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( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

1 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:04:16.48 ID:pvNpc7Oh0
オムさん仕事速すぎワロタ。まとめ↓
http://vip.main.jp/366-top.html

前回分に訂正があります。
>>101 L1の『暫時(ぜんじ)』はミスで、正しくは『暫時(ざんじ)』です。
申し訳ない。

それでは始めます。

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:05:20.87 ID:morIh2oF0
wktk

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:05:47.42 ID:pBdHvmyM0
ktkr

4 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:06:04.19 ID:pvNpc7Oh0

 時は大禍時(おおまがとき)。ぼんやりと沈み行く陽を眺め乍ら山の中腹で団子を食べていた
ときの事です。目の前の草叢(くさむら)から息も絶え絶えに一人の童女が飛び出してきたのです。

 竹串を銜(くわ)えた儘茫と其の子を見ていると、どうにも初めて会った気がしない。後に語りますが、
其の子がデレの娘、ツンでした。息を切らして尚、気品を損なわない其の容姿はやはり僕が心奪われた
デレの娘と云うところでしょうか。……いや、失敬。

(´・ω・`)『お腹が空いているのかい?』

 てっきり団子を狙ってきたものだと許り思っていた僕は、まだ手をつけてない団子を其の子に
差し出しました。すると其の子はまるで団子には目も呉れず、差し出した手の首を掴むと勢いよく
引っ張り、走り出したのです。


※大禍時=夕方の薄暗い時

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:06:30.47 ID:muFq4e/2O
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6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:06:46.12 ID:morIh2oF0
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7 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:08:29.61 ID:pvNpc7Oh0
 果たして童女に手を引かれ、行きつく先では鬼が出るか蛇が出るか。ふむ、此れは云い得て妙ですね。
奇(く)しくも出たのは鬼であったとは。
 草叢を抜けた先、手を引かれ辿り着いた場所に居たのは、膝を突き苦しそうに息を荒げるデレと、
其れを見下ろす様に梢に止まる鴉でした。其の光景に僕は声を掛けるでもなく、ただ呆然と立ち尽くす
許りでした。

    鴉 『全テヲ宥恕(ユウジョ)シテヤロウト云ッテイルノダ。大人シクシタラドウダ』
ζ(゚−゚ζ『耳障りな音だ。四百年掛かって碌(ろく)に言葉も話せぬか』
    鴉 『黙レ。我無シニ正気モ保テヌ木偶(デク)ノ分際ガ』
ζ(゚−゚ζ『そう云えば、其の木偶に伸(の)された奴も、随分と煩い奴であったな』

 デレの言葉に鴉は一度大きく翼を広げ前傾姿勢になりました。飛び掛かるのではと僕は思ったの
ですが、併し羽ばたき梢を離れた鴉は更に空高くへと舞い上がり、其の天辺(てっぺん)へ静かに
止まりました。
 途端に躰が得も云われぬ悪寒に包まれ、空の色がどんよりと曇っていくのが目に見えました。


※宥恕=寛大な心で許す ※伸す=うちのめす

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:09:11.60 ID:morIh2oF0
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9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:10:18.25 ID:muFq4e/2O
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10 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:10:19.34 ID:pvNpc7Oh0
    鴉 『好カロウ。汝ヲ今、桎梏(シッコク)ヨリ解放シテヤロウ』
ζ(゚−゚ζ『……桎梏?』
    鴉 『今此処ニ汝ヲ縛ル隠ノ桎梏ヲ解キ、鬼ノ面ヲ引キ出ソウ』
ζ(゚−゚ζ『世迷言を。そうなれば汝とて無事では済むまいに』
    鴉 『而(シコウ)シテ呼ブハ山ノ神。鬼ヲ捧グハ是理ノ当然ナリ』
ζ(゚−゚ζ『山ノ神? 我が鬼眼、貴様を殺す其の日まで閉じることは無いぞ』

 高圧的に吐き捨てて尚、一歩も引かないデレの横顔は膝を突いていても凛々しく見えたものですが、
其の顔が不意にこちらに向いた瞬間、まるで螺子が切れた絡繰(からく)り人形の様に其の色を失くし、
目を開いた儘凍り付いてしまったのです。

 其の表情たるや、まるで背を矢に射抜かれた騎馬武者の様でした。其の視線の先、今まで息を
潜めていたツンが、わっと駆け出しデレにしがみ付いた途端に、デレの顔から固さが消えました。
其れは童女には柔和な表情に見えたでしょうが、既に其の表情を過去に見たことがある僕には、
其れが直ぐに諦観の表情であると判りました。


※桎梏=自由を制限するもの ※而して=そして

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:10:56.48 ID:Nkqppj0iO
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12 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:12:32.22 ID:pvNpc7Oh0
ζ(゚−゚ζ『……ツン、どうして云い付けを破った? しかも人を連れてくるとは一体どのような所思(しょし)
       をもっての事だ?』

 そこで僕はやっと其の子がツンであると、把握したわけです。併し当のツンはと云えば押し黙った儘
デレの袖を掴み俯いていました。

ζ(゚−゚ζ『……好いか? ツン。もう二度と人と関わるな。其れだけは今ここに約束して呉れ』

 声は低く、併し決して乱暴なものではなく、優しくも厳しく戒める母の声音でデレはツンに説きました。
やがて注意していなければ判らないほど僅かにツンが頷いたのを見て、デレは微笑みました。
 そしてツンの矮躯に手を回し抱かんとしたのですが、其の手は空を抱き、其の儘行き場を失った
腕は己の躰を静かに抱くより他に出来ませんでした。何故ならばツンは消え失せていたのです。


※所思=考え

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:12:53.15 ID:muFq4e/2O
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14 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:14:04.31 ID:pvNpc7Oh0
    鴉 『怨ミニ報ユルニ徳ヲ以テス。我乍ラ……』
ζ(゚−゚ζ『……黙れ』
    鴉 『好イ好イ、感涙ニ咽ブガ好イ』
ζ(゚−゚ζ『黙れ、下郎が……反吐が出る』

 殺気立っていく二人とは対照的に、僕は何が起こったのかと理解に努めるのに精一杯でした。
併し乍ら、先程までデレの傍に居たツンが突如消え失せ、そしてデレが静かに色を作(な)しつつ
あるのを見ると、何か悪い予感に寒気を感じました。

    鴉 『分ヲ弁エロ、鬼ヨ。貴様ノ可愛イ子ハ我ガ手中ゾ』
ζ(゚−゚ζ『……殺してみよ』
    鴉 『……何?』
ζ(゚−゚ζ『汝、今迄に鬼を封じたことはあるか?』

 すると地を這う様な声を発するデレがいつの間にか、夕陽には決して混じらぬ薄い衣の様な青白い
光をゆらゆらと其の身に纏っていたのです。時が違えば其れは天女の衣にも見間違えたでしょう。
併し乍ら其れが禍々しく見えたのは、辺りを取巻く不穏な空気に因るところに他なりませんでした。


※色を作す=怒って顔色を変える

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:15:35.29 ID:Nkqppj0iO
支援

16 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:15:58.86 ID:pvNpc7Oh0
ζ(゚−゚ζ『否、訊く迄も無い。貴様が産まれて四百余年、其の様な隠は居ない』
    鴉 『我ハ勝(すぐ)レタル統治者ナレバ其モ亦(また)然リ』
ζ(゚−゚ζ『……空(うつ)けが。目に物見せて呉れる』

 そう吐き捨てると、デレは膝を突いていたのが嘘かの様にすっくと立ち上がり鴉を見据えると、
突如其の姿を消しました。
 そして間を置かず空から轟音。見ると先程まで鴉が止まっていた大木が見事に折れ、隣の木に
凭(もた)れ掛かろうとしていました。
 何が起こったのか全く分からずただ狼狽える僕を置き去りにして、何処からとも知れず彼等の
会話だけが聞こえてきました。

ζ(゚−゚ζ『先代はそこまで腑抜けでは無かったぞ!』
    鴉 『逆上(ノボ)セタカ! 苟(イヤシク)モ我ヲ倒シタトテ何ガ残ル!』
ζ(゚−゚ζ『何も残らぬ。此の身を縛ル鎖も、忌々シイ監視の目もナ!』
    鴉 『隠ガ何故隠タルカ、鬼ガ何故封ゼラルルカ。貴様ハ失念シタカ!』
ζ(゚−゚ζ『何故私が其レに従わなくてはナラヌ。何故其レは延々と変えられることナク続いたのダ。
      貴様ハ唯見テイタダケノ空ケ者ダ!』


※苟も=仮にも

17 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:18:05.43 ID:pvNpc7Oh0
 デレの語気が荒々しく、また其の声質も奇異なものへと変化した瞬間、辺りが一瞬光ったかと思うと
再び轟音が地を裂きました。此れは比喩でもなんでもなく、目の前の大地が乾いた粘土の様に裂けた
のです。
 唖然とする僕の視線の向こう、其の地割れの先に、仄光るデレの姿がありました。デレは此方を
向いて直立不動でしたが、僕を見ている風ではありませんでした。そして何より驚いたのが其の目の
色でした。

 虹彩はいつか見た緋色に間違いなかったのですが、其の内、瞳孔が琥珀色に変わっていたのです。
其の異質な眼光が若し此方を見たならと、相手がデレであるにも拘らず僕は震えを禁じ得ませんでした。

ζ(゚−゚ζ『鴉! 我ガ子ヲ返セ!』
    鴉 『鬼ガ我ニ楯突(たてつ)クト云ウノカ。我ハ鬼ヲ封ズル者ゾ!』

 依然として何処に居るかは分からない鴉でしたが、併しデレ目掛けて次々に辻風(つじかぜ)が舞い乱れ、
岩が飛び、木が倒れる様を見るに、何か鴉にも途轍もない力があることは解りました。
 併し見ている限り其れはデレの命を脅かす程のものではなく、程なく勝負の雌雄は決し、其の軍配は
デレに上がるだろう。そう思っていました。現に鴉の声音は次第に力無いものと為っていましたし。


※辻風=つむじかぜ

18 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:20:00.76 ID:pvNpc7Oh0
 が、勝負はここで僕と云う男の存在に因って急展開を迎えます。

 固唾を呑んで勝負の行く末を見守っていた僕の頭上を長い影が蔽ったのです。何事かと見上げると、
其れは今にも僕を下敷きにせんとする巨木でした。此の様に激しい戦いが行われているのだから
其の迸(とばし)りを食うのは予想が出来た筈でした。此れが出来なかったことが僕の一つ目の失敗でした。
 そして二つ目にして最大の失敗が、此の時逃げることを忘れ声を上げてしまったことです。困難や
危機を前にして声を張り上げるだけでは不幸は襲い掛かるのを止めません。僕の前に降りかかった
危機は声を上げることによって回避することが出来ましたが、併しやはり不幸は回避できませんでした。
 回りくどいことを云っていますね。申し訳ないです。併し、此の時の事を思い出すと何故か頭が混乱して
しまうのです。

(;´・ω・`)『……』
ζ(゚−゚ζ『……何と、云うことだ』

 あれほど遠くに居たデレが、今僕の目の前で巨木を支えて立っていました。それも差し向かいで。
詰まるところ、倒れてきた巨木は僕が声を上げることで駆けつけたデレに依って食い止められたのです。
 体験者の僕にとっては其の瞬間がとても長く感じられました。まるで飛び掛ろうとする獣の、
其の脚の溜めの様に、時間が次の瞬間へ進む前に一度止まったのです。


※迸り=巻き添え

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:21:40.82 ID:+K0+DpBu0
支援

20 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:22:19.09 ID:pvNpc7Oh0
 其の後、跳ね除けられる巨木がデレの手を離れた瞬間、鎌鼬(かまいたち)がデレの顔面を掠めて
飛んで来て、あろうことか巨木と共にデレの右腕までもが離れてしまったのです。
 そして痛みに加え、其の傷口から溢れた血潮が眼にかかったことにより、デレは思わず目を瞑って
しまったのです。

ζ(-、-;ζ『ッ!』

 一瞬の出来事でした。併し僕が其の出来事を見間違いか否か判断するよりも早く、鴉は叫んだのです。

    鴉 『鬼ノ眼ハ封ゼラレタ! 山ノ神ヨ、今此処ニ山ノ安寧(あんねい)ヲ紊乱(ぶんらん)スル鬼ヲ
       差シ出ソウ! 現レヨ! 山ノ神ヨ!』

 耳障りな声だと僕は其の時始めて思いました。一瞬にして右腕を失い、苦悶の表情で蹲ろうとする
デレを見乍らも、併し僕は何をして好いか全く分からず、ただ目の前の光景が現実であるかどうかの
判断に追われていました。


※安寧=平穏無事なこと ※紊乱=秩序、風紀などが乱れること

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:22:52.76 ID:Nkqppj0iO
支援

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:23:39.89 ID:pBdHvmyM0
支援

23 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:24:19.73 ID:pvNpc7Oh0
 そして、突如躰を引き裂かれん許りの激しい地鳴りが起きました。時間にして四五秒程度でしょうか。
併し其の僅かの間にデレはいつの間にか地面に大の字になっていました。一目見るに決して其の姿は
自発的なものではなく、宛ら磔刑(たっけい)を受ける下手人の様でした。

