
ζ(゚−゚ζ『違う。私はお前にだけは見られたくなかったのだ』
(;´・ω・`)『え……どうして……』
ζ(゚−゚ζ『……二度と云わせるな』

 今になってみれば其の言葉の意味も少しは分かるものですが、当時は全く分からず、少しずつ
僕は彼女に対する不満を募らせていました。


※緑児=嬰児、乳児

193 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:58:51.50 ID:lDJ8n3O40
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194 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 03:59:17.15 ID:VWhMj0ABO
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195 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 03:59:45.59 ID:pvNpc7Oh0
 そして何日も経たないある日、些細なことから口論になってしまい、僕は思わずデレに対して不満を
ぶつけてしまったのです。

 (´・ω・`)『もういい……君は一体何がしたいんだ』
ζ(゚−゚ζ『何がも何も無い』
 (´・ω・`)『人攫いの真似事までして、僕をからかっているんですか? 其の子だって本当に――』
ζ(゚−゚ζ『ショボン』
 (´・ω・`)『……』
ζ(゚−゚ζ『其の先は決して云うな。其れ位の分別は有るだろう』

 凝(じ)、と睨(ね)めつけるデレの眼光は鋭く、僕は一度怯みました。其の間アァと声を上げた子に
視線を移すと、其の子はデレを見上げて小さな手を伸ばしていました。其れを見て僕は自らの感情を
抑えられず、云ってはならない言葉を吐いてしまったのです。

196 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 04:01:20.96 ID:pvNpc7Oh0
 (´・ω・`)『其の子は本当に……僕の子、なんですか?』
ζ(゚−゚ζ『……』

 酷い沈黙でした。此の世の全て、森羅万象が息を潜めたかの様な沈黙は、其の儘僕を窒息させんと
しているかの様でした。
 言葉は口にして始めて力を持つものです。そして時に其れは遥かに自分の思惑を超えてあらゆる
ものに作用します。僕は此の時自分で云った言葉の余りの残酷さに自ら殺されてしまいそうでした。

 ですが、彼女は莞爾(かんじ)として笑ったのです。其れが僕の見た最初のデレの笑顔で、出来るならば
此の瞬間以外で見たかったと思うほどに美麗な其れは、併し翻って諦観している様にも見えました。

ζ(゚−゚ζ『……隠は家族と云うものを作らない。其れは以前話したな』
 (´・ω・`)『……はい』
ζ(゚−゚ζ『隠には必要の無いものだと、そう私も思っていた。此れで代々不自由なく血が受け継がれて
      いるのだからと』

 其の言葉を切っ掛けに、普段寡黙なデレが滔々と語り始めました。


※莞爾=にっこりとほほえむさま

197 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:01:22.11 ID:VWhMj0ABO
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198 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:02:33.73 ID:VWhMj0ABO
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199 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:03:36.10 ID:VWhMj0ABO
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200 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:03:53.64 ID:s56t3pTJ0
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201 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 04:03:56.29 ID:pvNpc7Oh0
ζ(゚−゚ζ『併し、私がある日気紛れに人の家を覗いたときに見た家族は、とても楽しそうであった』
 (´・ω・`)『……』
ζ(゚−゚ζ『……皆、笑顔であった。子が戯れ合い笑うのを見て父親が笑い、笑う夫を見て妻が笑う。
      そして笑う親を見て子が笑うのだ。真に其れは楽しそうであったのだ。其の姿を知らぬ私が
      少し許り憧れを抱いてしまうほどに』
 (´・ω・`)『デレ……』
ζ(゚−゚ζ『やはり隠に家族と云うものは要らない様だ。今其れを解せた』

 先程と変わらぬ笑顔は、時を経て随分と其の印象を変えていました。笑顔は其れだけでは笑顔に
ならず、デレのらしからぬ多弁な様は笑顔をより空しいものにしていました。

ζ(゚−゚ζ『此の子は私が一人で育てよう。案ずるな、此の子が二度と汝の前に現れぬよう人の世は
      奈落であると云い聞かせて育てよう。もう此の様な隠も出ることはあるまい』
 (´・ω・`)『デレ、其れは――』
ζ(゚−゚ζ『戯れに付き合わせてしまったな。許せ』

 其の言葉が宙に浮いている間に、家の中を一陣の風が吹き、気付けば忽如(こつじょ)として彼女の
影は消散していました。


※忽如=突如。忽然

202 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:05:10.65 ID:s56t3pTJ0
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203 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:05:53.33 ID:VWhMj0ABO
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204 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 04:06:02.78 ID:pvNpc7Oh0
 一方的に捲くし立てられた挙句に姿を消された僕は、風が止んだ後も暫く茫と一人佇んでいました。
心の奥で喜怒哀楽の全てが綯(な)い交ぜになったものが暴れまわり、最後に残ったのは悔恨の唯
一念でした。