(;´・ω・`)『デレ!』

 慌てて僕はデレに駆け寄ったのですが、デレは其の様な僕を見ることもなく、また起き上がろうと
することもなく、ただ空の上を見詰めていました。其の眼の色は朱を帯びようとも先程と変わらず
でしたが、併し其の眼差しは随分と弱々しいものでした。

(;´・ω・`)『デレ! 大丈夫ですか?』
ζ(゚−゚ζ『ショボン? ……まさかな、死に行く幻でも見ているのか』
(;´・ω・`)『……』
ζ(゚−゚ζ『まったく……此の期に及んで其の様な顔をするな』

 平然と僕に答えるデレは、僕の記憶の儘何事にも動じぬデレの儘でした。何と声を掛けたら
好いか。腕はやはりデレの躰から途切れていましたが、出血は不思議なことに既に止まって
いるようでした。


※磔刑=はりつけの刑

24 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:26:07.60 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)『とにかく傷の手当てをしましょう。今すぐ町へ降りて……』
ζ(゚−゚ζ『……無駄だ。後ろを見よ』

 云われる儘に振り向いた其処に、森の木々よりも、否、其の奥に連なる山々よりも巨大なものが
静かに横たわっていたのです。其の容姿は何とも形容し難いものでした。見たときは紅く仄光る
粘液であったのですが、時に其れは透き通り、併しそう思ったときには透き通っておらず、時に
深みの有る臙脂(えんじ)色になり、併しそう思ったときには其の色も僅かに分かる程度の鴇(とき)色
をしている。其の様な奇怪な現象の塊が其れであったのです。

/ ,' 3 『鬼よ。其の命、貰い受けに来たぞ』

 柔らかな声は辺り一帯から湧き出る様にして耳へと飛び込み、躰中から力を奪い去っていくのを
感じました。未だ全てを把握したわけではなかった僕でしたが、目の前の強大な存在と、其れに今
掻き消さんとされるデレの存在があることは理解できました。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:27:17.52 ID:MLgDnOZKO
明日テストなのに…\(^O^)/

26 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:27:59.63 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)『何故デレを連れて行こうとするのですか!』
 / ,' 3 『……私は呼び出されたまでだ。山の安寧を望む者の声を聞くのみ』
(´・ω・`)『ですが!』
ζ(゚−゚ζ『ショボン』

 声を荒げ反論せんとする僕でしたが、デレに名を呼ばれ思わず言葉を飲み込んでしまいました。

ζ(゚−゚ζ『……ショボン、もうよい。鴉を殺しでもせん限り、山ノ神は帰らぬ』

 其の時のデレの表情は僕にとって耐え難いものでした。柔らかく、そして儚い其の表情を見て、
僕の中のデレが揺らめき、消え去っていきそうになりました。

27 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:30:10.83 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)『好いものか! 僕は絶対にデレを渡さない。此れから僕はあの日の罪を、君に対して
      償なっていかなければならぬのです』
 / ,' 3 『さすればどうする。お前が鬼を屠(ほふ)るか』
(´・ω・`)『何故僕が彼女を屠る必要があるのですか』
 / ,' 3 『好いか。鬼は鬼だ。死人が死人の運命を避けられぬ様、鬼も鬼の運命に従うしかないのだ』
(#´・ω・`)『彼女を愚弄するな!』
 / ,' 3 『……何と云われようと最早手遅れだ。鬼を見よ』

 苛立ちを胸に抱え乍らも僕は云われる儘にデレの方を見ました。すると彼女の足先から臍の辺り
迄が山ノ神と同じ色、質感を持った粘液に塗れていたのです。併し其れ以上に僕を驚かせたのは
其の粘液が彼女を消化していたことです。
 どろどろと彼女を足先から飲み込んでいる其の粘液は僅かに透けていたのですが、其の奥、
其処に有る筈の彼女の膝から足先にかけてが全く見当たらないのです。

28 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:32:04.00 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)『デレ!』

 慌てて駆け寄り其れを退けようとしてみたのですが、幾等掴めどもまるで追いつかず、気付けば
更に其れはデレの躰を這い上がり次々にデレを消化していっているのです。

(;´・ω・`)『何故! 何故!』

 狂乱し、未だ残るデレの躰をしっかと其の手に掴んだのですが、確かに掴んでいる筈の掌は
併し何もデレの存在を伝えては来ませんでした。眼では掴んでいるのに、掌では掴んでいない。
其の様に奇妙な感覚に、僕は更に心の中を掻き乱されました。
 併し取り乱す僕とは対照的に当のデレは酷く落ち着いた様子で僕に視線を向けてきました。

ζ(゚−゚ζ『……ショボン』
(;´・ω・`)『デレ……僕は……』
ζ(゚−゚ζ『……もうよい、ショボン。畢竟(ひっきょう)するに、之は鬼が得る天命だ。……併し、
      罰を与うる天在るならば、どうかあの子だけは幸せにと、そう願いたいものだ……』


※畢竟=色んな経過を経ても最終的には、結局

29 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:34:06.26 ID:pvNpc7Oh0
 そう云って再び天を仰ぐデレの顔を見て、僕の心は躰から完全に乖離し指一本ぴくりとも
動かなくなってしまいました。デレの其の表情は、終ぞ見たことの無い表情であったのです。

ζ(゚−゚ζ『ショボン……何を泣いているのだ』
(´;ω;`)『泣いてるのはデレだって同じじゃないですか』
ζ(゚−゚ζ『……私が?』

 頬に一筋の涙を流し乍らデレはきょとんとした顔で僕を見て、瞬きをすること数回。右、左、と
首を動かさずに視線を泳がせ、再び視線を僕の方へ向けました。

ζ(゚−゚ζ『そうか、私は泣いているのか』
(´;ω;`)『……』
ζ(゚−゚ζ『ショボン』
(´;ω;`)『なんですか?』
ζ(゚−゚ζ『好いものだな。家族と云うのは』

 即座に僕は其れを否定しようとしました。デレは未だ『家族』を何一つとして享受していない。
更に好いと思えるものが数え切れぬ程ある筈だ、と。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:34:53.42 ID:morIh2oF0
支援

31 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:36:07.53 ID:pvNpc7Oh0
(´;ω;`)「デレ――」

 併し其の瞬間には既にデレは目の前から消え失せていました。後に残ったのは露に濡れた青草と、
切り離されたデレの一部のみでした。

(´;ω;`)「……デレ、僕は……」

 静かな空間で一人、僕はデレの温もりを求めて其れを拾い上げると胸に掻き抱きました。
そうしてデレの声や表情を思い出すこと幾許。今となってみると我乍ら正気の沙汰とは思えませんが、
僕は其れを持ち帰りました。気持ち悪いと思って戴いても構いません。当時の僕は其れでしか
心の均衡を保てなかったのですから。

 其れから後、僕は唯々隠の研究に没頭しました。隠は鬼に為り得る、其れを抑制する者が居る。
鬼に為った者は山ノ神の元へ。色々な事が分かり始めました。

 そしていつの間にか月日は流れ、噂に流される儘に辿り着いた村で君と出会った――

32 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:38:28.25 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「以上が僕の体験した全て。隠であるツンの母、鬼に為ったデレについてのことです」

 しん、と静まり返った空気は、ブーンに何か言葉を求めていた。併しいきなり其の様なことを
聞かされて何を話せばよいと云うのか、ブーンは未だ其の言葉が見つからなかった。

(´・ω・`)「一つ、はっきりさせておきましょう。ブーン、君が見たツンの瞳は金色でしたか?」
( ^ω^)「……お。金色に近い、琥珀色であったお」
(´・ω・`)「其れは、内側でしたか。それとも外側でしたか?」
( ^ω^)「外側だお」
(´・ω・`)「やはりそこに関係があるのか……」

 低く呟きショボンは質問を続けた。

(´・ω・`)「それで、彼女は今何を為出(しで)かしましたか」
( ^ω^)「人を……殺したお」
(´・ω・`)「此れから先、其の様な事態が絶対に起こらないようすることが、君には出来ますか?」
( ^ω^)「……」

 未来の事柄に対して絶対を保証できる者など居るわけがない。ショボンも其れを把握し乍ら
此の質問をしたのだが、其れ以上にブーンは未来に自信が無かった。特に今の鬼の話を聞けば
尚の事であった。

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:39:01.97 ID:morIh2oF0
支援

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:39:14.75 ID:muFq4e/2O
支援

35 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:39:56.67 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「無言、ですか。……ならば僕は鑑みるに結論をこう下します。山ノ神を呼ぶべきだ、と」
( ;^ω^)「なっ! 莫迦なことを云うなお! ツンは、君の娘なのだろう? 手放したくないと、
      そうは思わないのかお!」
(´・ω・`)「……血の池で溺れる我が子を見、其の存在を確かめることで自らの心を満たす。
      其の様なことは僕には出来ません」
( ;^ω^)「ならば助ければ好いお!」
(´・ω・`)「……物事を研究したとして、必ず幸せな答えが出てくるとは限らないのです」
( ;^ω^)「何を……」
(´・ω・`)「大昔から在る習慣は改善されていないのではなく、改善する余地が無かったのです」
( ;^ω^)「君は、ツンに死ねと……死ねと云うのかお」
(´・ω・`)「……僕は人様を殺してしまった娘の親として、責任を取らなければいけません」

 云って、ショボンは懐から折り畳まれた薬包紙を静かに取り出した。

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:40:34.82 ID:morIh2oF0
支援

37 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:42:06.18 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「或いは、今の大人しい儘の彼女ならば山ノ神を呼ばずとも……」
(#^ω^)「君は――!」

 其の言葉にブーンは憤激し、勢いよく立ち上がるとショボンの手に有った包みを叩き落した。

(#^ω^)「君は一体何の為に今まで研究をしていたのだお! 此の子を、ツンを救う為では
      なかったのかお!」

 一方でショボンは床に落ちた包みを茫と見詰め乍ら、視線を向けずに呟いた。

(´・ω・`)「……此の子は孰れ正気を失います」
( ^ω^)「……何?」

 ショボンは包みを拾い上げ汚れを払い落とすと、再び懐に仕舞いブーンへ視線を向けた。

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:42:23.23 ID:muFq4e/2O
支援

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:42:39.97 ID:pBdHvmyM0
支援

40 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:44:09.78 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「其の時、君はツンに殺されるでしょう。そしてツンはあらゆる者をも殺すでしょう。
      其れを一体誰が望むと云うのですか?」
( ^ω^)「併し、何故正気を失うと云い切れるのだお。現に今ツンはとても大人しいお」
(´・ω・`)「ええ、此の状態が続けば其れは其れで好いでしょう。併し、ツンが再び鬼に為らない
      と云う確証は無く、また鬼に為ったとして其れを解決する術が君には有るのですか?」
( ^ω^)「だが為ると云う確証も無いお」
(´・ω・`)「君らしい危弁だ。為ることに確証は要りません」
(#^ω^)「だからと云って今大人しい彼女をどうにかするのは間違っているお!」
(´・ω・`)「鬼に為ってからでは遅いと、先程から僕は何度も云っている筈ですが」

 ショボンの冷静な態度にブーンの顔は怒りで見る見る赤くなっていった。ブーンも云われている
ことが正論であると頭では分かっているのだが、だからこそ余計に腹立たしくもあった。

 詰まり、自らの感情は道理から外れており、ツンを救う手立てがまるで義に適わないと云うことを
示していたからである。

41 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:46:06.37 ID:pvNpc7Oh0
(#^ω^)「僕は――」
     「――夜分遅くに済まん。少し尋ねたいことがあるんだが」

 尚も抗おうとした其の瞬間、突然第三者の声が飛び込んできた。其れは戸の向こう、外からの
声であった。ショボンはブーンに目配せをして戸に近寄ると、咳払いを一つした。

(´・ω・`)「今は、取り込んでいます。明日の朝にはならないでしょうか」
     「あぁ、あんたの話は明日の朝でもいいだろう。併し其処に居る二人は今直ぐに引き渡して
      貰えんと、あんたもどう為るか分からんぞ」

 低い男の声は怒りを帯びている様にも聞こえた。男が何を望んでいるかは容易に分かった。
恐らくは先のツンの凶行を目撃したのだろう。となると踏み切るのに時間が掛かったのは手当たり
次第に人を集め、今捕縛する積りなのだろう。そう考えた途端にブーンにはまるで家を取巻く人の
息遣いが聞こえてくるようであった。

42 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:48:03.01 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「……見られていたのか」
( ;^ω^)「ショボン……」
(´・ω・`)「君は其の子を連れて逃げなさい。ほら、君達の履物だ」
( ;^ω^)「併し逃げると云っても……」
ξ゚听)ξ「ねぇブーン、行こ」
( ^ω^)「……ツン?」

 いつの間にか奥の間から姿を現していたツンがブーンの袖を引っ張っていた。

( ^ω^)「ツン、行こうにも皆が囲んで通せんぼしてるんだお。僕が出て行って話をしてくるお。
      だから――」

 そこまで云った時、ブーンは急に頭の上から何か巨大なものによって抑え付けられたかの様な
激しい圧迫感を受けた。地面に埋まったのではないかと云う予想が瞬時頭を駆けたが、気付くと
其れとは逆にブーンは屋根の上に居た。
 そして次に襲ってきた感覚はふわふわと落ち着かない浮遊感であった。併し其の全ての理由は至極
簡単であった。単にツンがブーンを担いだ儘天井を破り、屋根の上に飛び上がったのである。

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:49:02.87 ID:morIh2oF0
支援

44 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:50:02.06 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ツン、一体何をどうして!」
ξ゚听)ξ「ツン、いしあたま」

 いつの間にか頭に木っ端を被っていたツンは、短く答えると断続的に跳躍し乍ら屋根を渡って行く。
隠の夫は代々担がれる運命にあるのかと皮肉を心中で唱え乍らも、ブーンは移ろい行く景色を唯
目で追っていた。

 暫くして立ち止まったツンは、後ろを振り返ると方向を直角に変えて跳躍、地面へと降りた。
腹にツンの肩がめり込んだブーンは短く身を悶えたが、いつまでも乗っているわけにはいかぬと、
直ぐに地面に降りた。すると何を思ったか、ツンが気色も優れぬブーンの背中に飛び付いた。

ξ゚听)ξ「こんどは、ブーンのばん」
( ;^ω^)「……まったく、何が何やら」

 ブーンは腹に響く痛みが引くのを暫く待っていたかったが、近づいてくる怒号を背に感じると
直ぐ様ツンを背負って走り出した。

45 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:52:00.69 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「いけー」

 腹の痛みを感じつつ走り乍ら、併しブーンは不思議と幸せを感じていた。
 状況は悪(あ)し。此の先に待っているのはまるで悲劇しかないと予想出来る。併し今此の瞬間、
ツンを背に走り、ツンの喜ぶ声が耳朶を擽(くすぐ)っている此の瞬間は、確かに幸せであると
ブーンは感じていた。

( ^ω^)「ツン、もっと速くするかお?」
ξ*゚听)ξ「うん! はやく!」
( ^ω^)「確(しっか)り掴まっているんだお! ほら、ブーン!」
ξ*゚听)ξ「わー!」

 ずっと走り続けられたなら。そう思わずには居られなかった。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:52:29.15 ID:muFq4e/2O
支援

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:53:59.00 ID:muFq4e/2O
支援

48 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:54:15.86 ID:pvNpc7Oh0

 どれだけ走っただろうか。いつの間にか追っ手の声は聞こえなくなっていた。其れに気付き
走ることを止めると、背に乗るツンの立てる寝息が聞こえてきた。
 寝息が聞こえる程に静かな村の外れは、まるで此の世に二人だけになってしまった様に
感ぜられ心の休まる思いもしたが、併し同時に何処か心悲(うらがな)しい思いが滲んできた。

 だがブーンは決して後ろを振り向くことなく歩き続けた。勿論、今はそうするより他なかったからだ。
そうして前を見て歩き続けたブーンだが、ふと前方に仄暗い人影を見つけ立ち止まった。人影は、
声を上げるでもなく、腕を広げるでもなく、ただ静かに見詰めるだけで彼の行く手を阻んでいる様で
あった。

 ('、`*川「……」
( ^ω^)「……」

 此の様な夜更けに村の外れに居ると云うことは、彼女もブーンを探している一人なのだろうか。
ブーンは探る様にして言葉を吐く。

49 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:56:11.70 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「夜更けに一人、かお」
 ('、`*川「……えぇ」

 其れ限りまたお互いに黙ってしまう。先程までは気付かなかったが吐息は目に見えて白く、ブーンは
いつの日であったかこうして二人向かい合った日を思い出していた。

( ^ω^)「結局、君には最後まで許してもらえなかったお」
 ('、`*川「……」
( ^ω^)「出来るなら、一度しぃとも会って一言謝りたかったお。併し、もう其れも叶わなそうだお」
 ('、`*川「えぇ、そうですね」
( ^ω^)「……それじゃあ、僕は此れで失礼するお。風邪を引かぬよう早く帰るんだお」

 話が稚児(ややこ)しく為る前にと、そう云ってブーンが横を通り過ぎんとした将(まさ)に其の時、
視線一つ動かさず彼女が呟いた。


※将に=今にも

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:56:47.64 ID:muFq4e/2O
支援

51 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:57:53.39 ID:pvNpc7Oh0
('、`*川「私が今あなたを見つけたと声を上げることは簡単です」

 ぴたり、とブーンの歩が止まった。やはり彼女も全ての事情を把握している一人であったのだ。
今すぐ駆け出そうか、或いは其れと無く説得してからの方が安全だろうか。ブーンは俄に思考を
巡らせた。

 ('、`*川「ですが私は簡単で済ませる積りはありません」
( ^ω^)「……どういうことだお」
 ('、`*川「今あなたに鉛の楔を打って、私の中の怨恨の区切りとします」
( ^ω^)「……」

 びゅう、と北風が地面の粉雪を巻き上げた。位置を入れ替えて再び相向き合った二人。
はためく着物の裾と袖を軽く押さえ乍ら、ゆっくりと、唇の動き一つ一つに注意する様に、
彼女は云った。

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 21:59:04.36 ID:muFq4e/2O
支援

53 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:59:58.79 ID:pvNpc7Oh0
('、`*川「しぃは、死にました」

 舞い上がった粉雪が、はらはらと二人の間に降り、やがて辺りは寂寞(せきばく)として音も無くなった。
背中から全身を包み込まんとする寒気が走ると、心臓が一回大きく跳ねる。ブーンは目眩を起したが、
倒れまいと地面の在り処を必死で足の裏で確かめ、踏み留まった。

( ;^ω^)「いつの……ことだお」
 ('、`*川「未だ雪の降る前、秋の中頃です」
( ;^ω^)「そんな……随分と前の事じゃないかお……」
 ('、`*川「服毒自殺でした。気付いた時には、既に……」
( ;^ω^)「いや併し、しぃは僕に葉書を寄越しているお。此れでは辻褄が……」

 ふと、ブーンの中に残っていた違和感が芽を出した。しぃにしては綺麗であったあの字は、果たして
しぃのものであったのか。こんなにも短期間で字が綺麗に為るなどと云うこと自体おかしくないか。


※寂寞=ひっそりとしてさびしいこと

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:02:02.88 ID:muFq4e/2O
ようで

55 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:02:05.67 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「まさか……あの葉書は……」
 ('、`*川「私が書きました。……あなたが、しぃを忘れない様に」

 途端ブーンの中で保っていた平常な心が崩れ落ちた。しぃの笑顔と共に無尽蔵に罪悪感が
湧き出てくるのを感じていた。胸を締め上げる痛みが呼吸を縛り上げ、見た筈の無いしぃの
亡骸が瞼の裏に浮かんでは消える。

( ;^ω^)「僕は……」
 ('、`*川「さようなら。あなたは、お元気で」

 そう云い残して可憐な復讐者は姿を消した。
 自らの選択に何か間違いがあったのか。ツンと幸せに為ることは許されることではないのか。
今、自分は非道を歩んでいるのか。ブーンは此れからの行いに対して一切の自信を失ってしまった。

56 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:04:03.72 ID:pvNpc7Oh0

ξ-听)ξ「……ん、ブーン」
( ^ω^)「……おはよう」
ξ゚听)ξ「おはよう」

 ツンが目を覚ました時、二人は山の雑木林に居た。ただ静かな風が吹くだけで、追っ手は
撒いた様であった。

ξ゚听)ξ「こわいひとたちは?」
( ^ω^)「もう声も聞こえないし大丈夫だお」
ξ゚听)ξ「ふーん」

 ブーンは今のところは大丈夫だろうと踏んでいたが、併し此の先どうするかは未だ五里霧中と
云ったところであった。
 引っ越す予定であった家にももう行けないだろう。なれば違う集落へ、いや、もっと規模の大きい
町へ姿を眩ませるのが好いか。其の様なことを考えていた。


※五里霧中=物事の判断がつかず、どうしたらいいか迷うこと

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:04:49.06 ID:VWhMj0ABO
支援

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:05:46.56 ID:muFq4e/2O
支援

59 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:06:04.82 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「ブーン、おなかすいた」
( ^ω^)「……そう云えば。ごめんお、もう少し待って呉れたら食べさせてあげるお」
ξ゚听)ξ「わかった」

 語調に似合わず聞き分けが好いなとブーンは思ったが、既にツンは廿であったではないかと思い
直した。そこでふと、ブーンはある質問を投げかけてみた。

( ^ω^)「ツンは何歳だお?」

 ツン自身、今の自分はどういった状態にあると認識しているのかが気になったのだ。質問を受け
ツンは二つ下げた髪をゆら、と揺らして首を傾げると、人差し指を立ててブーンの唇に添えた。

ξ゚听)ξ「め」

 そして短くそう云った。

( ^ω^)「め?」
ξ゚听)ξ「じょせいに、としをきくのは、しつれいですよ」
( ^ω^)「……此れは、失礼しましたお」

 何処で其の様な言葉を覚えたか。いや、彼女はそもそも廿なのだから当然か。ブーンの頭の中を
ぐるぐると思考が巡り、結局は謎が増えただけになってしまった。

60 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:08:07.39 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「よし、それじゃあそろそろ行くお」
ξ゚听)ξ「ごはん?」
( ^ω^)「そうだお。ご飯は歩いてきて呉れないお」

 そう云ってブーンはツンの手を引いて歩き出そうとした。ところが、どういうことかツンがまるで
足に根が生えた様に動かない。何事かとブーンが振り向くと、ツンは口角を落とした真剣な
顔つきで辺りの気配を探る様に真直ぐ何処かを見ていた。

ξ゚听)ξ「……待って」
( ^ω^)「どうしたんだお?」

 併しブーンには其れがどういうことなのか理解できない。少なからず逃げ果(おお)せたと云う
意識が、今置かれている状況に対しての危機感を薄れさせていたのだろう。果して其れは
村の者か、はたまた山賊か。兎に角ブーンは自らに迫る兇刃(きょうじん)に気付かなかったのだ。

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:08:59.84 ID:muFq4e/2O
支援

62 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:09:56.14 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……え?」

 背を走る細く冷たい感触に、ブーンは初め何か金属の棒で背を撫ぜられたのだと思った。
着物を着ているのにおかしいなあ、と。そうして振り向いてみると何者かが刀を手に自分の方を
向いているではないか。

ξ;゚听)ξ「ブーン!」

 ツンの声を聞き、ブーンは背に走った冷たい感触が俄に熱く為るのを感じた。焼ける様な
熱さだ。そして其れは次第に激しい疼痛(とうつう)へと変わっていき、ブーンは堪らず声を上げる。

( ;^ω^)「う……あ……ぁぁあああああ!」

 蹲り、後に転げ回る。兇漢を前にしても、無防備な姿を晒すしかない程に其の痛みは強烈であった。
そして、ニ撃目。今度はブーンの腹に蹴りが入った。


※疼痛=ズキズキする痛み

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:10:25.58 ID:muFq4e/2O
支援

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:11:41.30 ID:TzCIt/j5O
支援

65 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:12:27.56 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ぐっ!」

 続け様に三、四、五、と同じ箇所へ蹴りが入った。時に其れは場所が逸れ、胸骨、肋骨に当たる。
併し当のブーンはと云うと、背と腹に襲い来る痛みに耐え乍らも、一方で此れからのツンの安否を
心配していた。

ξ#゚听)ξ「やめて!」

 『大声を上げるな』、『逃げろ』と、叫ぼうと思えども声が出ないことにブーンは焦燥した。若し矛先が
ツンに向かったらと考えると、其れだけで自分の痛みなど考えていられなくなるのだ。

ξ゚听)ξ「なんで……」
( ;^ω^)「ぐ! ツ……ツン……が! あ!」
ξ゚听)ξ「どうしていじめるの……」

 併し、確固たる思いとは裏腹に、ブーンは段々と意識が遠のいていくのを感じていた。霞む視界
の中聞こえる音は、兇漢の土を踏む音と自分の腹が蹴られる度に出る音の繰り返しのみであった。

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:13:36.42 ID:muFq4e/2O
支援

67 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:14:16.21 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「……だめだよ……わたしだめだよ。……ブーン、ごめんね」
( ;´ω`)「……ツ、ン……逃げっ! う!」

 繰り返される暴行にブーンは激しく嘔吐した。併しそれでも暴行は止まない。胃の中身を
吐き出した途端にブーンの躰から力が抜け、意識が闇と混濁していく。

ξ゚听)ξ「……いま、たすけるよ」

 落ち行く意識の中、ブーンは獣が哮るのを聞いた。

68 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:15:50.79 ID:pvNpc7Oh0


 ブーンは奇妙な感覚の中に漂っていた。両手は地面についている。併し、首から先だけが
其れよりもずっと下、暗闇の底に沈んでいる。腕は重く、足も上がりそうに無い。地面に伏せて
いると思うのだが、まるで甲冑を着ている様に全身が重い。辺りは暗く、所々に白く細かい点が
ちらついている。併し、眼は開いていない。

ξ )ξ『ごめんなさい』

 ツンの声が響いた。ブーンは其れをただ認識するだけで返事はしない。確かにツンの外形が見える
気がするのだが、はっきりとしない。

ξ )ξ『ありがとう』

 再度声が響いた。声は泣いていた。悲しみを真直ぐに表現していた。其れを聞いてブーンは
「あぁ、よかった」と、安心した。未だ自分は役に立てる、其の様な気がしたのだ。
 さぁ其の涙を今拭いてやろう、と重い腕をブーンは伸ばした。併し其れと共にツンがどんどんと
遠ざかって行く。