 そして僕はデレと暮らした家を離れ、何処へともなく歩き出しました。虚ろな頭でどれだけ歩いたのかは
定かではありません。幾日も蹌々踉々(そうそうろうろう)と歩き、躰も衰弱して来た頃に誰かに出会い、
村に連れて行かれ、其処で両親と再会したときになってやっと僕は夢から覚めた様な気分になりました。
 あの全てが夢で、今僕は現実に帰って来た。ならば此の心の動きも徒労其の物で、全て忘れて
しまって明日を生きるべきだと。


※蹌々踉々=よろめきながら歩く様

205 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:07:33.66 ID:s56t3pTJ0
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206 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:07:59.04 ID:VWhMj0ABO
支援

207 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 04:08:32.09 ID:pvNpc7Oh0

 其れから七年の月日が流れ、当時の僕と云えば仕事を転々とし乍ら口を糊している状態でした。
暫く一箇所で同じ仕事をしていると、其処に飽きとはまた違う終わりへの焦燥感の様なものが
僕の胸に去来して、其処を離れさせるのです。
 結局のところ七年経ってもやはり僕はデレを忘れられずに居ました。デレとの子も既に七つ。
走り回る子供を見かけては、若しや近くにデレは居ないかと辺りを見回すのも癖になっていました。
其れと、もう一つ。隠について聞き回るのも癖になっていました。

 各地を回って分かったのですが、どうやら隠の云い伝えは広く分布している様で、其の呼び名も
内容も様々でした。其の中でも一番多かったものが「鬼」で、乱暴狼藉を働いては人々を困らせる
と云うものでした。

 僕としては幾ら其れを聞いてもまるで誇張されたものであると一笑に付していたのですが、一方で
あの時彼女が鴉に加えた一撃を僕は忘れたわけではありませんでした。
 併し彼女が人に危害を加えるならば、真先に害されて然るべきは此の僕であると思っていましたし、
隠と鬼はやはり別のものである、とそう思っていました。


※口を糊する=やっと生活をする ※乱暴狼藉=荒々しい行いをしてあばれること

208 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 04:10:38.02 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「――併し、事実は違った」
(´・ω・`)「其の通りです。やはり隠と鬼は表裏一体。其れに気付いたのは皮肉にもデレとの別れの
      日でした」
( ^ω^)「別れの日と云うと……まさか、君は」
(´・ω・`)「そうです。もう一度僕はデレと再開を果たします。併し、其れは其の儘終(つい)の別れへと
      なってしまったのです」
( ^ω^)「……聞かせてもらうお」
(´・ω・`)「わかりました」


※終の別れ=死別

209 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:10:38.73 ID:VWhMj0ABO
支援

210 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:11:12.08 ID:s56t3pTJ0
支援

211 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:11:25.74 ID:VWhMj0ABO
支援

212 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 04:13:05.14 ID:pvNpc7Oh0
ごめんなさい、眠くなってきたので一旦止めます。

続きはまた今日に改めて立てます。

それでは、長い間支援ありがとうございました。

213 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:13:51.36 ID:s56t3pTJ0


214 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:14:03.91 ID:Jml3XqUr0
おおおおおおおい!!!乙ーーー

215 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:15:17.08 ID:VWhMj0ABO
乙!!


216 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:15:17.93 ID:Q397TH/VO
おつおつ〜

217 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:15:27.35 ID:lDJ8n3O40
乙です。
続編という事のようで、是非ともまとめさせて下さい。

218 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 04:18:56.37 ID:pvNpc7Oh0
>>217
こちらこそ是非お願いします。改めて、深夜までありがとうございました。

219 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:21:15.93 ID:+K0+DpBu0

隠読んでなかったけど読んできます

220 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 04:38:06.80 ID:o27WXpQZO
乙!続きも楽しみにしてます

221 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 05:37:37.45 ID:dQpT7/LzO


222 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 06:02:58.94 ID:LBxKoEYfO
まさか隠に続編が来るとは
ウレシス

223 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 06:29:01.75 ID:S3qAnV6/O
読むほ

224 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 06:52:45.69 ID:muFq4e/2O
今北>>1

225 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 07:14:50.90 ID:Nkqppj0iO


226 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 08:22:16.09 ID:ozB3Z8zN0


227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 08:57:04.35 ID:0ePnFHeQ0


228 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 09:46:52.55 ID:/j4t60vM0


229 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 09:52:32.94 ID:ozB3Z8zN0
ho

230 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 10:37:01.97 ID:MLgDnOZKO
誰かが保守しないとスレが落ちる…そうだろう?

231 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 10:56:53.59 ID:FlNZ8RW0O
今から読む保守

232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 11:24:59.28 ID:BfC42FQt0


233 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 11:56:22.25 ID:tk2me8v70
ほっしゅ

234 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 11:56:42.14 ID:FlNZ8RW0O
保守

235 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 12:17:54.78 ID:TzCIt/j5O
ほす

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