ξ )ξ『サヨウナラ』

 呟く様にして放たれた言葉を残しツンは遠ざかっていく。ブーンは其れを追いかけようとする。
併し立ち上がれない。おかしいと思いもう一度眼を凝らしてみると、彼には足が無かった。
消え失せた其の足は、遠ざかるツンの、其の真赤な口に銜えられていた。

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:15:58.79 ID:muFq4e/2O
支援

70 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:18:15.44 ID:pvNpc7Oh0


(´・ω・`)「……目が覚めましたか」
( ^ω^)「……ん?」

 一転して眩しい光にブーンが目を開くと、其処は見知らぬ民家の様であった。併し先程知り合いの
声が聞こえた気がしたなと横を向くと、確かに其処にはショボンが居た。そしてブーンは自分が蒲団の
中で仰向けに寝ていることに気付いた。

(´・ω・`)「よく生きていましたね。躰中酷いことに為っていますよ」
( ^ω^)「此処は……」
(´・ω・`)「空家の様です。今何か食べる物を持って来ましょう」

 ショボンが立ち上がり何処かへと歩いていった。ブーンは其の足音を聞き乍ら、眼球だけを
動かして、ぐるりと辺りを見回した。
 空家だとショボンは云ったが、其れにしては掃除が行き届いており、まるでそうは見えなかった。
ブーンは少し間躊躇ったが、意を決して敷蒲団に手を突き、やおら上半身を起こしてみると、
先程のショボンの言葉が大袈裟だと思える程に躰は痛みを伴わなかった。

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:19:07.64 ID:muFq4e/2O
支援

72 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:20:12.65 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「君、怪我人は大人しくしていないと駄目だ」
( ^ω^)「併し、ほら、此の通り全く平気なんだお」

 そう云って右腕を振り回したところで、ブーンは急に頭が後ろに引っ張られるのを感じた。ゆっくりと
糸か何かで引かれる様にブーンは倒れ、抵抗することも出来ず再び目覚めた時の体勢に戻った。

( ^ω^)「……お?」
(´・ω・`)「貧血ですね。安静にしてなさい」

 躰の力がすっかりと抜けたのを感じ乍ら、ブーンはショボンの声を漫然と聞いていた。そして急に
世界がぐらぐらと揺れ始めた。揺れは収まるどころか次第に勢いを増し、終いには天井が引っ繰り
返って蒲団が宙を暴れまわった。
 掛け蒲団が落ちない様にとブーンは其の両手で捕まえていたのだが、世界はいつの間にか
ぐるぐると独楽(こま)の様に回転を始め、存在を忘れていた胃が自己主張を始めた。

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:21:06.50 ID:lDJ8n3O40
支援

74 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:22:00.41 ID:pvNpc7Oh0
( ;-ω-)「あぁ、あぁぁ……うぅ……」

 目を閉じ落ち着きを取り戻そうとするが、回転は止まらない。次第に筋肉痛を起こしたかの様に
痛み出した胃がどくどくと拍動し、其れはやがて食道を伝い喉の奥にまで達した。そしてブーンは
嘔吐した。

 流動物が内壁に擦れる水っぽい音を聞き乍ら、ブーンはぐるぐると回る世界では果して嘔吐物までも
舞ってしまわぬかと心配をした。
 一頻り中身が出た後も胃は痙攣を繰り返し、さらに悪いことには、其の痙攣が引き金となったのか
急にブーンの全身を激しい疼痛が襲い始めたのだ。

( ;-ω-)「あぁぁぁ! はぁぁ! あぁ……う……」

 時には痛みのあまり脱力した声を上げ、また時には周期的に襲いかかる吐き気に黙る。蒲団を
握る手に幾等力を入れても回転は止まらない。落ち、上り、吐き、唸り。ブーンは、いつ終わるとも
知れぬ責め苦に耐え続けた。

75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:22:22.75 ID:muFq4e/2O
支援

76 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:24:09.12 ID:pvNpc7Oh0

 ブーンが落ち着きを取り戻し一休みした頃、辺りは真赤な夕暮れに包まれていた。昔、子供の頃は
夕陽は暖かな橙色だと感じてものだが、今は刺す様な赤色に見えるものだとブーンは溜息を吐いた。
 併し心を揺らす程に赤い其の真朱(しんしゅ)色は、差す光の帯がまるで一級の反物の様に見える
程に品位が感ぜられ、ブーンは或る人物を思い出した。

( ^ω^)「……」

 心の中に滲み出る様に彼女の顔が浮かんできたが、ブーンは突然叫ぶ様なことはしなかった。
まるで、悪夢がひたひたと悟られぬ様に近づいているのに気付き乍らも、其れをさも知らぬと云った
風に装いショボンを呼んだ。

( ^ω^)「ショボン、居るかお」

 返事が無い。怖気が背を包み、ブーンは身震いをした。何かがひたひた、ひたひた、と近づいて来る。

77 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:26:05.89 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ショボン」
      「あぁ、起きたのですか。今行きます」

 返事が聞こえた。焦ってはいけないものだとブーンは簡単に深呼吸をした。斜陽が心を冷やす。

(´・ω・`)「気分はどうですか?」
( ^ω^)「良好だお。君には本当に世話をかけたお」
(´・ω・`)「いえ、気にしないで下さい」

 あぁ、そうだ。此の頃好くない予感許りが当たるのだ。意思とは関係無しにブーンの心がそう呟いた。

( ^ω^)「……その、なんだ」
(´・ω・`)「はい」

 ブーンは言葉を出そうと思った。聞き出そうと思った。併しひたひたと近づいてきた何かはもう
ブーンの背を包み、後ろからゆっくりと首を絞めて其れを邪魔するのだ。

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:26:08.53 ID:muFq4e/2O
支援

79 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:28:04.34 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「あぁ、いや……」
(´・ω・`)「……あの子、ですか」

 だのに目の前の男が其れを助けたのを受けて、ブーンは途方もなく絶望してしまったのだ。
聞きたくない。そう思ったのだが、併しやはり言葉が出ない。もう首を絞める陰は消えているのに。

( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「……いや、君には有りの儘を云おう」

 其の言葉が既にブーンの心を凍えさせた。あぁ、悲しみがやってくる匂いがする、と。

(´・ω・`)「あの子は鬼に為りました。最早手がつけられない状態で、今も暴れ回っています」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「此の家も、元は住んでいた者が居た。だが鬼が暴れ始めたからか、出て行ってしまった様です」

 結末を聞いて、併しブーンはやはり言葉を出すことが出来なかった。
 手を伸ばせば彼女が居た。苦しみ乍らも今迄は隣に彼女が居た。併し、今を以って其の手から
彼女の温もりが逃げていったのをブーンは感じたのだ。離れてしまった、と。

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:28:56.45 ID:muFq4e/2O
ようで

81 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:30:22.06 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「併し……僕が……」
(´・ω・`)「君、ここまで待ったんだ。もう厭とは云わせんよ」

 ブーンの呟きを殺し、ショボンはぴしゃり、と云い放った。其の眼は何時にも増して真剣其の物で
今にも行動に移してしまいそうな程の決意が宿っていた。
 其の様なショボンの様子にブーンは気圧されつつ、ショボンに語りかける。

( ^ω^)「……呼ぶのかお」
(´・ω・`)「ええ。今彼女は山の方へ行っている様です。それならば舞台としても悪くない」
( ^ω^)「……」

 確かにブーンとて仕方無いとは思っていた。ここ迄来たのならもう自分にはどうすることも出来ない。

 淡い夢は今弾け、其の散りたるを見てただ涙する。人である自分には其の程度しか出来ないと
彼は分かっているのだ。併し分かっていても、人であるが故、其の散り行く一片に手を伸ばさずには
居れぬのだ。

82 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:32:56.57 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……どうしてもかお」
(´・ω・`)「……呼ぶに当たり必要なことが有ります」

 ブーンの呟きを再び意に介さずショボンは発言した。其れにブーンはまた黙ってしまう。

(´・ω・`)「必要なこと、其れは両の目を潰すことです。さすれば山ノ神は現れるのです」
( ;^ω^)「き、君! 何もそこまですることは無いのではないかお!」
(´・ω・`)「安心してください、人の僕に呼べる山ノ神は青。鴉の呼んだ紅ほどの力はありません」
( ;^ω^)「そんな色などどうでも好い! 君は今両目を潰すと云ったのか!」
(´・ω・`)「ええ。併し彼女は鬼です。両の目くらい放っておけば直ぐに治癒するでしょう」

 云われ、其の瞬間安心してしまったブーンは愚かな自分を恥じた。此れから亡き者にしようとする
過程において、其の安否を気遣う言葉の何と皮肉なことか。ブーンは自分でもおかしいと思うくらい
唐突に激怒し、ショボンに飛び掛った。頭の中では愚かだと分かっているのに、血が沸くのだ。

83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:33:13.75 ID:muFq4e/2O
支援

84 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:34:20.93 ID:pvNpc7Oh0
( #^ω^)「君に……君に僕の気持ちが解るものか!」
 (´・ω・`)「解りますよ。僕だって以前隠を妻に持った身だ」
( #^ω^)「なれば何故其の様な事が云える! 貴様こそが悪鬼だ! 此の外道め!」
 (´・ω・`)「……君に鬼が殺せるのか!」

 バァン、と床を平手で打つと、ショボンが声を張り上げた。併し其れ式が何だと云わん許りに
ブーンも同じく床に拳を叩きつけると、一層激しく怒鳴りつけた。

( #^ω^)「殺せるわけがないお! 殺さず、僕はツンと此の世を往く!」
 (´・ω・`)「甘えるな! 云うた筈だ。隠と共に暮らす生活、辛いものになるのは目に見えていると」
( #^ω^)「何を以って生活か! 一人で生きて、何が共に暮らす生活か!」
 (´・ω・`)「黙れ! ……どうしてもと云うのならば僕を斃(たお)せ。そして自分に仇なす者全てを斃せ!」
( ^ω^)「何を……」
 (´・ω・`)「其の先に幸せがあると云うならば、そうし給え。僕はもう知らん」

 感情的に為っている今ならば全てが危弁に聞こえる筈のブーンでさえも、其の意見に対抗する気は
起きなかった。幸せに為る方法など、あれば云われずとも実行していた筈だ。
 ブーンは言葉に詰まり、暗澹(あんたん)たる思いに引き摺られそうになった。併しそれでも耳の奥に
残る彼女の声は、未だブーンの名を呼んでいた。


※暗澹=見通しが暗く、希望が無いさま

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:35:14.24 ID:VWhMj0ABO
支援

86 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:36:10.68 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……如何な」
(´・ω・`)「……ん?」
( ^ω^)「如何な理由であれ……僕がツンを見捨てる訳にはいかないんだお」
(´・ω・`)「然(さ)れば、僕を斃すのか」
( ^ω^)「……」

 俯き、黙るブーン。どうしようもないのだ。分かっている筈なのに、抗わずには居られぬのだ。

(´・ω・`)「……もう好きにし給え」

 吐き捨ててショボンが何処かへ行ってしまった。其の遠ざかる足音を耳に、ブーンは悔しさから
ぎりぎり、と強く歯噛みした。後に唇が細かく震え、膝に水滴がぽたぽたと落ちた。悲しみの涙ではない。
ただ悔しく、そして怒りにも似た感情が溢れていたのだ。そして其の感情が流す涙は、熱くブーンの
胸を焼き続けた。

87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:36:36.59 ID:VWhMj0ABO
支援

88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:37:24.69 ID:VWhMj0ABO
支援

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:38:14.54 ID:muFq4e/2O
支援

90 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:38:24.14 ID:pvNpc7Oh0


 不意にあぁと声が漏れた。其れは誰でもなくブーンの出した声である。彼は床に肢体を投げ出し、
虚ろな心持で天井を見上げていた。部屋に有った洋灯も点けずに深い藍色の空間を茫と眺め、
彼はゆっくりと目を瞑った。

 辺りは静まり返り、鐘の音が尾を引いた様な静寂が耳に痛い。鬼が暴れているなどと、まるで
戯言(たわごと)の様ではないか、と思い乍らブーンは更に意識を内へ内へと潜らせていく。

 あぁ、僕は此の儘雪の様に融けて往きたい。日の光も届かぬ底に積もりては、真暗な冬を過ごし、
何も知らぬ儘に春には融け往く。僕も雪の様に此の儘融けて往きたい。静かにブーンは、そう呟いた。


※洋灯=ランプ

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:39:20.34 ID:VWhMj0ABO
支援

92 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:40:03.45 ID:pvNpc7Oh0
 其の様な意識も朧な彼の耳に、快活な音が飛び込んできた。ドン、ドン、と歯切れの好い音は、
どうやら誰かが戸を叩いている音の様であった。
 目を開けて、重い躰を起こすとブーンは茫と其の音がする方を見ていた。明かりも無い家の戸を
叩き続ける者は何処ぞの酔漢かと思い乍らも、一方で若しやまた自分の命を狙う者ではないか
とも思い、寒気がした。

 併し、其れならば其れで好いだろう。最早此の空虚を抱えて生きて行ける程の気力は失われた、と
ブーンはよろよろと立ち上がり、戸を開けた。

 ( ゚∀゚)「おいブーン、開けるのおせぇぞ!」
( ^ω^)「……?」

 意外なことに外に立っていたのはジョルジュであった。ブーンは何故彼がここに居るのかと疑問に
思い乍らも、とりあえずとジョルジュを家に上げ、洋灯を点けた。

 ジョルジュは我が物顔で座布団を引っ張り出すと其れに座り、ブーンにも向かいに座るよう指示した。
すっかり気力の失せていたブーンだったが邪険にすることも無く、其れに従う様にゆっくりと腰を下ろした。

93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:40:39.07 ID:VWhMj0ABO
支援

94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:41:08.41 ID:MLgDnOZKO
なんか、このブーンイラつくな…。話は面白いけど。

95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:41:45.64 ID:VWhMj0ABO
支援

96 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:41:57.62 ID:pvNpc7Oh0
 ( ゚∀゚)「あのおっさんに訊いて此処まで来た。俺が来たのは他でもない。一つ確かめたい事が
      有って来たんだ」
( ^ω^)「……」
 ( ゚∀゚)「爺ちゃんが死んだ。だが、あいつは老衰なんかじゃくたばらねぇ。誰かに遣られたんだ」
( ^ω^)「……知っているお」

 此れ程に小さな子供にまで責められるのだなと、ブーンは思った。もう何も知りたくない、何も
確かめたくない、早く終わらないものか、と溜息を吐く。

 ( ゚∀゚)「村の奴らの話だけじゃ今一つ納得できないんだ。ブーン、訊いていいか?」
( ^ω^)「好きにするお」
 ( ゚∀゚)「爺ちゃんを遣ったのは、ツン姉ちゃん、なのか?」

 はっきりと臆せず発言をするジョルジュの姿を見て、ブーンは感嘆した。此の子は立派な大人に為る。
少なくとも自分よりは公明正大な大人に為るだろう、と考えたのだ。
 併し、村を治めるならば村の言葉に耳を傾けるべきなのだとも考えた。そしてブーンは自分が既に
仲間ではないのだと伝える為に、ここで一つジョルジュに嘘を吐くことにした。悪意の捌け口が鬼では
此の子も救われまいと。

97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:43:20.30 ID:VWhMj0ABO
支援

98 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:43:56.87 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……ツンが? そんなもの勿論嘘だお」
 ( ゚∀゚)「だよな! なんだよやっぱりか。幾ら爺ちゃんが年寄りだからってツン姉ちゃんに負ける
      わけないもんな! いやぁ好かった。あいつら寄って集ってまったく……」
( ^ω^)「僕が……殺したお」
 ( ゚∀゚)「……え?」

 ジョルジュの大きく開いた口は、口角を上げた儘ぴくりとも動かなくなった。其の表情を崩す為に
もう一度ブーンはゆっくりと云った。

( ^ω^)「君のお爺さんは、僕が、殺したお」
 ( ゚∀゚)「……」

 口角が下がった。次いで口が閉じ、眼球が下を向き、大きく左右に動いた。明らかに動揺する
ジョルジュを見乍らブーンは、破滅する身に於いてはどうして此れもまた心地好いことだなと下劣な
ことを考えていた。

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:44:04.44 ID:VWhMj0ABO
支援

100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:44:56.22 ID:muFq4e/2O
支援

101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:45:42.19 ID:VWhMj0ABO
不吉な……。

支援

102 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:46:08.93 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「僕が憎いかお?」
 ( ゚∀゚)「……」
( ^ω^)「もう君で好い。憎いならば、僕を殺して呉れお」

 そう云って手近なところに有った小刀一本、ジョルジュの前に差し出しブーンは微笑んだ。今此処で
死ぬのならばそれで好い。ツンがどうなったなど最早知りたくもないと、ジョルジュに全てを託した。

 併し、結局ジョルジュは小刀を手に取らなかった。それどころかあっけらかんとしてこう云ったのだ。

( ゚∀゚)「そうか」

 此れにはブーンも目を丸くした。身内を殺した者を前に「そうか」の一言で済ませる者が此の世に
居るものかと。併し言葉を失うブーンを前にジョルジュは更に言葉を続けた。

103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:47:05.03 ID:muFq4e/2O
支援

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:47:09.83 ID:VWhMj0ABO
支援

105 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:48:03.67 ID:pvNpc7Oh0
 ( ゚∀゚)「まあ、ブーンにも色々あったんだろ? 其れを訊くのはきっと野暮ってもんだ。少し驚いたけどな」
( ^ω^)「……」
 ( ゚∀゚)「爺ちゃん、前から何時死んでもおかしくないとか云ってたしよ。まあ仕方ない」
( ^ω^)「そう……なのかお?」
 ( ゚∀゚)「俺の顔見れたからいつ死んでも好い、とか毎日の様に云ってたもん。其れが偶々(たまたま)
      此の間だったってだけだ。仕方ないな。まあそんなところだ」
( ^ω^)「……」

 す、とジョルジュの顔が引き締まっていくのをブーンは感じた。目に見える表情の変化は泣き出す
兆候かとも思われたが、ジョルジュは無風の水面の様な静かな表情の儘であった。
 本人は気付いていないだろうが、仕方ないと連呼する其の言動は、傍目から見れば無理があるもの
の様であった。併し、其れだけ彼も大人に為ったと云う事なのだろうかとブーンは追及するのを止めた。

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:49:05.14 ID:VWhMj0ABO
支援

107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:49:25.04 ID:muFq4e/2O
支援

108 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:49:53.38 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……あの二人も来ているのかお?」
 ( ゚∀゚)「いや、来てないし教えてない。暫くは隠しておこうと思う。あいつら二度目だし」
( ^ω^)「あ……あぁ」
 ( ゚∀゚)「ま、俺がまとめて面倒見てやるってもんさ」

 表情は笑顔に変わっていた。そして声色は溌剌としていた。其れを見てブーンは悟られぬ様に
溜息を吐く。

 ( ゚∀゚)「よし、そうだな。なんか手伝えることとか無いか?」
( ^ω^)「手伝えること?」
 ( ゚∀゚)「いや、なんか色々大変なんだろ? 俺が手貸してやるよ」
( ^ω^)「……いや、悪いけど何も無いお。ジョルジュは早く村に帰ったほうがいいお」
 ( ゚∀゚)「辛気臭ぇなあ、なんでもあるだろ。早くして呉れよ」
( ^ω^)「……じゃあ家に置いてきた上着でも取って来て貰えるかお?」
 ( ゚∀゚)「承知!」

 床の抜けそうな音を立て乍ら駆けて行き、ジョルジュは家を飛び出していった。ブーンは其の
後姿を見送ると、また大きく溜息を吐き、そして呟いた。

109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:51:07.96 ID:VWhMj0ABO
支援

110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:51:51.14 ID:VWhMj0ABO
支援

111 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:51:56.31 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……自分でするしか……ない、かお」

 そしてやおら立ち上がり部屋を物色し始めた。小刀でも好いと云えば好いのだが、若しや他に
打って付けの物は無いかと思ったのだ。
 程無くして埃の被った木箱の中から色褪せた布に包まれた一振りを発見した。ブーンは其れを手に
取るや否や、腹を抱えて笑った。

( ^ω^)「はは、は、はははははははははは! あぁ、あぁ、あははははははは!」

 此れならば確かに失敗などする筈も無い。それに長過ぎるのが却って好いではないか。自分は
死ぬ其の時まで手に負えぬものに翻弄され続ける滑稽者(おどけもの)なのだ、と。

( ^ω^)「はは……は……」

 笑いが治まるとブーンはまた無表情に戻り、刀一本持ってに外へ出た。其の目的は一つ。
其の手に持つ一振りで自害する為だ。家を出たのはブーンの最後の良心とでも云えようか。
とは云え、彼自身は無意識の行動であったのだが。


※滑稽者=たわけもの、おろかもの

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:53:40.31 ID:muFq4e/2O
支援

113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:53:56.10 ID:VWhMj0ABO
支援

114 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:54:07.44 ID:pvNpc7Oh0

 足跡で汚れた雪を踏み乍ら歩くブーンの表情は、此れから死のうと云う者にしては奇妙な程
穏やかであった。死を前にしてブーンは特別何かを考えると云うことをしていなかったのだ。茫と
ただ心の決まる場所を探して歩いているだけで、其処に死に対する感情は一切無い。
 ただ何とは無しに、しぃに謝る為の口と手位は其の儘にしておこうか、などと考えたりしていた。
併し乍ら未だ其の方法すらも決めていないのである。

 冷たい冬の空気を吸うと躰の心まで冷えていき、ブーンは心の動きが鈍くなっていったのを感じた。
何をも認めぬ儘、何をも考えぬ儘、不確定の儘で、耳に残るツンの温かい声を抱いた儘終りにしたい。
其の思いを胸にブーンは立ち止まると、刀を杖の様にして両手で地面に突き、ひんやりと冷たい
柄頭(つかがしら)に額を乗せ、其の儘暫く此の世の静寂を聴いていた。

115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:55:12.91 ID:muFq4e/2O
支援

116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:55:49.56 ID:VWhMj0ABO
支援

117 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:56:11.34 ID:pvNpc7Oh0
 静寂は音も無く、されど耳に積もる追懐の情は心をより一層冷やしていった。今ならば痛みも
感じぬかも知れない。そう思うとブーンは顔を上げ、凝と真白な雪に刺さる一振りを眺めていた。
キラキラと光る青貝散らしの鞘はいつか見た綺羅星をブーンに思い出させた。

( ^ω^)「何を今更になって……」

 眉を顰(ひそ)め背筋を正すと、ブーンは思いを断ち切る様に右手で確(しか)と其の鞘を握った。
そして左手に持ち替えると鍔元を握り、親指に力を込め鍔を押し上げた。
 瞬間、白銀の刀身に吸い込まれる様にして目を奪われたブーンだが、臆してはならぬと右手を
柄に確と掛ける。

( ^ω^)「……」

 右手は前へ、左手は後ろへ。両手が離れ刀身が其の姿を現すほどに、ブーンは心臓の高鳴るのを
感じていた。俄に背中の傷が痛み出す。

 そして愈々(いよいよ)抜けきらんとした将に其の時、ブーンの耳に絶叫が飛び込んできた。

118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:57:22.88 ID:muFq4e/2O
支援

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:57:53.93 ID:VWhMj0ABO
支援

120 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:58:10.88 ID:pvNpc7Oh0
      「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
( ^ω^)「……今の声は……ジョルジュ?」

 途端ブーンの中に様子を見に行かねばならぬと云う思いが生まれた。併し将に死なんとする
自分に何が関係あろうかと、再び意識を戻そうとする。だがブーンの手は引き抜かれつつあった
刀身を既に鞘に戻していた。

( ^ω^)「……莫迦めが。何と情け無い男だお」

 優柔な自分の性格に呆れ乍らもブーンは声のする方へ駆け出した。


 走り出して直ぐ、角を曲がった先にジョルジュが道の真中で背を向け地面に蹲っているのを
ブーンは見つけた。若しや何者かに襲われたのではないかと思っていたのだが、周りには
人一人居ない。

( ^ω^)「……ジョルジュ?」

 併しまるで止まない叫び声。何かがあったならばもっと他の言葉を発しても好いだろうにと
思う程に同じ叫びの繰り返しであった。転んで怪我でもしたのかと歩み寄ろうとするブーン。
併し直後に彼は其の真実を知る。

121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 22:59:27.36 ID:VWhMj0ABO
支援

122 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:59:56.17 ID:pvNpc7Oh0
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ひっ! ぁぁぁあああ! ……ぃちゃん! 爺ちゃん!」

 ぴたりとブーンの歩みが止まった。必死に祖父を呼ぶ其の声は、泣き声であった。

( ;^ω^)「ジョル……ジュ……」

 ジョルジュは泣いていた。其の小さな躰をぶるぶると震わせて、一所懸命泣いていたのだ。
しゃくり上げる声は聞いているだけで胸が詰まり、恐らくはぼろぼろと零れる涙が其の顔面の
全てを濡らしているに違いなかった。

「爺ちゃん! 爺ちゃああああん! うあああああああああああん! ひっ……あ……ぁあああ!」

 土下座する様に地面に伏せ、途方もない悲しみと絶望に蹂躙される儘に只管叫んでいた。
唯でさえ小さい躰を丸めて、ジョルジュは誰からも慰められること無く、ただ孤独に耐えていた。

123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:00:12.96 ID:muFq4e/2O
支援

124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:01:15.84 ID:VWhMj0ABO
支援

125 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:01:53.14 ID:pvNpc7Oh0
 大切な家族との別れが辛くない筈が無い。それでもジョルジュは耐えていたのだ。必死に
耐えて、ブーンに気を遣わせまいと泣かずにいたのだ。此れ程にも小さな子が、微塵も声を
上げることなく、だ。そして一人になった今、児に帰り、泣いたのだ。
 ジョルジュは強かった。大切な者を突然失っても気丈であり続けた。其の姿を知り、ブーンは
静かに涙し、そして自らを深く恥じた。

 ――まるで自分は赤子の様だ。童子にも劣る腑抜が、今罪無き児に悲劇を齎(もたら)したのだ。
併し其の矮躯には重過ぎる筈の悲劇を、其の児は此の腑抜を前にして立派に耐えて見せたのだ。
 其れに対してただ繰言(くりごと)を並べるだけの、此の自分の浅ましさ。どうして此の世に斯程(かほど)
情けない男が居ようか。


※繰言=泣き事や不平などを、くどくどと言うこと。 ※斯程=これほど

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:02:46.42 ID:VWhMj0ABO
支援

127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:02:57.64 ID:muFq4e/2O
支援

128 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:03:16.86 ID:pvNpc7Oh0
 そう考えると、強く握る拳を震わせブーンは静かにジョルジュに深謝した。併し声を掛けることなく
ブーンはジョルジュに背を向け歩み出す。確と大地を踏み締め、視線は前へ向けて。

( ^ω^)「……会いに行こう、ツンに。そして会ったならば、ツンは僕が……」

 ぎゅっと刀を握り締めブーンは肚を決めた。そしてブーンは其れ限り後ろを振り返ることなく
走り出した。

( ^ω^)「ツン、済まなかったお。あの時の言葉、僕はここに今も変わらず思い続けているお」

 冷え冷えとしていたブーンの躰は、いつしかじんわりと熱を帯び始めていた。


※深謝=心から感謝すること。心からわびること。

129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:04:08.82 ID:VWhMj0ABO
支援

130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:05:08.77 ID:muFq4e/2O
支援…

131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:05:43.55 ID:VWhMj0ABO
支援

132 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:05:58.01 ID:pvNpc7Oh0


 何処とも知れぬ場所ではあったが、山を目指すのならばそこにさしたる支障は無かった。
ただ遠くに見える山肌を目指し走れば好いだけなのだ。ブーンは兎に角走った。

 時折、泥濘(でいねい)に足を取られ転びそうになり乍らも、ブーンは休むことなく駆けていた。
いつもなら苦しさに足を止めてしまうのだが、今はどうしてか走り続けることが出来た。
 心地よい疲労を抱えた四肢は熱(ほて)り、冷たい夜気に晒された眼は冴え、流れ行く景色が
其の意味を失っていく。次いで時間の感覚が失せ、ふと走っていることすらも忘れそうになる。
そうした幻の中で、ただ想い人の姿を追いかけようとする心の儘に、彼は身を委ねていた。

 其の様な彼が正気を取り戻したのが、道の傾斜が足に辛くなって来た頃であった。辺りを
見回して始めて其の異様さに気が付いた。
 既に辺りに民家は無く、木々の立ち並ぶ許りの林であったのだが、其の木々がまるで台風と
雷が同時にやってきたのかの様に裂け、或いは折れ、現実とはかけ離れた悲惨な景色を
作り出していた。


※泥濘=ぬかるみ

133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:06:45.81 ID:VWhMj0ABO
支援

134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:07:15.12 ID:muFq4e/2O
支援

135 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:08:18.69 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「……」

 やはりそう云う事なのだろうかと怯えそうになる心をどうにか奮い立たせ、ブーンはここからは
一歩ずつゆっくりと歩いていった。

 前に進むほどに、新たに明らかになってくる光景はブーンを苦しめさせた。
 例えば道の脇にあった空き地に、腰辺りまで堆く積み上がり腐臭を放つ鳥や野犬の屍骸を
見つけた。例えば道中(みちなか)に、ばったりと倒れる男と人を見つけた。人と云ったのは、
其の特徴が人とまでしか判らなかった為である。
 其の様な光景を見る度に、彼は涙の流れ出ようとするのを必死に堪えた。其の一つ一つが
重ね合わさる程に、彼女が人から遠ざかっていくのを感じたのだ。

 仄暗い山道は、他に何が潜んでいるのかと不安にさせる底の知れなさがあった。嘗て山で
遊んでいたブーンだが、過去には体験しなかった山に対する漠然とした恐怖を今肌に感じていた。

 而して後、彼は終に大きな恐怖を目の前にして立ち止まってしまった。其処に、居たのだ。

136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:09:50.75 ID:muFq4e/2O
支援

137 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:10:09.64 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……」

 其れを見た途端、思わずブーンは踵を返そうとした。併し既(すんで)の所で背中を向けようと
するのを止めた。今此処で逃げてしまっては意味が無いのだと、何度も自分に云い聞かせ乍ら
確と前を向き、其の両の眼に彼女を捉えた。

――捉えた其の姿は最早彼女の面影も朧な、鬼であった。

( ;^ω^)「……あぁ……」

 鬼。其の言葉も存在も知られ乍ら、併しこうして対峙した者の話を聞くことは無い。何故ならば
其の全てが悉く鬼に殺されてしまうのである。

 異界の者の証とも呼べる全身に纏う青白い光は寒々と揺れ動き、静やかな威圧で近づいた者に
其の自由を亡失させる。
 金色に獲物を狙う瞳は琥珀よりも尚深く透き通り、奥に燻る緋色の殺意は視線を交わさずとも
其の質量を以って命と云う命に俗世からの乖離を予感させる。
 そして口元から今か今かと待ちきれぬ様に飛び出す歯牙に、筋張った両手から伸びる猛禽の如き
鉤爪は、見た者に切り裂かれた後を想像させる程の凶暴さを誇示し、果てには裂かずとも其の
振り下ろす圧によって人を喪神させる程の力を持つ。

 人とはまるで異質な空気を纏う其の化生の名こそ、鬼。万物を鏖殺(おうさつ)して尚、微塵の変化をも
受け入れぬ不条理の極である。


※喪神=気を失う ※鏖殺=皆殺し

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:10:24.12 ID:VWhMj0ABO
支援

139 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:12:07.03 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「……ツン」

 併し此の男と云えば、鬼を目の前にして出た最初の言葉が其れであった。微かに抱いていたのだ。
名を呼べば彼女が応えて呉れると云う希望を。よく見れば其の見目形は鬼と為れど、併しツンの容貌を
残しているではないかと。

ξ゚听)ξ「……」
( ;^ω^)「……ツン」

 二つ。ブーンは彼女の名を呼んだ。すると如何だろうか、ツンは其の声を聞いたのかブーンに
向かってゆっくりと歩き始めた。

( ;^ω^)「……」

 ゆっくり、ゆっくりと其の距離の縮まるのをブーンは感じていた。不安と期待と焦りと恐怖が綯い
交ぜになったものがブーンの心を締め上げる。ゆっくり、ゆっくり、ツンは距離を縮める。

ξ゚听)ξ「……」

 依然無表情のツン。笑うか、泣くか、怒るか。表情の変化は未だ訪れない。其の変化を見落とすまいと
ブーンは目を凝らす。

 ザ、と音がした。何の音か。地を蹴る音だ。ツンは居るか。居ない。居た。跳んでいた。鉤爪が見えた。
彼女に、表情は無かった。

 ブーンは瞬間手に持っていた刀をも抛り、身を縮こまらせた。駄目か。其の様なことを瞬間思い、
目を瞑った。

140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:12:18.97 ID:VWhMj0ABO
支援

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:12:40.27 ID:muFq4e/2O
支援

142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:13:38.56 ID:VWhMj0ABO
支援

143 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:14:01.44 ID:pvNpc7Oh0
 併し次の瞬間に聞こえた音は肉を裂く音でもなく、骨を砕く音でもなかった。ザザァ、と地面と履物の
擦れる音が、僅かにしただけであった。其の音にブーンは怖々と目を開く。

(´・ω・`)「無事ですか?」

 其処にはツンの振り下ろした手を、右手に握った煙管で受け止めているショボンが居た。疾風の如き
速さの一撃であった筈だが、煙管は折れることなく、また左手を添えていたとは云えショボンが受け
止めているという事実がブーンには信じられなかった。

 其れを見たツンが目を丸くし、跳躍して後ろへ下がった。併し下がって尚、牙を剥き威嚇する姿を見て
ブーンは思わず、あぁ、と声を漏らした。

(´・ω・`)「……下がっていて下さい」

 其の声がして幾許。ツンが再び姿勢を変え飛び掛って来た。

144 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:15:59.11 ID:pvNpc7Oh0
 ショボンは襲い来るツン目掛けて、いつの間にか左手に握っていた砂を投げ付けると同時に踏み込み、
一糸の迷いも無く、喫煙するときとは逆に向こうへと吸い口を向けた右手の煙管で突きを繰り出した。
 併し其の一撃は鉤爪に弾かれ、在らぬ方向へと向かう。そして空いた胴へツンの右手が迫った。
其れに気付いたショボンは地を蹴り、脇腹を掠める風を感じ乍ら無理矢理躰を捻り側方に跳ぶと、
地面を転がり其の勢いが死なぬ内に跳ね、距離を開けた。

( ;^ω^)「ショボン!」

 併しショボンが離れるよりも早くツンは接近し、体勢を戻す隙を与えることも無くショボンの顔に
鉤爪を振り下ろした。
 咄嗟に防ごうと出された煙管も、併し不完全な体勢では其の勢いを殺しきれずに、ショボンは
反射的に左腕で顔を庇ってしまった。鋭利であり乍ら鈍器で殴られたかの様な衝撃を受け、
簡単に切り裂かれた病葉(わくらば)の様な腕を見て、他人事乍らブーンは肝が冷えるのを感じた。


※病葉=虫や病気で変色した葉

145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:16:00.98 ID:VWhMj0ABO
支援

146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:16:31.14 ID:muFq4e/2O
支援

147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:17:28.91 ID:VWhMj0ABO
支援

148 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:18:02.18 ID:pvNpc7Oh0
 併し其の直後に切り裂いた当人のツンが、ゆらと後ろにたじろぎ、そして叫び声を上げた。

ξ#゚听)ξ「亞阿唖ァ阿亞ァア唖亞亞ア阿ァ亞!」

 まるで意味を成さない言葉を、腹の底へ響く様な声でツンが哮(たけ)る。見ると其の腹から
ポタリポタリと血が滴っているのが分かった。どうやらショボンは左腕を引き裂かれたにも拘らず、
ツンに一撃を食らわせたらしかった。
 だが同時にブーンは目の前が闇よりも尚、昏く為っていくのを感じた。

( ;^ω^)「ショボン! もう止めろ! 止めて呉れお!」

 掠れる様な叫び声を上げるも、併し其の声などまるで聞こえんと云った風にショボンは笑った。

(´・ω・`)「……そう云えば、君には未だ此れは話していなかったね」

 視線はツンに向けて、併し其の言葉は二人に向かって同時に投げかけられている様にも思われた。
ショボンは切られた左腕を高々と月に向かって突き上げると、其の腕に痛みを感じていないことを
示すかの様に滴る血を振り払った。

149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:19:17.45 ID:VWhMj0ABO
支援

150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:19:49.35 ID:muFq4e/2O
支援

151 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:20:03.96 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「鬼を喰らった者は幾許の鬼の力を得ることが出来るのだ」

 云い、ショボンはブーンが先程抛った物であろう一振りを手に取った。そして抜刀すると鞘を捨て、
持った右手を一本突き出す様に構え、高らかに叫んだ。

(´・ω・`)「此の煙管は骨より出来ている。其れは他でも無く御前の母のものだ、鬼よ。そうだ、御前の
      母を己(おれ)は喰らったのだ! どうだ、己が憎いか! 鬼よ!」

 一刹那、静寂が辺りを支配したかと思うと、突如空を裂く様な咆哮。其の意を理解したか、自らの
腹を刺された怒りか、鬼は哭いていた。

(´・ω・`)「……夜鳴きの煩い子だ」

 ショボンは呟き刀を上段に構えると、ジリジリと摺足で間合いを詰めていく。一方ツンは歯牙を剥き、
目を剥き、態とらしく肩を聳(そび)やかしてショボンを睨み付ける。其の姿は正に獣其の物であった。


※聳やかす=高くする

152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:21:50.79 ID:VWhMj0ABO
支援

153 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:22:16.31 ID:pvNpc7Oh0
 威圧するように距離を詰め行くショボンであったが、ツンは動かなかった。唯ショボンの顔を睨み付け
唸る許りで、次にどのような行動を起こすかがまるで知れない。

(´・ω・`)「……っ!」

 先に仕掛けたのはショボンだった。地を蹴ると、一息にツン目掛けて跳躍。其の人離れ甚だしい
脚力に任せて刀を振るった。振るわれた後刀身は衝撃に震え、辺りに透き通った音を響かせる。

ξ゚听)ξ「……ァ」

 併しツンは其の一撃が振るわれても尚動いてはいなかった。動く必要が無かったのである。
ツン目掛けて繰り出された一撃は、鉤爪に阻まれ傷一つ付けるに能(あた)わなかったのだ。

(´・ω・`)「ふ!」

 だが阻まれて尚ショボンは引かず、咄嗟に刀から手を離すと其の勢いの儘身を捻り、確と地を
踏み締め後ろ回し蹴りを繰り出した。


※能う=できる

154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:22:21.20 ID:muFq4e/2O
支援

155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:23:13.35 ID:VWhMj0ABO
支援

156 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:24:16.00 ID:pvNpc7Oh0
 ツンの左眼窩(がんか)目掛けて蹴りが放たれる。併しツンは其れを読んでいたのか、身を反らすと
其の儘後方宙返りをし、復もショボンの攻撃は不発に終わる。

ξ#゚听)ξ「亞亞!」

 瞬間完全にツンに背を向けてしまったショボンは慌てて身を屈めようとするが、ツンは着地すると
同地に其の足の溜めを前面へ飛び掛る力へと変え、跳躍。其の儘追い掛けるようにして
ショボン目掛けて鉤爪を振るった。

(;´・ω・`)「ぐっ! は……ぁ!」

 背中に一撃を喰らい、ショボンは受身も碌に取れず其の儘地へ叩き付けられた。背にどっぷりと
血を付け乍らも、追撃を免れる為にショボンは素早く体勢を立て直す。

ξ゚听)ξ「……」

 併しツンにはまるで其の意思が無いのか、先程受けた刀を抛ると、ショボンが其の体勢を立て直す
のを凝っと見ていた。

157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:25:25.05 ID:VWhMj0ABO
支援

158 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:26:26.18 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「……只では済まさない、と云った所かな」

 呟きつつも其の意を理解出来ぬ儘、ショボンは刀を拾い上げる。

 (´・ω・`)「固いね。まるで普通に立ち向かっても歯が立たないよ。あぁ、背が痛い」
ξ゚听)ξ「……」

 云ってショボンは再び構えを取った。併し次なる構えは上段でも中段でも、況(ま)してや下段でも
ない。左手は遊ばせた儘、右手のみで刀を持ち、真直ぐと突き出したのだ。

(´・ω・`)「此れも、もう要らないな」

 懐から煙管を取り出すと、ショボンは見せ付けるようにして掲げた後、其れを後ろへと抛った。

ξ#゚听)ξ「……」
 (´・ω・`)「気に障った……かな?」

 左足を引き、刀を持った手を幾許か曲げると、ショボンはツンの顔を見据えた。両者どちらも
微動だにせず、ただ風が吹くのみに時が流れていく。

 変則的な構えを取っているショボンであるが、其の思惑は刺突をせんとするものだった。
下手に刀を振り回しても自らに勝機が無いことを悟り、唯ツンの眼を潰すことのみを念頭に、
此の構えを取った。
 其の眼さえ潰してしまえば此方の価値なのだ、とショボンは口元を僅かに吊り上げた。

 そうして対峙すること幾許。不意に風に乗って一本の黒い羽根が舞って来た。月明かりを浴び
夜を舞う羽根は次第に勢いを失い、力尽きるようにして地面へ落ちていく。

 其れを合図に、地を蹴る音がした。

159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:26:36.90 ID:muFq4e/2O
支援

160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:28:02.19 ID:VWhMj0ABO
支援

161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:28:27.86 ID:VWhMj0ABO
支援

162 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:28:38.02 ID:pvNpc7Oh0
ξ#゚听)ξ「ァ阿!」

 先に踏み込んだのはツンであった。叫号(きょうごう)と共にショボン目掛けて地を蹴り、一直線に
向かっていく。其れに対しショボンは構えた儘微動だにしない。

 やがて状況は切迫。月光を静かに反射していたショボンの刀が闇を裂き光芒一閃(こうぼういっせん)、
ツンの顔目掛けて放たれた。目も絢な白刃の反照(はんしょう)は確かにツンの右眼を貫いた。
 やったか。そうショボンが安堵したのも束の間、併しツンの目は光を失わず、ショボンへ袈裟懸けに
其の鋭利な鉤爪が振り下ろされた。

(;´・ω・`)「ぐ……」
ξメ听)ξ「亞……阿ァ」

 其の儘ショボンは押し倒され、上と下で力比べをする形になった。信じられないことに右眼に刀を
刺された儘のツンがジリジリとショボンを圧して行く。左手で押さえてはいるものの、肩には右の爪が
ぐいぐいと食い込み、刀は左の爪に掴まれ、ショボンは眼前に迫る鬼の形相に恐怖を感じていた。


※叫号=大声でさけぶこと ※光芒=尾を引くように見える光の筋 ※反照=照り返し

163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:29:53.27 ID:muFq4e/2O
支援

164 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:30:35.49 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「流石は至純(しじゅん)の鬼と云ったところか。参ったよ」
ξメ听)ξ「アァ……」
(;´・ω・`)「併し、何故鬼は人を欲したのだろうね」
ξメ听)ξ「……」
(;´・ω・`)「考えてみれば人が混ざっては至純とはいかない。君は何故生まれたんだろうね」
ξ#メ听)ξ「阿……」

 徐々に右眼を突き刺していた刀がツンによって引き抜かれていく。此れが完全に引き抜かれれば
ショボンは両手を押さえつけられた儘ツンの歯牙に掛かることだろう。ショボンは顔面に滴り落ちて来る
血液の温かさを感じ乍ら思いを巡らせていた。

(;´・ω・`)「僕は、君は、何故……」
ξ#メ听)ξ「阿ァァ!」

 将に引き抜かれんとした時、不意に刃が甲高い音を立てて折れた。其処に生まれた僅かな隙に
ツンは一撃を喰らわせんと其の右の手を振り上げたが、対してショボンは左手で剣指を作り、
其の儘引くことなくツンの左眼を突き刺した。

ξ;メ-)ξ「ッ!」

 そして此の瞬間、鬼の眼が二つ閉じられた。ショボンは此の時を待っていた。否、出来るなら
彼も此の時など来なければいいと思っていた一人なのかも知れないが。
 どちらにしろ、ショボンは言霊を吐いた。其れは、山ノ神を呼ぶ言霊。


※至純=この上なく純粋なこと

165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:31:29.06 ID:VWhMj0ABO
支援

166 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:32:08.58 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「鬼の眼は封ぜられた! 山ノ神よ、今此処に山の安寧を紊乱する鬼を差し出そう! 
      山ノ神よ、鬼の眼は封ぜられた! 現れよ!」

 言霊を吐いて瞬刻。森も動物も風も土も、全てが時間を止められたかの様に静止した。
連続よりも遥かに永い停止の中で、人は笑い或いは叫び、鬼は戦慄(わなな)いた。

 そして、烏が唖唖(ああ)と鳴いた。

ξ;メ-)ξ「――ッ!」

 引き攣った声だけを残し、ツンは地面に背中から叩き付けられた。撥音(ばちおと)の様な響きが
辺りに木霊し、森が俄に騒ぎ始めた。


※唖唖=カラスの鳴き声 ※撥音=バチで弾き鳴らす音

167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:33:34.25 ID:VWhMj0ABO
支援

168 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:34:12.32 ID:pvNpc7Oh0
 風が叫び、森が鳴く。月は隠れ、地は黙る。而して後、其れはゆっくりと姿を現した。

 / ,' 3 「鬼よ。其の命、貰い受けに来たぞ」

 夜天を仰ぐ彼等の目に映ったのは、紅く仄光る巨大な存在であった。此れが山ノ神かと呆ける
ブーンであったが、併し其れを予見している筈のショボンさえもどういうことか、天を仰いだ儘
呆けていた。

(;´・ω・`)「……違う」

 其の声音は明らかに怯えていた。鬼を目の前にしても果敢に立ち向かった彼が、今自ら呼んだものに
恐怖していた。

169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:34:32.89 ID:/wIXSY/wO
支援

170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:35:09.30 ID:VWhMj0ABO
支援

171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:35:19.87 ID:muFq4e/2O
支援

172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:36:13.26 ID:VWhMj0ABO
支援

173 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:36:23.95 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「そんな……まさか……」
( ^ω^)「ショボン、君は此の期に及んで何を……」
(;´・ω・`)「嘘だ……嘘に違いない。そんな筈がない。何を莫迦げたことを考えているんだ。僕は……」
( ;^ω^)「どうしたんだお? ……ショボン、君、其の手は……」
(;´・ω・`)「え?」

 ブーンが指差した先、ショボンの両の手に何時の間にか黒い羽が沢山乗っていた。否、乗って
いるのではなく、其れ等は生えていた。手は疎(おろ)か腕にかけてまで、びっしりと黒い羽が生えて
いたのだ。

(;´・ω・`)「違う! 違うぞ! 僕には記憶がある! デレと過ごした日々の記憶があるんだ! 
      両親だって居る! 僕の両親は――」

 天を仰いだ儘一息に叫ぶと、ショボンは唐突に黙ると涙を流した。其の涙も頬から生える羽に
隠れてしまったが。

(´・ω・`)「僕の両親は……どんな顔をしていたんだ?」

 気付けば体は折り畳まれる様に縮み、其の体躯には大きくなった着物がするりと脱げると、
既にショボンは全身を黒い羽毛に包まれていた。

174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:37:25.05 ID:pSFzR53VO
http://hobby9.2ch.net/test/read.cgi/hobby/1176334855/
http://hobby9.2ch.net/test/read.cgi/hobby/1178455379/
http://hobby9.2ch.net/test/read.cgi/hobby/1179122685/
http://hobby9.2ch.net/test/read.cgi/hobby/1179109985/
http://hobby9.2ch.net/test/read.cgi/hobby/1179125676/
http://hobby9.2ch.net/test/read.cgi/hobby/1185367838/
ビッパの皆様埋め立てに力をお貸し下さい
7年間苦しんでおります

175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:37:54.58 ID:MLgDnOZKO
これは思わぬ急展開!

176 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:38:10.57 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「僕は……あの時……死んで?」
( ;^ω^)「……」

 其の姿は正に烏其の物であった。何が起こったか解からないと云った風のブーンを置き去りに、
ショボンは崩れる様に地面に倒れた。

ξ;メ-)ξ「ァ! 亞ァ!」

 そして一方では叫び、藻掻くツンの足元にドロドロとした粘液が迫っていた。其れに気付くや否や
ブーンはツンに駆け寄り、近くに落ちていた刃の折れた刀を手に取り粘液を散らそうと振り回し始めた。

( ;^ω^)「くそっ、近寄るなお! ツンに、近寄るなお!」

 併し幾ら散らしたところで粘液の出るのが収まるわけもなく、また収まったとしてツンを解放すれば
ブーンは殺される身である。
 だがそうせずには居られなかった。縦令此の後直ぐに命を落とすとしても、今抵抗をせずに死ぬ
ことは決してしたくなかったのだ。

177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:38:12.78 ID:VWhMj0ABO
支援

178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:39:11.19 ID:VWhMj0ABO
支援

179 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:40:11.21 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「ブーン!」

 不意にショボンの声が響いた。其の声色も前のものより幾許か変質していたが、其の抑揚は
未だショボンの様であった。声の方をブーンが見ると、羽ばたき自分に向かって来ているショボンの
姿があった。
 そうして近づいてきたショボンがブーンの傍らに着地すると、突如として落雷が起こった。
落雷は地を裂き、辺りの粘液を何処かへとやってしまった。併し未だ其の存在も顕(あらわ)な
山ノ神を見るに、直ぐに復ツンを取り込もうとする粘液が湧くのは目に見えていた。

(;´・ω・`)「ブーン、お願いだ! 僕を殺して呉れ!」
( ;^ω^)「な、何を云っているんだお!」
(;´・ω・`)「僕は、僕はショボンだ! 決して鴉なんかではないんだ!」
( ;^ω^)「落ち着けお!」
(;´・ω・`)「頼む! 頭がおかしくなりそうだ! 殺して呉れ!」

 気付けば狂乱するショボンに呼応する様に、辺りは荒れ始めていた。辻風が舞い、霰(あられ)が
降り、雷鳴が轟き、木が燃える。加えて正体の掴めぬ不気味な粘液が地を這い、背にはツンの
空を裂く様な悲鳴が聞こえてくる。そしてショボンの殺して呉れと懇願する声。其の光景はブーンには
まるで地獄図の様に感じられた。

180 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:42:09.78 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「気を確かに持てお! 好いか、どの様な形(なり)でも君はショボンだ! ツンの父親だ!」
(;´・ω・`)「僕は! 此の手は!」
( ;^ω^)「ショボン!」
(;´・ω・`)「僕はショボンなのか! なぁ、ブーン! 教えてくれ!」
( ;^ω^)「云うまでもない! 君はショボンだ! 君自身よく解っている筈だ!」
(;´・ω・`)「あぁ、駄目だ……駄目だよ、君。僕には、此の躰を一生知らぬ振りして生きていくなんて……
      そんなことは無理だ」
( ;^ω^)「今こうして話しているのは君ではないか!」
(;´・ω・`)「そんなもの……誰に保証が出来ようか。僕の頭が狂ってしまえば、あぁ、お終いだ」
( ^ω^)「僕が保証するお」
(;´・ω・`)「それじゃあ此の躰は何だって云うんだ! ショボンの躰は畜生だったと云うのか!」
( ^ω^)「形が何だと云うんだお。君は毎朝自分の姿を見ては自分であると確認しているのかお」
(;´・ω・`)「危弁を弄するな!」
( ^ω^)「危弁などでは無いお!」

 慌てふためくショボンを一喝すると、ブーンは云い聞かせる様にして捲くし立てる。

181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:42:16.40 ID:VWhMj0ABO
支援

182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:44:11.34 ID:VWhMj0ABO
支援

183 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:45:20.27 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「好いか、其の姿形など所詮は他人との係わりに於ける産物だお。そんなもの、変わらずとも
      少し態度を変えるだけで『君は君でなくなった』と云われる始末。自分が自分であると云う
      他人の評価が欲しいのならば僕が呉れてやるお! 其れで満足せんのなら、君はショボンで
      あると云うことを行動で示せば好い! ショボンがショボンたる為に相応しい行動をしたならば、
      君はやはりショボンであるお」
(´・ω・`)「……ショボンたる為に……」

 すると其の時、不意に此れ迄の嵐が嘘の様に静まり返った。目紛(まぐ)るしく変化する景色に翻弄され乍らも、
ブーンは凝っとショボンの顔を見た。

( ^ω^)「……ショボン?」
(´・ω・`)「……あぁ、そうか。そう云うことか……ならば若しやあの時の彼女も……」
( ^ω^)「……何が、だお」
(´・ω・`)「済まない……ツン、本当に済まなかった……」
( ^ω^)「ショボン!」
(´・ω・`)「……僕は……ショボンは、ツンの父親だ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「なれば僕は娘の幸せを願うのだろう」

 ショボンの視線の先、其処に磔にされた鬼が、いつの間にかツンに戻っていた。其の体躯のしなやかさも、
其のふっくらとした顔つきも、全てが在りし日のツンの儘であった。

184 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:46:27.72 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「此れは……」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「君は……いや……」

 何かを云おうとして、併し口を噤んだブーンの云わんとした言葉を理解したのか、やがてショボンが
ゆっくりと語り始めた。

(´・ω・`)「ブーン、此の力を鑑みるに僕は確かに鴉の様だ。併し今の言動、そして其の元となる心は
      ショボンのものだ」
( ^ω^)「ショボン……」
(´・ω・`)「僕はショボンだ。だから君、僕を殺せ」
( ;^ω^)「……な……どうしてだお! 君が君であるならば其れで好いではないか」
(´・ω・`)「僕を殺さねば山ノ神は退かん。ツンの幸せが来ないのだ。僕に僕として、ショボンとして
      死なせて呉れ」
( ;^ω^)「……莫迦な」

 其の言葉にブーンは頭痛を感じ、眉間の辺りに指を添えた。あまりにも考えることが多すぎるのだ。
併しショボンはまるで気にせず話を続ける。

185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:47:38.40 ID:VWhMj0ABO
支援

186 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:48:08.81 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「……それに、だ。……僕の中から鴉が増えようとしている」
( ^ω^)「……何?」
(´・ω・`)「今肌に感じて解せた。鴉は移るのではなく、増えるのだ。僕の中に多くを占める何かが
      今外に出ようとしているのを感じる。縦令僕が残っても増えた鴉がツンを狙うかも知れん」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「頼む」
( ^ω^)「僕に……君を殺せと?」
(´・ω・`)「ああ」
( ;^ω^)「……」

 其れを聞いてブーンは閉口した。結局先ほどと主張は何等(なんら)変わっていないではないかと。
ブーンは大いに悩み、大いに嘆いた。今こうしている間もツンの許には其の存在を亡き者にしようとする
粘液が迫っているのだ。併し乍ら、其の代わりに目の前の男を殺すなどと云う選択をしろと云うのだろうか。

187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:48:21.31 ID:6PoYk8Kk0
支援

188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:48:44.14 ID:VWhMj0ABO
支援

189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:49:58.03 ID:VWhMj0ABO
支援

190 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:50:31.25 ID:pvNpc7Oh0
 併し目の前の男は既に死することを決している様であった。自分が如何な道徳を説いたところで、
此の男の自尊心を傷付けるだけなのではないか。仕方の無いことなのかも知れない。と、そこまで
考えてブーンは穏やかな顔つきのツンを再び見た。そして意を決した。

( ^ω^)「……わかったお」

 ブーンは頷き、辺りを見回した。すると丁度好い事にショボンの煙管が落ちているのを見つけた。
ブーンは其れを拾うと暫し見詰め、後にショボンの顔を見た。其れを受けショボンが頷いた。

 ゆらり、と煙管が持ち上げられた。其れを見てショボンは目を閉じる。一瞬間全てが停止した様な
併し乍ら穏やかな時が訪れた。そして煙管はゆっくりと下ろされ、ずぶり、と深く肉を突いた。間違いなく
命を奪う一撃であった。

191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:52:03.63 ID:VWhMj0ABO
支援

192 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:52:29.07 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「……君、何を」
( ^ω^)「……」

 但(ただ)、付け加えるならば、奪われた命はショボンのものではなかった。煙管はブーンの胸に
深々と刺さり其の白を真赤に染め上げていたのだ。

( ;^ω^)「……ぐ、ぶ!」
(;´・ω・`)「何をしているんだ!」

 びちゃり、とブーンが地面に褐色の血を吐いた。そして尚も止まる気配の無い出血に其の手が
濡れているのを見て彼は微笑んだ。

( ;^ω^)「……考えてもみるお。君が居なくなったとして、此の先誰がツンを支えていくんだお」
(;´・ω・`)「何を云う! 君が死んでしまっては……」
( ;^ω^)「あのようなことを云って何だが……やはり僕は……鬼でない彼女が好いのだ。ハハハ……」
(;´・ω・`)「君は……まさか……」

 其の言葉に答えるが如くブーンは紅を差した様に真赤な口元を綻ばせた。そして其の手を差し出し、
何も持たぬショボンに云った。

193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:53:47.34 ID:VWhMj0ABO
支援

194 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:55:03.90 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「さあ、ショボン。其れを……寄越すお」
(;´・ω・`)「君は……其の意味を解っているのか!」
( ^ω^)「併し君……最早手遅れだお」
(;´・ω・`)「……」

 暫し黙ったショボンは其の後頷きブーンに近寄った。そして青白いブーンの顔を凝っと見つめ、問うた。

(´・ω・`)「一つ……一つ訊かせて呉れ。君は、自分が人でなくなってしまうことに恐怖しないのか?」
( ^ω^)「何、ツンは隠だ。……僕が人でなくなったからと云って……大したことはないお」
(´・ω・`)「君でなくなってしまってもか?」
( ^ω^)「今、君は……ショボンは、立派に彼女を救おうと……しているお」
(´・ω・`)「……有難う」

 其の声を聞くと、息も絶え絶えなブーンは地面に膝を突き、ばたりと倒れた。死に際と云うのは
動(やや)もすれば惨めに泣き叫ぶものであるが、彼の死に顔は実に晴れやかであった。

 其れを見届けるとショボンはブーンに向けて両の翼をゆっくりと広げ、高らかに啼いた。啼いて後、
ショボンは漸次(ぜんじ)体から力の抜けていくのを感じたが、それでも微動だにしなかった。自分が
自分たる為に、又恥じることの無い清らかな決意を示す為に、決して其の翼を畳まなかった。


※動もすれば=とかくなりがちである ※漸次=次第に

195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:55:41.24 ID:6PoYk8Kk0
支援

196 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:57:00.51 ID:pvNpc7Oh0
 そうして全身の力が抜けきったのを感じると、ショボンは安らかに眠る二人を見た後、山ノ神を見上げ、
最後は天を仰ぎ呟いた。

(´・ω・`)「……こんな夜は、喉が渇く。君もそうだろ? なぁ、デレ」

 答えは無く、迅雷が天を裂いた。瞬間稲光に照らされた山は、併し再び暗闇に包まれる。其処に
最早山ノ神の姿は無かった。

 而して後、寂寥とした景色に雪が降り始める。音も無く、ただ深々と降る泡雪が全てを覆い、白く
染め上げていく。其の皎白(こうはく)な世界には既に誰の影も無い。雪華(せっか)咲き誇る山の夜が、
ただ蕭々(しょうしょう)と更けていく許りであった。


※皎白=真っ白 ※雪華=雪を花に喩えたもの ※蕭々=物寂しいさま

197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:57:16.62 ID:VWhMj0ABO
支援

198 :終章 ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:58:33.39 ID:pvNpc7Oh0
 遠くから鳥の地鳴きが聞こえた。気付けばどうやら眠っていたらしい。僕は手許に広げたままの
本を閉じ、本棚へと仕舞った。何度見たか分からない夢は、自然と溜め息へその姿を変えた。

 あれからもう何年が経っただろうか。必死に駆けてきた僕は、しかし未だに立ち止まることなく
研究に没頭していた。
 かつて彼がそうしてきた様に、今僕もこうして資料を集めては一日中物思いに耽るばかりだ。
ああは為るまいと思っていたのだが、今となっては彼の気持ちが痛いほどよく解った。

 「さて、と……そろそろご飯の時間だお」

 独り言ち、体に染み入る様な入相(いりあい)の鐘を聞きながら、僕は書庫を後にしようと戸に
手を伸ばす。すると力を込めずして不意に扉が開かれ、眼前に夕陽(せきよう)を帯びた小さな
人影が現れた。


※地鳴き=平常の鳥の鳴き声 ※入相の鐘=夕暮れに突く鐘の音

199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/29(日) 23:59:40.88 ID:VWhMj0ABO
支援

200 :終章 ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:59:46.51 ID:pvNpc7Oh0
 「おとーさん、ご飯」
 「……わかった、今行くお」

 人影は斜陽を背に、しかしその顔はまるで旭陽(きょくよう)の様に輝いていた。そうだ、彼女には
未だこれからの未来がある。受けるべき幸福がある。叶えるべき夢がある。そして育むべき愛がある。
だから僕はこの身の限り尽瘁(じんすい)しよう。

 「おとーさんどうしたの? 背中の羽、下がってるよ?」
 「……なんでもないお。さ、お母さんが怒る前に早く行くお」

 次は、この子の為に――



−終−



※旭陽=朝日 ※尽瘁=自分を省みず全力を尽くすこと

201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:01:00.55 ID:zu/zdN6cO
支援

202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:02:20.84 ID:/xwyfPonO


203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:03:10.13 ID:SWVsAXfB0
乙!

204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:03:36.98 ID:zu/zdN6cO
乙!!

205 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/30(月) 00:04:14.12 ID:LwNyU65f0
 とにかく雰囲気重視で、響きの好きな言葉を入り乱れさせて楽しんだ話。「赤」を「紅」って
書きたくなること一度はあるじゃない。あと尊大語を多用したりさ。中身を補完しつつ、今回は
色々な表現を練習する為に書いてみた。しかし、なかなか使いこなせん。こんな漢字だらけの
文章も、二度と使うことは無さそうだけど。

 改めて見ると、時々取り分け長い文があるな。長くするとデメリットはあるけど……長い文に
魅力を感じてしまう。それでも、やっぱり文章は簡潔にあって、無駄な言い回しはなるべく
避けたほうがいいとは思うんだけどさ。矛盾してるよね。
 でも、それじゃあ無駄とは何か。なんてことになるけど、結局そんなことを議論すること
自体無駄なことで、考えてて訳分からなくなる。それに無駄なものって往々にして自動的に
読み飛ばされるしね。なら少しくらい書いても差し支えなかろうと、そんなことを考えてた。

 それでは、長い時間支援、そして読んでくれて、本当にありがとうございました。

206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:06:51.29 ID:FN/gS7hnO
乙!

207 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:10:36.15 ID:BTmdzJkl0


208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:10:37.94 ID:HVoEYVk90
乙。

209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:13:00.95 ID:zu/zdN6cO
ブーンは一生、鴉のままなんだよな?

ツンの命を狙わんと思うことは、やはりあるのだろうか?

あと、ツンは鬼から完全に離脱してて、二度と鬼にならないのか?

210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:19:51.85 ID:ajcmuSxL0
乙! いつかこんな文章力がつきたいぜ

211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:20:37.25 ID:8wYzZVN9O
>>209
ツンをずっと人にするためにブーンは鴉になったんじゃね?

212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:25:57.86 ID:zu/zdN6cO
>>211
あぁ、そうか!

しかし俺は、読解力、思考力が足りんなぁ……。

213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:32:06.50 ID:quXWEyfZ0
よくやったと言いたいが、最後のほうイマイチ理解できんかった。
でも雰囲気は良かったよ。おつかれさま。

214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:39:21.94 ID:quXWEyfZ0
ちがうな、途中からずっと、だな
俺の脳みそには、漢字とかが難しすぎた

215 : ◆HGGslycgr6 :2007/07/30(月) 00:43:56.18 ID:LwNyU65f0
 やっぱこれ分かりにくいよなぁ。
とにかく全く自重しないで書いたから、読みにくいといわれれば頭を下げるしか無いと言うか……。

 いや、なんというかそろそろブーン系をこうして書く時間も作れなくなりそうだったから
最後に心残りだったことを色々好き放題やりたかったんだ。
 ともあれ、最後まで読んでくれたことは本当に嬉しいです。ありがとう。本当に。

216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:49:59.67 ID:zu/zdN6cO
>>215
戦闘シーンもその一つか?

217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:51:14.42 ID:LwNyU65f0
>>216
そう。ぶっちゃけ若干浮いてたしょ?

218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:54:33.80 ID:zu/zdN6cO
>>217
うん。明らかに雰囲気違ってた。
どうしても描いてみたかったのかなぁ、なんて思ってた。

時間が取れなくなるってことは、とうとう自分の夢を実現するのか?

219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 00:59:50.56 ID:LwNyU65f0
>>218
未だ絵も全然描けないし曲作りも納得いかない。夢なんて全然遠いよ。
なんて語ってたらまた別スレが沸騰しそうだな。自重しようか。

220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 01:04:31.90 ID:zu/zdN6cO
>>219
では。いつかまたひょっこり現れるのを、勝手に期待しております。


乙でした。


221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/30(月) 01:08:05.31 ID:PX5/Plke0
うぃ
あなたの作品は大好きだ

これはまだ読んでないんだけどね

最後に…オレも心残りないよう頑張ろうと思った


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